いざ依頼人の屋敷へ
翌日、俺、荒波さん、槙田さんの3人は荒波さん(の分身)の運転している車にて現場へ向かいながら、槙田さんから事件の詳細を聞こうとする。
「今回はどんな事件なんですか?」
「詳しくは依頼人が自宅で話すからってまだ何も聞いていないわ。」
「そんなのでよく依頼受けることになりましたね。」
「今回は相手が相手だからどうもね。」
運転をしていない方の荒波さんが真後ろに座る槙田さんに振り返りながら尋ねるも、槙田さんも何も知らないらしい。
SK機関は完全な公的機関ではない。調査や研究、人件費などで膨大な資金が必要らしく、一部出資の元成り立っているらしい。そのため、それに応じて出資者への融通を効かせることも多々あるのだそうだ。
俺は今回が初めてだが、以前あった話だと出資者から雇用を要求されたことがあるそうだ。もっとも、その要求は本人、てか荒波さんは断ったらしいが。
今回もよくある要求の1つで、内密に捜査してほしいとのことだ。
どんな事件なのかな...
今まで、毒殺事件、連続自殺事件と能力の恐ろしさを見せられていたため、俺は今回も不安が多分にあった。しかし、一方で次はどんな能力持ちに会えるのか、不謹慎ではあるのだが、ほんの少しだけ興味を持っていた。
荒波さんの分身による運転で1時間ほど経った頃、ようやく現場にたどり着いたのだが、着いた先はなんと巨大で真っ白な壁と頑丈な鉄柵の門で囲われ、色とりどりの花と緑あふれる庭を持つ豪邸だった。
広大な庭には巨大なプールが設置されている。
お城と言われても一瞬信じてしまうレベルの大きな家。何部屋あるのかわからないくらい大量の窓。窓。窓。これ、敷地に野球スタジアムが丸々入りそうなくらいじゃないか?
「あ、あの...
何か建物大き過ぎる気がするんですけど...
こんな建物、現実に存在したんですか!?」
「そうみたいね。
依頼人を待たせても悪いし、早速中へ入りましょうか。」
「えっ、今からこれにお邪魔するんですか?」
「何言ってるのよ、刄。
依頼なんだから当たり前じゃない。」
「で、ですよねー...」
荒波さんや俺はその巨大で豪華な
どんな時でも冷静さを保っている槙田さんは
とやはり普段通りに返してきた。
俺にはそんな対応できませんよ、槙田さん...
俺は心の中で完全に槙田さんに対して脱帽した。
物怖じする俺と荒波さんを先導するように槙田さんがチャイムを鳴らすと、まだまだ若い、20代前半くらいの黒髪ショートの使用人が門までやって来た。
「SK対策課の人たちですよね?
私がこの度あなたたちの対応をさせて頂く使用人の河合と申します。
本日はよろしくお願いします。」
河合さんは名を名乗ると、深々と丁寧なお辞儀をした。流石この豪邸で働いている使用人と言うべきか、その所作1つ1つが細やかである。
「よろしくお願いします。」
「「よ、よろしくお願いします!」」
槙田さんも河合さんに負けないくらい丁寧な所作で深々とお辞儀を返す。俺と荒波さんもこの豪邸の豪華絢爛さに飲まれつつも、槙田さんにつられ、そわそわしながらも何とかお辞儀を返した。
「では、早速依頼人に会わせてもらってもいいかしら?」
「かしこまりました。」
鉄柵の門を警備員に指示を出して解放させると、河合さんは俺たちを先導するように豪邸へ向けて歩幅をややゆっくり目に歩き始める。
「では、これから皆さまを旦那様の部屋までご案内いたします。」
「よろしくお願いします。」
「「よ、よろしくお願いします!」」
河合さんに先導されるまま、俺たちはとうとう豪邸の中へ入って行った。凛とした態度で礼を伝える槙田さんに遅れて、俺たちも慌てながら簡潔な感謝の意を伝える。
この豪邸は室内でも靴を履いたまま歩く家であるらしく、俺たちも例外に漏れず靴でそのままカーペットの敷かれた廊下を1歩1歩歩いていく。
もちろん俺にとってこんな豪邸を、ましてや靴を履いたまま歩くなんて行為は初めての体験である。俺がこの豪邸の中にいることに対して、かなり場違いな雰囲気が漂ってきているような感じがする。
俺、そして隣で同じく恐れ多いと言う気持ちで隣に並ぶ荒波さんは、前を悠然と歩く河合さんと槙田さんに置いていかれないように気をつけ、おびえながらもその歩を進めていった。