プロローグ 豪邸の盗人
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時刻は夜8時。
夜風が吹き、樹々がザワザワと音を立て揺れてゆく。どこか近くで飛行機が飛んでいるのか、あの独特の航空音が薄らと混じっている。そんな中、ある建物の中では一際異なる音が鳴り響いていた。
ウィーーーーーン
ウィーーーーーン
独特の機械音を鳴らしながら、警報機がけたたましく鳴り響く。警備員たちが必死で取り囲んでいたガラスケースの中身の存在を確認しようとするも、視界はアイツが投げた煙玉によって奪われている。
「ア、アイツはどこにいるんだ!?」
「き、消えました!!」
あの怪盗は忌々しげなことに、今日も予告時間ピッタリにやって来た。直前まで近辺に存在しなかったはずなのに、気づけばあの怪盗が視界を塞ぐ真っ白な煙と共にこの場に姿を現していた。
捕まえようとする警備員たちを歯牙にもかけず、いつものように狙いの宝石を盗む。そして、あの怪盗がガラスケース付近に投げつけた煙玉により湧き起こる煙と共にその姿を消していた。
「やはり、我々の手には負えません!
彼らに応援を要請しましょう!」
これまで3回もやられっぱなしで、散々コケにされていた。手を替え品を替え、様々な策を練っていたにも関わらず、尽くそれら全ての策を嘲笑うかのように全て呆気なく盗んでいく。
「そうだな。
これ以上、被害が拡大するよりはいいだろう。
早速雇用主に提案してこよう。」
たとえ雇用主の頼みといえど、これ以上盗難によるに被害を出すよりかは遥かにマシだろう。これ以上の盗難が表に発覚した場合、周囲の人々に侮られてしまう。
現に先程も雇用主の親族のうちの1人が、この家の警備についてさりげなく不安を客人に話しているところをお見かけした。あの方の狙いとしてはおそらく当主の脚を引っ張りたいだけだろうが。
現状はその程度の問題に過ぎないが、今後このまま被害が拡大していくと取引先等からの信用問題に関わるため、いい加減決断すべきだ。
そのため、私は情けない声を上げる部下の声を仕方ないと思いながら、素直にその意見を取り入れることにした。
「か、彼らに頼むのか!?」
しかし、私が雇用主かつこの家の当主である旦那様に彼らへ頼むことを提案したところ、旦那様が驚いた顔をして私を揺さぶりながら、その案を却下しようとする。何回か私含め部下が提案するも、今まで散々彼らに頼ることを避けていたので、その態度はもっともであろう。
「ですが、旦那様。これ以上は被害を隠しきれません。
現状はまだ問題ございませんが、このままだと警備上の不備だと思われかねません。
取引先の方々からの信用を失うよりかは、被害拡大阻止を兼ねて彼らの助力を要請する方が得策かと思われますが。」
私がもうどうしようもない、と諦観の思いを込めながら嘆願すると、旦那様はようやく重い腰を上げたのか、渋々彼らに協力要請を求めることにした。
「し、仕方がないか...
どうせあの事は誰にもバレないだろうし、最悪彼女に依頼すれば...」
「旦那様?
何かおっしゃられましたか?」
「いっ...いや。
何でもないぞ。
だ、だか、事件については私が直接説明する!
お前は彼らに明日こちらへ来るように伝えてこい!
わかったらとっとと連絡してこい!!」
彼が横柄な態度を取りながら私に彼らへの連絡を命令する。そのため、私は部下の1人に指示を出してその場を任せてから、早速彼らへ連絡を取ることにした。
「最悪彼女にまた依頼すれば...」
後ろから微かに漏れる旦那様の小声は私以外誰の耳にも届かなかったのか、誰も返答しなかった。
彼らならば全ての問題を解決させるに違いないと、心の底から期待する。私は薄らと笑みを浮かべ、足取りを早めながら屋敷に備えられている自室へと戻った。
自室に戻った私はとあるところへ電話をかける。彼らとの電話が終わり、明日屋敷に来てくれるとの返事を聞いた私はホッと息をついてベッドに座り込んだ。その後、部下にこの事件に関することを書類にまとめるようメールで指示すると、そのままベッドにもたれこむ。
ようやくこれで全て終わる...
私の今までの苦労がようやく報われる日が来たのだ。
そう。
彼ら、SKに関わる事件に特化したSK対策課に期待して。
彼らならばきっと...