「拍子抜け」
「は、はあっ?
なんでSK機関の奴らが俺の母さんと父さんを殺すんだよ!?」
まともに答えてくれるとすら思ってなかった女からの予想外の答えに、俺は冷静さを失いながらも何とか目の前の女に聞き正す。
「そこまでは私も知らないわ。
まぁ、ボスなら知ってるかもしれないけど。」
目の前の女は本当に知らないようで、特に不審な行動が見当たらなかった。
「じゃあ、ひとまずボスに会わせろ!」
「組織に入ってくれるならいいわよ。」
目の前の女からはこれ以上の情報が手に入れられないと悟った俺は、より詳しい情報を手に入れるためにボスとの面会を望むも、女は組織入りを条件としてきた。
「それは後回しだ。先にボスに会わせろ!
それで俺の母さんと父さんを殺した真犯人が誰か教えろ!」
「それは無理な相談ね。
ボスが何の役にも立ってないあなたにタダで協力するわけがないわ。」
鈴村という男の言動や、あの怪しげな入会サイトから組織に対して不信感しか抱いていない。
そのため、組織に入会するか否かはさておき、ひとまず俺は再度母さんと父さんの死の真相を知ろうとする。
しかし、その条件は当然受け入れられないのか、女は間髪入れずにバッサリと断ってくる。
「じゃあ、交渉決裂だな。
力づくでも聞き出させてもらう。」
「あなた程度の能力者に私を倒せるかしらね。」
女は口先だけで、悪びれた様子を見せないまま、俺の方に歩いて来る。そして、周りにあった机や椅子などが四方から勢いよく飛んで来た。
俺は自身の身体を浮遊しながら近くの部屋へ逃げ込み、そこの机や椅子を浮遊させることで盾代わりにする。
「やはり、あなたも私と似たようなSKのようね。でも、能力的には浮かせることしかできないようだから、せいぜい私の劣化版ね。
それに、それなら私の方が経験豊富だから勝てるわね。」
俺は近くの浮遊している机や椅子を盾にするも、女が飛ばしてくる机や椅子の方が圧倒的に多い。その上、俺と違って対象物に触れなくてもSKを行使できるため、弾切れが発生しない。
俺は盾を全て失う前に、女が飛ばしてきた机で割れた鏡から飛び出そうとした。
しかし、女はそんな俺の行動を予測してたのか、窓から離脱する俺の身体にピンポイントで椅子をぶつけてくる。俺は衝撃でバランスを崩し一瞬墜落しかけるも、何とか空中で姿勢を保つ。
「そんなことで逃げ切れると思ったのかしら。」
「はぁ...はぁ...」
女は窓辺から俺の方を見ながらクスクスと笑うが俺は呼吸を整えるだけで精一杯だった。
俺の浮遊と違って、女の念動力は物体のみが能力の対象なのか、自身の身体を浮かせるようとしない。そのため、空中戦に限っては何とか一定の距離を保てている。
このまま逃げることだってできる。
ただ、その場合母さんと父さんの死の手がかりを失ってしまうことと同義だ。
俺は空中で体勢を整えながら、何とか反撃の策を考える。まず、手元にあるもので浮遊できるものはスマホと財布、鍵、衣服、それに靴ぐらいだろうか。一方で敵である女は周辺にある机や椅子、しまいにはロッカーや窓など多種多様な物体を飛ばせてしまうのだろう。
現状、質、量ともに到底叶いそうにない。
「もう一度だけチャンスをあげるわ。
あなた、私たちの組織に入るつもりはない?」
「えらく気前がいいな。
一度断ったやつを何でもう1回誘おうとするんだ?
普通隙を見て反撃されると考えないか?」
敵対した者へ再度の機会を与えるなんて到底あり得ない。罠だと思いつつも現状ここから何とか打開策を掴むしかないと考えた俺は素直に理由を聞くことにした。
「理由は3つよ。
1つ目はボスから命令されているから。詳細は私も聞いてないから知らないけど、あなたの力が必要になるらしいわ。
2つ目はSK機関へ恨みを抱きそうな人物は仲間になりやすいから組織としても積極的に取り入れたいのよ。
そして、肝心な最後の理由はあなたが私の好みだからよ。やっぱりいい男は殺したくないじゃない?」
俺は3つ目のどうでもいい理由に思わず拍子抜けしてしまい、身体から力が抜けてしまう。一瞬能力の発動を止めかけるところだった。
「ひとまず話聞くだけでもいいか?」
「えぇ、いいわよ。
ちなみにその後私と一夜を過ごさない?」
「...それは保留で。」
呆けた顔を直せないまま、俺はひとまず投降することにした。女は先程までの臨戦体勢をやめ、妖艶な笑みを浮かべながら夜の誘いをしてくる。
苦笑いを浮かべながら女の誘いを保留にした俺は、先程までとは一変して軽やかな足取りで歩き出す女の後を、自身の体をフワフワと浮遊させながらひとまずついて行くことにした。
第3章はこれで終わりです!
章終わり恒例の登場人物紹介後に第4章突入します!!