エピローグ 悠馬の決意
凄惨な光景を見たことによるショックから何とか回復してきた俺たちは、悠馬に外で何が起こっているかを掻い摘んで説明した。
今回の件で幸いだったのは、元副支店長の家の周辺には漂う異臭からか誰も住んでいなかったため、死体の処理にと荒波さんが呼び寄せた調査課の人員が来るまで誰もその2人の死体を目にしなかったことだろう。
その後、俺たちは操血の能力を持つ娘に会いに行っていた涼太と槙田さんが迎えに来るまで、玄関先にて壁にもたれかかりながら休息を取っていた。
俺は涼太と悠馬の乗る車で、荒波さんは槙田さんが運転する荒波さんの車で、それぞれ後部座席にて横たわりながら、続けて休息を取ることにした。
対策課へと帰ってきた俺たちは何が起こっているのかを端的に報告した後、仮眠室で心身共に回復するまで休息を取った。
先に回復した俺は未だ眠る荒波さんを起こさないように物音を立てないように静かに仮眠室の外へ出た。
そこにはスマホを触り、壁にもたれかかりながら待っている悠馬と涼太の姿があった。
「大丈夫か、刄?」
「あぁ、もう大分回復したぞ。」
心配そうな表情を浮かべながら悠馬が俺の様子を気にかける。俺は回復したことを伝えるためにも大きく、そして大袈裟に身体を動かして問題ないことを伝える。
「その後の状況について、共有しますね。
まず、操血の能力を持った女性は事件とは無関係でした。これに関しては本人の許可の下、優子さんにも協力していただいたんで間違いないです。
次に真犯人である田中 恵についてですが、どうやら遥か上空からの墜落で即死だそうです。ちなみに、どうやって墜落したかはまだわかっていません。
最後にあの現場にいた男女、そして夫であり元副支店長である田中 幸彦についてですが、田中 恵の死亡後、完全に行動を停止しました。死体の腐敗状況からして、すでに死後数週間は経っていると予測されます。
ただ、キッチンに巨大冷蔵庫があったため、そこで死体の腐敗を遅延させていた恐れがありますが。
って感じですね。」
なんて最後を軽い口調で締めながら、涼太は特に資料も読まずに、暗記している事件概要を口頭で俺に伝える。
「墜落の理由には少しだけ心当たりがあるぞ?」
「えっ、そーなのか、刄?」
悠馬たちと反対側の、仮眠室側の壁にもたれかかりながら、真犯人たちの墜落前の様子を思い出していると、悠馬が驚いた口調で俺の方を見てくる。
「あぁ、あの時、2階には田中夫妻の他にもう1人、黒いコートを着た人がいたんだ。
で、その人物が触れた直後、田中夫妻が一瞬で姿を消し、その後その本人も姿を消したんだ。
それで田中夫妻は遥か上空に飛ばされていたんだから、おそらく瞬間移動の類の能力だろうな。」
瞬間移動。
俺が今1番コピーしてみたい能力だ。
最も、通勤時間とかを短縮できたらいいな程度に軽く思っていたため、こんな凶悪な能力の使い道は今まで思いついていなかったが。
「なるほど。
じゃあ、俺はそのことを槙田主任に言ってきます!」
涼太は俺からの新たな情報を共有しに槙田さんのところへ向かうのかこの場から離れていった。俺は槙田さんがどこにいるか知らないが、涼太はおそらく知っているのだろう。
「ありがとな、刄。
ただ、俺今回何も役に立てなかったな...」
涼太が槙田さんの元へ向かった後、ちょっと顔をしかめている悠馬がいじけながら俺に感謝の意を示す。
「別にそんな時もあるだろ。
悠馬には助けられてることが多いよ。
能力だけじゃなくて、この前焼肉行った時だって俺のこと心配してくれただろ?
あれだけでも精神的に支えられてるよ。」
俯く悠馬に俺は優しく笑いかけた。いつもなら悠馬もこれで素直に納得していただろう。しかし、今回はいつもと違い納得しなかったようだ。
「俺、もっと頑張る。
戦いになったら優衣や刄の足手まといかもしれないけど、もっとできること探してみるわ。」
今も不服な感情はあるのだろう。しかし、悠馬の瞳には僅かながら決意の色が浮かんでいた。
「おう。
それまでは守ってやるから頑張って成長しろよ!」
俺はそんな悠馬を両手で優しく撫で回し、励ますように語りかけた。悠馬は少し照れつつも、俺の撫で回しを受け入れたのか、抵抗せずに素直に撫で回されていた。




