連続自殺事件の真犯人
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ピンポーン
昨日、鳴ったばかり呼び鈴が再び鳴り響く。普段は誰もこんな家を訪れる人なんてほとんどいないため、その時はどこか新鮮な気持ちが私の中に湧いていた。
しかし、今回は違う。玄関からほんのりと漂う空気は警戒。つまり、私が犯人だと確信もしくはそれに近い気持ちを抱いてこの家にやってきているのが伝わってくる。
おそらく今来ている人物は昨日と同じく、対策課の人物だろう。そのうち1人は能力の有無について知る能力を持った高校生らしき見た目の彼だと予想する。
私が彼の能力について知ることができたのは不幸中の幸いだった。何も知らなければ、彼と握手してしまっていた恐れがあったに違いない。たまたま情報収集のために調査課の人伝いに聞き耳を立てていたら、とある事件現場で彼が能力について説明しているのを聞くことができたのだった。
それに加えて彼女の持つ分身の能力について知ることができたのも大きい。あれであちら側の戦い方をある程度推測することができている。
ただ、その現場に居合わせた、もう1人の彼。彼はおそらく能力を使わずに素手で犯人の毒使いを殴っていたため、全く予想がつかなかった。
それに対策課で出会った彼。
私が操っていた駒が対策課の彼に能力を行使されそうになったため、万が一本体への可能性も考慮して能力のパスを切ったため、能力が不明だ。ただ、彼に関しては直接頭を触れられなければいいため、ある程度の対策は可能だ。
私は先ほどまで抱いていた復讐を遂げたという達成感を押さえ込み、冷静に彼らの能力について分析しながら、先程彼に注いでもらったお茶をゴクゴクと勢いよく飲みながら喉を潤す。
あくまで何も気づいていないという体で、彼を使って玄関の客を迎え入れる準備をする。同時に万が一の保険として、便利な駒でありかつ何が起こった時の盾である彼らを玄関近くに待機させることにした。
一通り対策課の対策を終えた直後、彼が時間を稼いでいる間に例の資料を処分しなければ、私が「彼ら」に処分されてしまうことに気がついた。そのことに気づいた私は、彼らのうち1体を呼び戻し、マッチを用いて次々と燃やさせていく。それと並行してこの現状から脱出するための最後の準備である、「あの方」への連絡を取った。
ちょうどメールを送信し終えた頃、何やら下が騒がしくなってきたため様子を見てみると、彼らが家の中へ入って来たようだ。「あの方」への連絡へ集中していたため話は聞いていなかったが、彼らの周囲への警戒する様子から、おそらく私の正体に感づかれたのであろう。
そこまで確信を持たれているとは思っていなかった私は、あくまで冷静に「あの方」からの連絡の折り返しを待ちながら時間を稼ぐ傍ら、すぐに脱出できるように彼を手元に呼び戻すことにしたのだった。
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ピンポーン
悠馬を高校で拾った俺たちは再びこの家にやって来た。俺が呼び鈴を鳴らし、荒波さんと悠馬が後ろで周囲を警戒する。
「はーい」と言う声とともに先日も話した表情筋が固まった、帽子を深く被る男が引き戸を開き、俺たちを迎え入れようと見せかけた行動を取るように俺たちへ挨拶する。
何故見せかけなのかと言うと、玄関の両隣の部屋に武装した男女十数名が構えているからだ。おそらく俺たちを逃げられにくい室内へ引き入れてから、不意を突いて攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。
しかし、現在透視の能力を持つ俺は既に室内の情報を把握していた。そのため、男が玄関の扉を開く直前に、潜んでいる男女について情報を共有していたことにより、真犯人の先手を取ることができる。
さらに言うと2階に2人の人物がいることも把握している。1人は何かの書類を燃やしており、内容までは流石に透視できないが、今この瞬間に破棄しようとしていることから、おそらく事件に関する情報が記載された書類か何かであろう。
そして、昨日来た時と同様にベッドで横たわっている人物。おそらくこの人物が真犯人であると兄さんは考察していた。
「どのようなご用件でしょうか?」
「いえ、今日はあなたではなく、あなたの奥さんである田中 恵に対策課の方までご同行していただきたく、訪問いたしました。」
「あ、それか俺が軽く話聞くだけでもいーぜ?」
これから真犯人である彼女と直接対決が待っている、と緊張が隠せず固くなっている俺をサポートするように、普段通りの軽い口調で悠馬が目の前の男に、いつもの人懐っこい笑みを浮かべながら語りかけた。