兄さんの考察①
「こちらの資料にも記載してあるが、過去4件の自殺事件の特徴として、自殺直前に全員怪我をしているということがわかった。」
「怪我?」
「あぁ、ほんの些細な怪我だがな。
例えば最後に自殺した支店長だと右手の甲を切った怪我があった程度だが。
大なり小なり自殺したものたちは全員どこかを怪我していた。」
確かに俺が起き上がるのを手助けしてもらった時、支店長の手の甲に絆創膏が貼ってあったのを思い出す。
「で、同様に怪我をしているものがこの銀行にもう1人いる。
しかも、その者はこの一連の騒動の間、いつもどこかしらに絆創膏を貼っていたらしい。」
「その人も自殺するかもしれないってことかしら?」
兄さんからの新たな手がかりらしき情報に、槙田さんは相変わらず澄ました顔して尋ねる。
「いや、違うな。
俺の予想だとこの人物が事件に関与している可能性が高い。」
「何でなんだ、兄さん?」
犯人の次のターゲットではなく、事件に関与していると断言する兄さんの思惑がわからず、俺は素直に教えてもらうことにした。
「その人物が元副支店長の親友の娘らしいんだ。
その親友は夫婦共に10年以上前に病気で亡くなっているから事件への関与はあり得ない。
だが、その元副支店長はその娘のことを実の娘のように大切にしていたらしい。
そのため、その娘も元副支店長のことを第2の父と思うくらいには大切に思っていただろうし、銀行を辞めた後も個人的な関わりがあったのだろう。」
「じゃあ、その親友の娘って人が犯人ってことなのか?」
「いや、それもないな。」
実の父親同然のように大切に思っていた元副支店長へ罪を被せてきたことへの復讐かと俺が予想するも、兄さんはまたしても否定する。
「もしその人物が犯人の場合、どうやっても自殺した人を操りようがない。」
「その人が能力を隠してただけなんじゃないのか?」
「いや、その娘の能力はすでに判明している。
その娘は「操血」の能力を持っている。」
その娘は銀行員の中で唯一能力を持っているという人物だった。俺たちは当初から事件に能力が絡んでいると予測していたため、もちろん、その人物についても調査した。しかし、アリバイがあったため事件に無関係だと考えられた。
その上、能力について伺うも自身の体内の血を操作できる程度であり、普段は血行改善と怪我した時の早期止血くらいにしか役立たないと言っていたのを覚えている。
「じゃあ、その娘って人はやっぱり関係ないんじゃないのか?」
俺が兄さんの考察を否定すると、兄さんは首を横に振り、
「おそらくその娘本人は事件に関わっているという自覚はないのかもしれない。」
「関わっている自覚がない?」
「あぁ、おそらくその人物は真犯人に操られていると俺は推測する。」
「真犯人?操られている?」
急展開に進む話についていけなくなった俺に、槙田さんの前に座る叶副主任が、兄さんの考察をまとめたらしき資料を指差し、
「その資料に詳細は書いてあるから、後で読み返すといいわ、刄。」
俺に優しく笑いかけながら告げる。
いつもであれば懇切丁寧に理解が追いつくまで繰り返し説明してくれている2人だが、現在進行形の事件が関わっているため、わかりやすさよりもスピードを優先しているのだろう。
話についていけなくなってきた俺は、配られた資料にじっくりと目を通しながら、兄さんの考察を引き続き聞くことにしたのだった。