涼太の前科
「そういえば、涼太が起こした事件ってどんなんだったの?」
俺が悠馬に食べられた分の追加の肉を焼き上げた結果、なんとか落ち着きを取り戻し、肉を食べ始めた涼太に、そういえば、と聞こうと思っていた質問を投げかける。
「えーと...
それは...
そのー...
あのですねー...」
俺の質問に反応して、涼太がパチパチ、と音を立てて、ためらうように箸置きに割り箸を置く。
話したくないような事情があるのかもしれないと思った俺が「やっぱり言わなくてもいいよ。」と言おうとする前に、
「食い逃げ。」
ためらっている涼太に代わって悠馬が、ニヤニヤと答えた。さっき俺が焼いた肉を食べながら。
「えっ...?」
「食い逃げ。」
「...えっ!?」
「だーかーらー、
く・い・に・げ!」
やはり何回確認しても悠馬からは同じ返事しか返って来ない。それに涼太も全く否定しない。ただハハッと苦笑いをするばかりだ。
食い逃げ。
それが涼太の犯した罪だった。
「えっ...と、食い逃げ...」
苦笑いをしたまま、涼太が
「まっ...まぁ、俺の能力って人の記憶を思い通りにできちゃうじゃないですか。
で、俺、美味しいもの食べるのが好きで、記憶さえ消しちゃえば誰にもバレないやー、って思ってつい調子に乗っちゃって...
ハハハッ...」
「あんときは被害総額、500万くらいしたもんなー。」
「ご、500万!?」
後ろめたさからなのか、いつもより口調がラフになっている涼太に対して、横に座っている悠馬がやれやれと呆れ顔で、手に持つ割り箸をお茶碗の上に置きながら、食い逃げだけで到底達成しないような膨大な金額をサラッと呟く。
俺は金額に驚き、手から箸をポロっと落とした。俺の大声に反応して、店員や他の客など周囲の視線がこちらの様子を伺おうとしている様子がひしひしと伝わってくる。
幸い個室にしていたため、顔を見られていないことに安心し、我に帰った俺は身体を縮めて、
「そ、それは結構繰り返してたんだなー...」
とひそひそ声で涼太に話しかけた。
同じく涼太もひそひそ声で
「そ、そうなんすよ。
...それで今も、給料のほとんどがその返済に回ってて...」
途中で良い淀んだ涼太は続きを言いたそうにモジモジしていたが、なかなか言い出せないって感じで俺から視線をそらしては下を見る。
「どうしたんだ、涼太?
何か言いたそうな顔をして。気にせずに言っていいぞ。」
(さっき俺も涼太に聞かれたくないこと聞いてしまったしな。)
そんな風に思いながら涼太の発言を促すと、涼太は遠慮がちに頭を上げながら、
「だから、刄...
ここの晩ご飯代、奢ってください!」
すがるように涼太が俺にお願いする。後半は強調するために大声になっていた。
俺はようやく涼太と悠馬が俺を誘った理由がわかった。
「お前ら、もしかして...
いや、もしかしなくても、最初から俺にここの晩ご飯奢らせるつもりだったろ。」
「ハ、ハハハッ...
も、もちろん刄と仲良くしたいって気持ちはありますよ?」
若干、いや、かなり呆れ気味にやれやれと苦笑いしながら尋ねてみると、涼太の引きつった笑顔が俺の質問の答えを示していた。
(やっぱりか...)
「いーじゃん、刄。
どーせ、俺たちの中で一番たくさん金、持ってんでしょ?」
一方、涼太とは打って変わって、悠馬は開き直ってパクパクと焼肉を食べている。
「いーよ、わかったよ。じゃあ、ここは俺が奢るから。
好きなだけ食え、食え!」
やれやれ、しょうがない。
ここは一番年上の俺が面倒見てやるか。
「「ありがとー、刄!」」
2人とも、俺の方へ視線を向けてパアッと満面の笑みを浮かべた。