焼肉を食べよう
結局、犯人について特に思いつかないまま、翌日再度捜査ということになり各々帰宅することになった。
荒波さんは義姉と姪の7回忌の準備があるからと、パッと着替えて帰っていき、槙田さんはいつの間にか部屋から姿を消していた。
俺もすぐに帰ろうかなー。
私服に着替えながらそんな風に考えていると、
「刄!
今日、一緒に晩ご飯食べに行きませんか?」
横で着替えていた涼太がいつもの様子からしたら珍しく、積極的な行動でそんな誘いをかけてきた。
「いーじゃん、それ!
行こーぜ、刄ー!」
涼太の隣で、出勤時に着用していた制服ではなく、持参してきたのであろう私服に着替えている悠馬もどうやら来るようだ。
仕事の付き合いも大事だし、悠馬と涼太と、もっと喋ってみたいし...
というわけで、俺はかおりに電話して了承を取ることにした。
義姉さんのおかげですっかり元気になった雪は、ちょうどお風呂に入っていて電話できなかったが、特に問題なく元気であると聞き、安心する。
今日は車で来ていたので、悠馬を助手席に、涼太を後部座席に乗せて、涼太の希望で、晩ご飯に近くの店へ焼肉を食べに行くことになった。
車を運転する俺と、未成年の悠馬はコーラを、涼太は運転手である俺に一言断りを入れてからビールを、それからカルビやタンなどの肉と大盛りの白米3杯を適当に注文した。
「もう対策課に配属されてから2週間ですけど、もう仕事の方にも慣れてきましたか?」
真剣な表情をする涼太が肉をトングで裏返しながら、そんな質問をしてくる。
その視線は俺ではなく、ジッと金網の上でジュワジュワと音を立てている肉を見つめているが。
「あー、いや、全然。
みんなの仕事してる様子見てたらまだまだ半人前だなー、
って思うわ。」
もっと精進しないとなー。
例えば槙田さんなんて、俺より対策室にいる時間が少ないのに、俺の倍以上の資料を処理・整理しているのだ。
しかも、そのまとめられた資料は内容が洗練されていて、誰が読んでもすぐ内容を理解できる。
それに悠馬だって、まだ学生なのに資料の処理スピードは俺とそう大差ない。
荒波さんも分身すれば俺のスピードを追い抜いていく。
涼太は資料の処理スピードこそ荒波さん1人分くらいだけど、能力の派生なのか物事の記憶が得意らしい。資料について尋ねると大体覚えている。
人の話を聞くときにメモこそ取るものの、内容は覚えているため、あくまで聞く姿勢を見せるためだけに、最低限のメモだけを取っているそうだ。
悠馬の提案で1度だけ神経衰弱をしたのだが、結果は2倍以上の差をつけられての大敗だった。本人曰くあくまでオマケみたいな能力のため、瞬間記憶ができるとかいう天才レベルではないらしい。
もっとも、俺からしてみれば十分天才にしか見えないが。
俺は金網の上で育て上げた、ちょうどいい焼き加減の肉を箸で取り、タレをたっぷり付けると白米に乗せ、一緒に口へ流し込む。
そんな風にまだまだ実力不足だと肉を頬張りながら考えていると、
「でも、刄、配属されてから2週間とは思えないくらいの働きだよ?
涼太なんて2週間とかまだまだダメダメの役立たずだったから。」
悠馬も美味しそうに肉を頬張りながら、涼太の過去のことを思い浮かべている。
「だから、わざわざ刄に言わなくてもいーじゃん、悠馬!
しかも、今更だけど、一応俺の方が年上だよ!?」
「えっ、そうだったっけ、刄?」
涼太が金網の上の肉から目線を悠馬に上げると、悠馬はとぼけた顔をしながら、俺に話を振る。
一連の流れを見ていた俺は、思わず食べていた肉を吹き出しかけてしまう。
涼太にしては珍しく、苦笑いしながら俺の方へジトーっとした目線を向ける。。
「あー、ごめん、ごめん。
うん、涼太の方が年上だよ。」
「じ...刄まで俺のこと悠馬よりも年下とか、そんなボケかますのかと思いましたよ。」
笑いを必死に堪えながら何とか謝ると、涼太は少し拗ねたのかボソッと漏らした。
ちなみに悠馬はその隙に金網の上からこっそりと、涼太が育て上げた肉を狙って取っていた。おそらく涼太が俺に注視するように、俺に話を振ったのだろう。
「で、でも、本当、刄、凄いですよ。」
俺が堪えるように笑い終えた頃、目の輝きを取り戻した涼太が俺のことを褒めながら、金網の上から手心を込めて育て上げた肉を食べようとした。
しかし、そこには何もない。だって、悠馬がどさくさに紛れて全部平らげてしまったから。
「悠馬ー!
肉返せー!!」
「ちょっ、火元で危ねーだろ!!」
頑張って育て上げた肉を全て食べられた涼太が再び目の輝きを失い、これまた珍しく、怒って隣に座る悠馬に飛びかかる。俺はその間に涼太の分に、と他の肉を焼き上げたのだった。




