支店長の隠し事
「さっき支店長に聞いてきたんだけど、支店長も自殺した3人について特に心当たりがないらしいのよ。
その間に涼太さんが他の銀行員に聞き込みをしてたんですけど、それも成果なしですね。
全ての現場で資料が全て処分されていたので、見せてくれないかって、支店長に相談したんですけど、流石にそれは断られちゃいましたし...」
荒波さんが支店長から聞き込みした内容を共有するも、肝心なところがわからない。まぁ機密書類とかもあると思われるから、令状でもない限り確認できないだろうな。
俺たち3人がどうにか亡くなった人たちの部屋から消えた資料を手に入れられないか悩んでいると、話を聞いていた悠馬が、
「じゃあさ、透視の能力で支店長の頭の中を覗いたらどう?
そしたら、こっそり処分された資料について何かわかるんじゃない?」
能力を行使しての資料の獲得について提案する。
荒波さんは悠馬の話に「なるほど」と頷き、
「そうですね!
じゃあ、実行課の優子さ」
「それはなしで。
あの人は来なくていいから、刄が能力をコピーしてきてください。」
義姉さんをこの場に呼ぼうとする荒波さんの発言を、悠馬はさっと遮り、義姉さんがこの場に来ないように、俺にピシッと頭を下げて懇願する。
「何で優子さんにお願いしたらダメなのよ。
優子さんの方が能力使い慣れてるんだし、確実でしょ?」
「お願いだから、マジでそれだけは辞めてくれ!
頼むっ!!!」
先日義姉さんから、悠馬自身の一矢纏わぬ姿を念写された写真を3枚も大きくプリントされた状態で手渡され、より一層警戒している悠馬が命乞いをするように必死で頼み込む。
「じゃあ、次からは灯ちゃんとの勉強会、逃げ出さない??」
「そ、それは...
...ぜ、善処す」
「じゃあ、優子さん呼んじゃおーっ」
「おいっ!!
わかったから!
ちゃんと勉強するから、あの人呼ぶのだけは辞めて!!!」
今までにないくらい必死な様子の悠馬に荒波さんは若干引きながら、「わ、わかったわ...」と、悠馬の提案を聞き入れる。
まぁ、勉強は学生にとって重要だから仕方ない。
決して、以前義姉さんが来たときに悠馬が聞き耳を立てていたのは、勉強会をサボったからであり、その腹いせに悠馬が脅されているのを放置しているわけではない。
そういうわけではないのだ。
「じゃあ、刄さん。
優子さんの能力、コピーしてきてくれませんか?」
俺の心中はさておき、荒波さんが悠馬の頼みを聞く形で俺にお願いしてきた。
しかし、先日雪の様子を見に家に訪ねてきた義姉さんからもう1度能力をかけられていたため、すでに透視の能力をコピーしていた。
俺はそのことをみんなに説明後、支店長の頭に触れて試すことにした。
俺は支店長に疲れを癒す能力を持っていると嘘をついて、やや強引に能力を行使した。
常時であれば、こんな風に捜査中に他者の情報を無許可で抜き出すように能力を行使することは禁じられている。だが、緊急性があるため槙田さんの許可の下、俺たちは実行することにしたのだった。
しかし、脳内の透視は情報量が膨大すぎて内容が把握しきれなかった。
ただ、1つだけ強く脳裏に刻まれていた言葉があった。
『あの人の復讐まであと1人。』
とだけ。
俺は膨大な情報量に耐えきれず立ちくらみ、尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか?」
支店長は倒れてる俺を心配してか、右手を差し出してくる。その手の甲には絆創膏が貼ってあった。俺はその手を掴み、引き上げてもらった。