口は災いの元
扉の方へ視線を向けるとそこには左から茶髪ショートで童顔の、ピンクのブラウスに白のパンツで身を包む女性と、
黒髪ショートで同じく童顔の、白のシャツにネイビーの学生服の少年が並んで部屋にに入ってきた。
2人を見比べると少年の方が身長が高い。
「あー、確か、佐久間 刄さんですよね?
よろしくお願いしまーす!
私は副主任の荒波 優衣でーす。」
「俺は須藤 悠馬。俺はSK対策課の特別捜査官だ!
今日から同僚ってことだから、よろしくな!」
2人に名乗られ、俺は椅子から立ち上がり、
「佐久間 刄です。よろしく。
...というか、何でここに高校生がいるの?
その年齢でここで働いてたらダメなんじゃないの?」
童顔の女性はともかく、少年の方は服装からわかる通り、明らかに高校生である。
ここの機関で働くには高校卒業後であったはずだ。
だから、ここで働いている人たちは少なくとも高校を卒業している。とは言え、一種の公務員であるため、よほどの人材でない限り高校卒業の時点で採らないのだが。
俺がSK機関に所属してからもう6年が経ったが、まだその規則は変わってないはずだ。にも関わらず、目の前の高校生らしき少年は同僚だと口にした。
いままでの知識と食い違うことに対して、疑問に思っていると、目の前の少年は俺の方を向いて、
「そんなことも知らないの、おっさん?
SKによっては特別に雇われるんだよ。」
と呆れ気味に俺に教えてくれた。
少年の説明によると、上層部によって有用という認識をされたSK持ちに対しては例え18歳未満であっても、特別捜査官という措置で雇うことがあるそうだ。
まぁ、SK対策課やSK実行課など一部の特別な課のみでの措置であるため、今までSK調査課にいた俺には関係のない話だったのだが。
そんなこと、知らなかった...
というか...
「というか、俺、まだそんなにおっさんじゃないから。まだ26歳だから。」
自虐するには構わないが、他人からおっさんって言われると流石にイラッとする。
しかも、よりによって初対面の人から言われるとか。
「わかったよ、刄。」
少年はニコニコと笑いながら、10歳くらい年上の俺に対してそう言い放った。
「刄さん!だ。」
年上にさん付けは、最低限の配慮だろ!
俺が軽く怒鳴る風に言うと、
「アハハハハハハッ、面白いね、刄さん。
改めてよろしく。」
悠馬は大きく破顔させながら、俺の方へ右手を差し出してきた。
俺も右手を前に差し出す。そして、その手を取って軽く握手した。
「よろしく、悠馬。」
「私もよろしく、刄さん!」
悠馬と握手を終え、
荒波さんとも軽く握手を交わした。
「ちなみにー、刄さんは彼女さんとかはいますか?」
荒波さんは上目遣いで瞳を輝かせながら、そんな質問をしてきた。
俺は髪を右手で掻きながら、
「あーうん、奥さんと娘がいるよ。」
俺は恥ずかし気に右手で頭を軽くかきながら答えた。
今日も俺を明るい笑顔で見送ってくれた2人。俺はその光景を頭の中に思い浮かべながら。
すると、
「そ、そうですか...」
荒波さんは瞳の輝きを失い、ガクッとうなだれた。
周りの空気も少し暗く見える。
「ドンマイっ、副主任。」
悠馬が荒波さんの左肩に
ポンッ
と軽く叩くように手を置き、慰めの言葉をかける。
「うるさいわねー。」
荒波さんは少し怒ったような口調で肩を揺らして、悠馬のその手をどかした。
「あーあ、良い出会いないかなぁ?」
「ナイナイ。
せめてあの机をどうにかできるようにならないと一生彼氏できないって。」
悲しそうな荒波さんに対して、悠馬はケラケラと笑いながら現状到底彼氏なんて無縁な言葉である、と突きつける。
すると、
「ハアーッ!
ドウイウコト!?」
悠馬に馬鹿にされ、荒波さんは童顔の女性がどうやって出しているのかわからない、まるで般若のような顔で強く悠馬を睨みつける。
「ゲッ、刄さん、助けてっ!!」
慌てて悠馬は俺の方へ走り出し、俺を対荒波さんの盾にしようと背中へ隠れる。
「刄サン、ソコヲ退イテクダサイ。
ソコノ生意気ナコドモニ教育的指導ヲ施スンデ。」
怒りのあまり、壊れたロボットのように片言な口調のまま俺たちの方へゆっくりと1歩ずつ足を進めていく。
「えっ、ちょっ、悠馬っ!?
俺を盾にするなよ!!」
荒波さんに対するあまりの恐怖に、俺は思わず後退り、相対的に悠馬が俺の前に出てくる。
「えっ、ちょっ、刄さん!
俺の前にいてって!」
憤怒の表情を浮かべる荒波さんを前に、悠馬は慌てて再度俺の後ろへ駆け込む。
「退イテクダサイ。
サモナイト、刄サンゴトヤッチャイマスヨ?」
逃げ込んだ悠馬に対して、さらに怒りが増したのか、俺に対してまで抹殺宣言が出されてしまう。
これに思わず、
「悠馬、これは対処できないっ。」
と、人質(悠馬)を俺の前に差し出した。
「えっ、じ、刄さん!?
やめて、こいつの前に出さないで!?!?」
荒波さんに対しての恐怖からか、悠馬は顔を引きつらせながら必死に抵抗する。
「大丈夫、チョット教育的指導ヲ施スダケダカラ...」
目のハイライトが消え、悠馬を掴んだ荒波さんは何処かへと消えて行ったのだった...
部屋には呆然とした表情を浮かべる俺と、今の一連の流れの間、すました顔でコーヒーを嗜む槙田主任が残されていた。