ようこそSK対策課へ
「とにかく私の後ろについてきてください。」
驚く俺を放置したまま、その女性は床へばら撒いてしまった書類を全て回収し、俺の机の上に置くと淡々とした態度のまま、スタスタと扉の方へ歩いて行った。
「えっ...?」
突然すぎてもう何が何だか、訳がわからない。
しかし、このまま座ったままでいるわけにもいかず、慌ててその女性の後を追いかけていった。
「詳しい話は後で話すわね。」
「は、はい...
で、でも本当に俺にSKなんてあるんですか?
今まで1度もそんな心当たりありませんでしたけど...」
最初に言った通り、平凡な人生を送ってきた俺には当然SKとは無縁な生活だった。
だから急にSKがあると言われても到底素直に受け入れられない。
もしかして、この人の勘違いでは?
と、思いながらも逆らうこともなく突如現れたこの女性の後を大人しくついて行くことにした。
後ろを黙ったままついていくこと数分、目的地へ着いたのかスタスタと歩いていた女性は、ある木製の扉の前で立ち止まった。
扉の上には
「SK対策課」
と書かれた真っ白なプレートが取り付けてある。
「し、失礼します。」
俺はドアを開けてくれた女性の後に続いて緊張しながらも中へと入っていった。
中には事務用の机とパソコンがそれぞれ5つずつ設置されている。
そのうち、1つは机の上にパソコンしか置いてない新品の机だが、
他には書類やパソコン、マグカップなどが乱雑に置かれたぐちゃぐちゃな机が1つと、
椅子に学生服のブレザーがかけられた机が1つ、
白く縁取られたきれいな卓上ミラーが置かれた机が1つ、
仕事場のはずなのに何故かポテチや煎餅といったお菓子が大量に積まれた机が1つ、
俺の目に映る。
俺をここまで連れて来た女性は卓上ミラーのある、パーティー席のように設置されている机の真っ黒な回転椅子に腰をかけた。
「じゃあ、あなたはそこのパソコンだけの席に座って頂戴。」
そこは女性の席の右から2番目の席だった。
俺は職場から唯一持って来ていた、片手に抱えていた黒の仕事用のカバンを机の横に置き、戸惑いながらもとりあえず椅子に腰掛ける。
「改めまして、ようこそSK対策課へ。
私はSK対策課の主任の槙田 京よ。
よろしくね、刄。」
黒髪の女性は今までの少し無愛想な様子がまるで記憶違いであったかのように、軽やかな声でそう名乗った。
「よ、よろしくお願いします。」
俺は反射的に起立して、礼をして返事する。俺の心の中には疑問が溢れんばかりあり、何1つ解決していない。
「とりあえず、いろいろ聞きたいことがあると思うけど、まずは何から聞きたい?」
槙田さんは俺に対して口元に笑みを浮かべながらそう言ってきた。
確かにその通りである。
正直言って、突然すぎて頭が完全に出遅れている。頭だけSK調査課に置き去りにしてきた気分だ。
状況の整理ができてないのだが、まずは1番の疑問を槙田さんにぶつけることにした。
「俺にSKがあるってどういうことですか?
俺、そんなの全然知らないですよ!?」
俺は生まれてこのかた26年、今までに1回も自らのSKを行使する体験をした記憶がない。先程も言ったがこれまで何の変哲もない生活しか送ってこなかった。
正直に言って、まだ俺にSKがあるなんてまだ少しも信じられない。
槙田さんはゆっくりと自分の椅子に座り直してから、
「そのままの意味よ。
あなたからSKの存在が感じられたの。
そういうことがわかるSK持ちが私たちの同僚にいてね。」
な、なるほど、だから呼ばれたのか。
でも、もちろん俺はどんな能力を持っているのか知らない。なんなら、SKを持っていることだって、ついさっきこの槙田さんに教えられて知ったばかりなのだ。
それにまだ半信半疑の状態である。
「どんな能力なんですか?」
半信半疑ながらも次に疑問に思ったことを俺が尋ねると、槙田さんは瞬きをしてから、ゆっくりとした口調で、
「それはわからないわ。
あくまで能力の有無しかわからないの。」
と返してきた。
どんな能力なんだろう。
瞬間移動だったら通勤が楽なのになー...
ガチャッ
そんな、まだ何1つわからない能力について考えていると、後ろの扉が勢いよく開いた。
俺は頭を少し右にそらして、音の鳴った扉の方へ視線を向けた。