同僚の優しい気遣い
俺がSK対策課に到着すると、既に悠馬以外全員揃っていた。各々机にて仕事に取り組んでいる。
「おっ、遅くなってすみませんっ...!」
息を切らし、うなだれながらも俺は何とか謝った。
結局、家で危うく寝坊しかけ、遅刻しそうだったので俺は走って来た。そのため、ギリギリの到着で、呼吸することすら苦しい。
荒波さんは仕事中の手を止め、こちらを心配そうに見つめる。
「おはよう、刄さん。
事情は主任から聞いてるわ。
娘さん、大丈夫?」
「だっ...大丈夫です...
手術で頭を縫って...
なんとかなりました...」
「刄さんは大丈夫?
顔すごく青白いわよ?
ちゃんと寝てきた??」
荒波さんの心配そうな声に俺は息も絶え絶えに何とか娘が一命を取り留めたことを伝える。その時の俺の返答や様子がおかしかったのか、荒波さんは俺の身体を心配した。
「だっ、大丈夫...です...
家で仮眠を...とっ...てきたので...」
俺は呼吸を整えながら、何とか荒波さんに問題ないように答える。
「何分寝てきたの?」
「えっ...と...、2、いや30分くらいは」
「今すぐ寝なさい!」
荒波さんは心配した表情から一転して叱りつけるように顔をしかめ、大声で言い放つ。
「いやっ、でも仕事が」
「万が一、急に事件現場に行くことになった時に倒れられると困るのよ!
だから、隣の仮眠室で寝てきなさい!!」
「荒波さんの言う通りですよ、刄!
少しでもいいから仮眠室で寝てきてください!
今やってるのは書類をまとめてるだけなんで、刄1人休んでても、荒波副主任が分身で2倍以上働けば何とかなります!」
まだ反論する俺に対して、荒波さんに加えて涼太まで休むように勧めてくる。
ただし、その時にどさくさに紛れて俺の仕事分を荒波さんに押し付けようとしていた。
「そうそう、私が...
ってなんで私だけに押し付けるの、涼太さん?
涼太さんもいつも以上にやるんですよ?」
「もちろんやるけど、分身できる荒波副主任の方が何倍も早くできますよね?」
冷ややかな目線を向ける荒波さんに対して、涼太は疑問を投げかける。
その疑問に対し、荒波さんはすこし呆れたような顔を浮かべる。
「いくら分身ができる私といえど、脳は1つしかないですからね!
分身すればするほど動かす身体が多くて作業効率が落ちてきますよ!
書類仕事だと、せいぜい3人に分身して2倍弱ぐらいが限度ですね。
なので、涼太さんは悠馬の分をやってくださいっ。」
荒波さんは3人に分身して、自分の書類と、俺の書類を合わせて3つに分けて分担する。
そのうちの1人は、悠馬の席に元々あった書類を涼太の机の上に置いてから、そこで書類仕事を、
もう1人は俺の席を使って書類仕事を再開する。
「2倍は無理だって、荒波副主任!!」
急に倍に増えた書類に対して嘆く涼太へ、自分の分もやろうと
「じゃ...じゃあ、俺が」
「「今すぐ寝て(ください)」」
...したのだが、2人から食い気味に断られてしまった。
その姿に思わずたじろぎ、大人しく寝ることにした。
トボトボと部屋を出る直前、そういえば悠馬がまだ来ていないことを思い出し、
「えっ、悠馬は?」
2人の方へ振り返って尋ねると、机に座って書類仕事を再開しようとしていた涼太が、
「悠馬はまだ学校ですよ。
だって、今日はまだ平日なんで。
昨日は刄が異動してくる日だったのと、人手が足りなかったので、特別に出勤していたんですよ。」
「あっ、そっか!なるほど!!」
そうだった。
すっかり忘れてたけど、
悠馬、まだ高校生だもんな。
悠馬がいない理由に納得した俺は、大人しく仮眠室で仮眠を取ることにした。