ありふれた日常の危機
ここから2章です!
「じゃあ、刄さん、また明日。
よろしくね」
「よろしくお願いします、槙田さん!」
歓迎会が終了し、荒波さん、悠馬、涼太が帰ったあと、槙田さんから対策課の仕事内容について詳細な説明を聞いてから、対策課用の名刺を貰った。
詳細な説明って言っても、仕事内容半分、待遇変更について半分ってところだけど。
基本的には、俺、荒波さん、悠馬、涼太のうち2人1組での行動になるらしい。場合によっては1人の時もしくは3人以上の日もあるらしい。
今までは1人の日も多かったんだとか。
まぁ、能力持ちってなかなかいないからな...
槙田さんは上層部であるSK機関とのやり取りがメインだそうだ。この後も先程の事件の詳細をまとめたり、俺の異動についての手続きをやってくれるらしい。
そして、待遇変更については何と言っても給料に関すること。
やっぱ、危険が伴う分、給料増えるんだよなぁ...
少しウキウキしながら、帰路に着いていると、コンビニで家族分のデザートを買って出た直後に、携帯がブルブルと震えだした。
妻であるかおりから電話がかかってきていた。
(なんだろう?買ってきて欲しいものでもあったのかな?)
そんな軽い気持ちのまま、俺は左手でスマホを取り出し、応答する。
「もっ、もしもし、もしもしっ!刄っ!!」
気軽な気持ちの俺と正反対なほど、切羽詰まった様子のかおりが電話をかけてきた。
今までに聞いたことのないような声に思わず、急に不安がこみ上げてくる。
「どうしたんだ、かおり!?」
かおりの声につられて、俺は慌てながら尋ねる。
「ゆっ...雪の頭に...フ、フライパンがおちっ、落ちて来て...今、いっ、いっ...意識が無くて...」
かおりは冷静さを失ったまま過呼吸気味ながらも、必死に呼吸しながら教えてくれた。
頭の中が急に真っ白になる。
動揺のあまり、俺は右手に持っていたコンビニの袋をスルッと落としてしまう。
まさか!雪が!?
今日の朝もいつもと同じ様に笑顔で
「いってらっしゃい、パパ!」
と言っていたのに!?
「ごっ、ごめんなさい。わ...私のせいで...
雪が...雪が...」
かおりが自責の念にかられて、何度も何度も電話口で俺に謝罪する。
もしかしたら、電話にすがるように、祈るようにかけてきているのかもしれない、というくらいに必死な声で。
「かおりのせいじゃない!
とにかくすぐに行くから待っとけ!
今どこにいるんだ?」
「びっ、病院...」
俺は大声を出しながら、手を大きく振って、ちょうどタイミングよく、こちら側へ走ってきているタクシーを呼び止めた。そして、目の前で止まったタクシーに飛び乗り、病院まで乗って行く。
俺は一刻も早く、病院に着いて欲しいことを伝えると運転手は目的地と俺の様子から察したのか、何も聞かずに病院へ向かって走り出してくれた。
日常というのは容易く崩れる。
俺はこの1日で強く実感した。
職場が突然変わったり、見た目は優しそうな人が能力による犯罪を起こしたり、雪が突然事故にあったり...
(無事でいてくれ、雪...)
俺はただただ元気な雪と再び会えることだけを携帯を握り締めながら強く願った。
強い夜風が大きな音を出しながらタクシーに吹きつけていく...