これからよろしくお願いします
「じゃあ、最後、刄、自己紹介やってよ!」
さっきまでニヤニヤしてた悠馬は相変わらずニヤニヤしたまま俺の方へ話を振る。
涼太の顔は悠馬の助け舟でパァーッと輝いていた。
少し首をひねる荒波さんを含めてみんなに対し、俺は席を立って背筋を正し気合を入れて、
「俺の名前は佐久間 刄です。
本日付で調査課から対策課へ異動になりました。
26歳で妻と娘がいます。
SKが何かはまだわかりませんが、これから、一緒によろしくお願いします!」
(ふぅ、こんなとこかな。)
俺が明るく大きな声で自己紹介をし終えて、自分の席に着くと、横からチョコクッキーを食べ終えた悠馬とさっきまで首を傾げていた荒波さんが、
「刄!奧さんと子供の写真見せてよ!」
「あっ、私も見たいです!」
とお願いしてきた。
「いいですよ、ちょっと待ってください。」
俺はスマホを操作して、この前家族で花見に行った時に兄さんに撮ってもらった写真を表示した。
俺と妻の間に娘が手を繋ぎながら仲良く並んで立っている写真だ。
隣から悠馬と荒波さん、後ろから残りの2人が覗き込む。
「へぇー。奧さん、綺麗じゃん。」
と悠馬。
「そうだねー。黒髪のミディアムかー。
刄とお似合いって感じ。」
と涼太。
悠馬と涼太が奧さんのことを褒める。
「娘さん、奧さんにそっくりだね!可愛い!」
と荒波さん。
「2つくくりが似合うお年頃ね。可愛らしいわ。」
と槙田さん。
荒波さんと槙田さんが娘のことを褒める。
俺の大好きな、自慢である妻と娘が褒められているのだから、もちろん嬉しい。
「名前は何て言うんですか?」
「妻は佐久間 かおりで、
娘は佐久間 雪って言います。」
荒波さんが妻と娘の名前を聞いてきたので、妻たちを褒められたことの嬉しさからニヤニヤしながら答えた後、俺はスマホの画面をホームに戻して、画面を消し、ポケットへしまう。
ポケットへしまうとみんなが自分の席に戻った。
「そういえば、みんなは結婚してたり彼氏彼女とかいるんですか?」
今まで聞かれてばかりだったので反対に問いかけると、隣に座っていた悠馬と、左斜め前に座っていた荒波さんが頭をガックリと落として落ち込む。
あからさまにわかりやすい2人に対して、涼太はアハハと苦笑いしており、槙田さんはクスッと妖艶な笑みを口元に浮かべる。
「そんな人いませんよーだ!
対策課なんて情報管理の関係で、他の課と関わる機会なんてほとんどないし、対策課にいい人いないしで、出会いなんてあるわけないじゃないですか!!」
荒波さんはうがーーーっと言わんばかりに立ち上がりながら叫ぶ。
「いねーよ、そんなやつ...
この前告白したら、『ごめんなさい、彼氏います。』って平謝りして断られたよ...
しかも灯曰く、その子の彼氏、いっつも俺を目の敵にしてくるクラスメイトらしいし...」
俺の質問によって最近出来た傷口を抉ってしまったのか、いつもの元気な表情とはかけ離れた淀んだ空気を纏った悲壮な表情を浮かべる。
す、すみません、2人とも...
「俺は今はいませんね。
まぁ、元々罪を犯した身ですから彼女を作るとしたら、特別捜査官として罪を償ってからですかね。」
涼太は前の2人とは違って、まぁ仕方ないか、みたいなやれやれといった表情を浮かべる。
「私は秘密よ。
そういったプライベートなことについては明かさないようにしてるの。」
「そ、そうですか...」
またしても口元に妖艶な笑みを浮かべながら答える槙田さん。この人と付き合う、もしくは結婚する人なんて、まるで想像がつかない。
俺は口元を引きつらせながらなんとか返答する。
この一部淀んだ空気を一転させるためか、
パンッパンッ、と2回大きな拍手をしてから、
「まぁ、今日はいきなり事件があったりしたけど、これからよろしくね、刄。」
槙田さんが俺の歓迎会の締めの言葉として俺にそう言った。
「了解ですっ!
こちらこそお願いします!!」
「「「これからよろしく!」」」
俺の笑顔での挨拶に、荒波さん、悠馬、涼太が俺に温かい笑顔で挨拶を返した。
(この職場なら、これからも頑張れるはず。)
俺は直感でそう感じた。
この、家族のような温かい空間。
このメンバーならどんな困難でも乗り越えることができる、と。