槙田さんのSK
荒波さんと悠馬による言い争いがようやく収束を迎えた後、槙田さんが立ち上がって自己紹介を始めた。
「改めて、槙田 京よ。
30歳でSK対策課の主任をしてるわ。
今日からよろしくね、刄。」
その落ち着いた様子からは貫禄が出ていて、主任という皆を統率する役職がよく似合う。
「よ、よろしくお願いします。」
俺はペコリと軽くお辞儀した。
「あっ、そーだ。どうせなら刄にもアレ、体験させてあげようよ!
リーダー!鏡貸りるな!」
さっきまで項垂れていた悠馬が、槙田さんの机の上にある卓上ミラーをパッと取ると、俺が自身の顔が見えるように俺の机の上に置く。その間に槙田さんがスッと俺の後ろに歩み寄り、立ち止まった。
「刄、これ、見ててくれるかしら?」
「あっ、はいっ。」
悠馬が俺の机の上に置いた鏡を槙田さんが指差すと、俺はうなずきながら突然置かれた鏡を言われるままに凝視する。
映っているのは毎朝洗面所で見るいつもと変わらない、槙田さんからの指示に戸惑う俺の顔と、ニコニコした表情の槙田さんだ。
「で、俺、何したらいいんでしょうか?」
「じっとしてて。」
突然のことで何がなんだかわからない俺に対し、後ろに立つ槙田さんは何も説明しないままそっと俺の右肩に手を置いた。
「ゆったりと、肩の力抜いてていいわよ。」
そんなことを言われると、逆に緊張してきた...
身体がカチコチになっていく。
「ちなみに私のSKは」
槙田さんが話している最中、俺は言われた通り素直に鏡を見ていた。のだが、さっきまで鏡に映っていたはずの俺の顔が、俺の後ろににこやかに立つ、小顔で、できるキャリアウーマンっていう見た目である槙田さんの顔になっていた。
「うわっ!え、お、俺の顔が...
えっ、あれっ?
な、何でっ!?
し、しかも声も...」
とっさの変化についていけず、俺はとにかくテンパった。焦りが声に現れすぎて、言葉にすらなっていない。また、なんとか絞り出した俺の声も日頃聴き慣れた、声変わりを終えた低い声ではなく、和やかな槙田さんの声に変わっていた。
思わず顔をペタペタ触るも感触までいつもと違う。喉の方まで触ると、さっきまであったはずの喉仏が完全に消失していた。
完全に槙田さんの顔に変わっていた。
「「「アハハハハハハッ」」」
そんな、俺の予想以上のテンパり様を見て、荒波さん、悠馬、涼太の3人が声を揃えて笑い出した。
「私のSKは自分と他人を変身させるの。
全身変化させることができるのだけど、今回は顔周辺だけにしておいたわ。
ちなみに私が能力を解除するまで効果が持続するのよ。」
槙田さんはSKの説明をしてから、右手で指をパチンと鳴らすと俺にかけていた能力を解いた。
「あ、ちなみに私の今の容姿も能力を使ってるから。」
「えっ、そ、そうなんですか...」
能力が解除されて元の俺の顔に戻り、しばらく鏡を見ながらペタペタと顔周辺を触り、元通りに戻ったことを確認した俺はようやく落ち着きを取り戻した。
これがSK対策課の人たちなのか。
今までSK持ちにはほぼ出会ったことがないので新鮮である。
というか、新鮮すぎて若干怖い...
俺、この先、やっていけるのだろうか...?