刄の歓迎会
「そ、そういえば刄さんの歓迎会するって言ってましたよね、主任?
さぁ、やりましょう、お祝いしましょう!!」
さっきまでのことを誤魔化し、なかったことにするかのように荒波さんが慌てて槙田さんにまくし立てるように話しかける。
「そうね、先に刄の歓迎会をしましょうか。
優衣への説教はあとでやるからね。」
「ハ、ハーイ...」
槙田さんからの説教が確定してしまい、荒波さんは思わず顔を引きつらせた。
飲み物やお菓子、軽食を荒波さんと涼太で用意し、俺たちが全員それぞれの席に着いた後、歓迎会は始まった。とはいえ、軽い歓迎会でどちらかと言うと自己紹介がメインである。
ちなみに大きな歓迎会は他の支部と共同でやるらしい。
「じゃあ、まずは自己紹介しよっか!
最初は私からね。
改めまして、私は荒波 優衣です!
20歳でSK対策課の副主任やってます。
SKは分身体を作り出す能力です。
これからよろしくね、刄さん!」
さっき槙田さんに叱られていた時とは打って変わり、荒波さんは背筋を正して立ち上がりながら、にこやかな表情を俺に向けてきた。
「ちなみに今、ボッチだから。」
荒波さんの自己紹介に笑顔を返す俺の横からボソッと悠馬の声がする。
ガンッ
悠馬が余計な一言を言った直後、荒波さんの方からお菓子の缶詰がビュンと音を立てながら飛んで来た。
そして、それは的である悠馬のおでこに見事命中した。
その衝撃で悠馬は思わず崩れるように椅子から滑り落ちる。
(い、痛そー...)
「いってーな!おいっ!」
やはり痛かったようである。
若干目に涙を浮かべると、缶詰が投げつけられたおでこをさすりながら、悠馬が荒波さんに向かって大声で叫ぶ。
「あぁっっ!!
そっちが先に余計なこと言い始めたんでしょ!」
荒波さんも怒りからか、口調が荒くなっていく。
まるで名前のように...
とか言ったら、とばっちり食らいそうだから何も言わないけど。
「でも、本当のことじゃん!!」
悠馬も悠馬で地面に手をつけ、勢いよく立ち上がると、荒波さんの口調に比例してか、ますます声の大きさを上げる。
「だからって、今、言う必要、全くなかったでしょ!!!
それに彼氏作らないだけですー!!
いい人さえいれば彼氏なんてすぐできるんだから!!!」
「そんなこと言って今までに1回でも彼氏できたことないくせに。
そんなに自信満々に言うなら1回くらい彼氏できてから言えよ。」
ますます口調を荒げていく荒波さんに対し、悠馬は小馬鹿にするようにニヤニヤと笑う。が、
「なっ...あんたこそこの前クラスの女の子にフラれたらしいわね。
灯ちゃんが言ってたわよ。」
「ちっ、ちっげーし!
あれはっ...って灯もこいつに言ってんじゃねーよ...」
荒波さんからの思わぬ反撃に対し、咄嗟に誤魔化そうとするも言い訳が特に思いつかなかったのか悠馬が項垂れながら椅子に崩れるように座る。
荒波さんは悠馬を打ち負かして満足したのかフフンとドヤ顔を浮かべながら悠馬の頭頂部を見下ろした。
ド、ドンマイ...
そんな風に俺が考えていると、槙田さんが机をドンッと叩いて、
「あんたたち、いつもいつもいい加減にしなさい!
今は刄の歓迎会でしょ?」
「「ハーイ...」」
槙田さんの一言でようやく場が静まっていった。