悠馬の秘密
「えっ...き、記憶!?
な、何の!?」
俺は少し考えたが何も思いつかなかった。
智子さんだけならSKを行使していた俺たちSK対策課に対する記憶を消すためにも呼ぶ必要があったのかもしれない、と考えた。万が一、智子さんから荒波さんたちのSKに関する情報が漏れると今後犯罪者に立ち向かうときに対策されてしまう恐れがあるからだ。
だが、事件の記憶を消すんだったら、今まで、そして今後も関わるであろうSK調査課の人を呼ぶ必要はなかったはずだし...
「さっきの、俺のSKに関する記憶だよ。
俺のSKの存在って極力誰にも知られない方がいいんだよねー。」
悠馬は俺の前の席の机の上からまだ袋が開いていないポテチを持ってきて、食べながら俺に説明してくれた。その行動を涼太が止めようとしてたから、おそらくお菓子山積みの目の前の席は涼太の席だろう。
「えっ、何で!?」
「だって、もしもそういうSKがあるって知らなかったら、いきなり
「SKのこと隠してるでしょ?」
って言われたら動揺するじゃん?
だから、あんまり知られないように事件が終わる度に関係者の記憶を全部消していってんの。
時間差で俺たちの顔やSK対策課の場所の記憶まで消えるように設定してるだろうから、今頃綺麗さっぱり忘れているだろうな。
わかった、刄?」
全く予想していなかった答えだったので、全く理由がわからない。戸惑う俺に悠馬は涼太から奪い取ったポテチを食べ続けながら、俺が理解できるように詳しく説明した。
「なるほど、捜査のためにいろいろ考えてるんだな...
ってことは、俺の記憶も消されるのか!?」
「これから一緒に仕事するのに毎回毎回記憶消すなんて面倒極まりないことしないから。
そしたら、俺、刄に俺のSKについて毎回教えなきゃいけないじゃん。
だから、ここのSK対策課のみんなと上層部の人たちは俺のSKについて知ってるよ。」
俺の記憶も消されるのか、と浮かび上がった新たな疑問をぶつけると、悠馬はケラケラと笑いながら、ポテチの袋を俺に差し出した。
「まぁ、これからSK対策課について知ってったらいいよ。
とりあえず、新メンバーおめでと。
これ、食べたら。」
俺は差し出された袋からポテチを1枚、取り出して食べた。
いろいろとドタバタが続いていたので、ポテチの塩味が身体にじんわりと染み込んでくるようで落ち着く。
「ところで悠馬、またその手段で犯人を探したのかしら。
その方法は雑でミスに繋がりやすいからやらないでって優衣に伝えたはずだけど。」
俺への説明が一通り終わるまで、荒波さんが作成した事件についての資料をパソコンで読みながら静観していた槙田さんが、諭すように悠馬へ冷たい視線を向ける。
「優衣に」
「ただいまー!」
SK対策課へ帰ってくるまでの間眠っていたため、荒波さんからの口止めがあったことを全く知らない悠馬が正直に伝えようとすると、上層部へ報告しに行っていた荒波さんがSK対策課へ戻って来た。
ある意味ベストタイミングでの帰還である。
「ただいま戻りました主任!」
「優衣、あなたまた悠馬のSKと勢いで犯人を捕まえたらしいわね。」
事件が無事解決したことへの嬉しさからか、朗らかな笑顔で話しかける荒波さんに対して、槙田さんは極寒の視線を向ける。
「ちょっ、じ、刄さん!
言わないでって言ったじゃないですか!?」
荒波さんは慌てて思わず俺に向かって言ってくるが、俺は何も言ってないしなー。
「あっ、リーダーに言ったの俺だよ、優衣。」
「あぁー...そういえばさっきアンタ寝てたわね...
口止めするの忘れてたわ...」
満面の笑みで話す悠馬に対して、荒波さんはため息を吐きながらこの場をどうやって解決させようかと思案する。
しかし、解決策が思いつくわけもなく、槙田さんは席を立ち上がって荒波さんの両肩を後ろから掴むと、
「優衣、わかってるわよね。」
「ハ、ハイッ...」
槙田さんの端的な忠告に対し、荒波さんは身体をビクッと揺らした後、緊張した様子で固まっていた。
「それにさっきの刄の辞令の件も含めて、あとでゆっくりお話ししましょうね。」
口元はニッコリと笑い目元は冷たいまま荒波さんにそう伝えると、荒波さんは死刑宣告を受けたかのような悲しみの表情を俺たちへ向けてきたのだった。