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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
8/52

ー砂漠のキツネたちー 3

コンクリートの壊れた建物が乱立する基地より、

少し離れた何もない大地に所々突き出た鉄塔


そのうちのひとつ、上部に足場の設けられた鉄塔の上で

遠くを眺めていた(かなで)は、

横に立つ望遠ゴーグルをつけた少女に問いかけた


「さくら、春人となんかあった?」

少女はゴーグルを上げ、こちらを見ると

「何で?」と質問を返す


「いや、いつもだったら、さくらと見張りなら絶対名乗り出るでしょ」


さくらは「ん──・・・」と一瞬黙るも、鉄塔の下にちらっと目を向けると

「ディーテがいるから嫌だったんじゃない?」

「仲良くないからねー、あの二人」そう言うと再びゴーグルを掛けた


いや、仲良くないのはさくらのせいでは?と、そう思った奏だが

鉄塔の下、ジープの運転席でのんびり休憩してる赤い髪の男を見て

(うーん、現状では春人に勝ち目はほぼないよなぁ)

見た目も、体格も、身長も、強さも


(あれ?マジ何もないじゃん・・・)

今朝から、何故か牛乳を大量に飲みしだした少年を不憫に思った



「お嬢ー、3時の方角ー」

下から聞こえた声に、奏とさくらはそちらを見るが何も見えない


寝ぼけてるのか?と奏はディーテを見下ろしたが、望遠ゴーグルの距離を調整したさくらが

「──見えた。 距離は・・・まだ、大分向こうね」と


(マジかよ・・・)

ジープの上で片手を額に当てその方角を眺めるディーテを見下ろす

(強化兵士って、超チートじゃね?)


ディーテが強化兵士という存在であることは、部隊の皆は有島隊長より聞いている

詳しく教えてもらった訳でなく

ただ、一般人より頑丈で丈夫で強い、と


(うん、がんばれ春人!)

奏はとりあえず心の中で、不憫な少年に声援を送っておいた






「ふ・・・ふぇっくしょーん!!」

盛大なくしゃみをする春人


「うわっ、お前こっち向いてやるなよ!」

組み合っていた仲間が文句を言う


「しゃーないだろ、出るもんは出る。そもそも組み合ってるんだからそっち向くのは当たり前」


現在、見張りに出ている隊員以外は訓練と称して

有志による隊員同士の勝ち抜き戦をしている

『ザ・ドキドキトーナメントバトル!』──と、何故か垂れ幕までかかっている


緊急時以外は比較的─いや、かなり緩いこの部隊

現に隊長である有島も

「おい、春人。お前に賭けてやったんだから、ちっとは頑張れ」

などと、見物の隊員達と賭け事に興じている


「わかってるけど、生理現象は止められねえって・・・、

ふえっくしょーん!!」


「ちょっ、マジ、タンマ!」


そう言いながら後ずさった相手に


「隙あり!」

春人は、叫ぶと同時に体制を低くとり、片足を軸に半回転し相手の足を払う

そのまま、よろけた相手に詰め寄り背後を取ると、相手の首を腕で絞める


「───参った」対戦相手の言葉に

「うーん・・・、何かズルいけど春人の勝ちー!」

審判役の女性隊員が言う


それに対して意義を申し立てる春人

「ズルいって何だよ、心理的作戦じゃん」


「くしゃみが心理的作戦って」

「フォンフェオンの奴等にもやってみるか?」

「いいぞ、やれやれ、何でもいいから勝てよー」

やいやい言う外野は無視する


(ここに、さくらが居てくれたらなぁ・・・)


「──何だよ、また賭け事してるじゃん」

そう言いながら部屋に入ってきたのは奏、後ろにはさくらの姿も


さくら!と、呼び掛けようとした春人だが、

さくらの後ろから入ってきた人物を見つけると

「イリアのおっちゃん!」

驚きの声をあげて駆け寄る



「おっちゃん、久しぶりじゃん。何? どーしたの?

今度はしばらくいるの?」

そう矢継ぎ早に問いかける春人に


「・・・・・」

無言でポンと頭に手を置くイリアと呼ばれた男


春人からは見上げる程、背が高い

男の後ろから嫌そげな顔で入ってきたディーテより更に高い

横幅もがっしりとした壮年の男

「暫くは居れるだろう」

イリアは寡黙で必要な言葉以外は話さない


ポンポンと頭に手を置かれたことに対して

「おっちゃんまで、子供扱いかよ」

春人は不満げに言う


「イリア──、」有島の呼ぶ声にそちらに移動するイリア


男と入れ替わるようにこちらに来たさくらは

「そういう態度取るからでしょ。 ──で、勝ってんの?」


「2回戦突破!」

さくらの問いに、急に元気になる春人


「さくら、見ていく?」


「うーん。 でも、まだ見張りが・・・」

鉄塔の上でさくらが確認したのは、イリアの大型8輪駆動車だった

案内も兼ねて一度基地に戻って来たのだ


「いいんじゃね? そのくらい、他の場所の奴等でカバー出来るでしょ」

後ろから声を掛けるディーテ

「小僧がどこまで出来るかお手並み拝見しよう」

春人を見下ろすと楽しげに笑う



アホだ馬鹿だと(奏談)言われる春人だが

格闘や戦闘スキルは高い

本能のままに動いてるだけ(ディーテ談)と言うが

それに見合った身体能力も持っている


体格的に不利な相手でも

スピードで上回ると次々と勝ち進んでいった


「おいおい、マジかよー」

「穴馬狙いの隊長一人勝ちじゃね?」

「おい、お前最後だろ、絶対勝てよ」

「勝てなかったら・・・わかってるよな?」


飛びかう外野からの声に、最後の対戦相手である隊員は戦々恐々すると


「──そうだ! 代理立てるわ俺、ディーテ!!」

さくらの横で大きな欠伸をしていた男を指名した


「ん?」と涙を浮かべた瞳で指名してきた男を見る

そして「──は!?」と叫んだ春人を見ると、ディーテはニィと笑い、


「──だ、そうだけど、どうする?」

笑顔のまま春人に問うた


「ディーテ・・・、」

止めようとしてだろう、呼び掛けるさくらを見ると

ぐぬぬーと唸る春人


「くそっー、やってやるさ!」






向かいあってわかる相手の強さを

勝ち筋が全く見えない


春人の本能が言う、戦うな、逃げろと

額に汗が浮かぶ

相手は余裕の表情だ、寧ろ笑みさえ浮かべている


(・・・・くそっ!)

動けないままジリジリとする春人



きっかけは一瞬だった


「───っ!?」



ディーテの体が消えたと思った瞬間、春人は地面に倒されていた

全く動けないまま


(・・・マジかよ・・)

唖然としたまま、立ち上がれない春人の側に勝者の男は屈み込むと、

笑みをたたえた顔でこちらを見下ろす


「その程度の強さでお嬢の横に立とうだなんて、──驕るなよ小僧」と



悔しさに項垂れたまま立ち上がる春人

圧倒的な力の差に外野の隊員たちも

「うん、よくやった春人・・・」と言葉少なげに声を掛けるのみ





「─よし。次は俺が代わろう」


そう言い、戦いの舞台に上がって来たのはイリア

「トーナメントは終わったと思うが?」

眉間にシワを寄せたディーテは乱入してきた男に言う


「まぁ、いいじゃないか」

楽しそうだし、とにこやかな顔で観客席から促す有島


「・・・・・」


ディーテは仕方ないという顔をすると、さくらに向かって

「お嬢、もうちょっと離れてくれるかな?」

その言葉に有島もギャラリーの隊員達を下げると、二人の為にスペースを開ける



トボトボと戻ってきた春人に、さくらは声を掛けようとしたが

横にいた奏に止められた

「今はそっとしてやって」

そう言うと、向かい合う二人に顔を向けた




先程と同じように動かない二人


だが今度は、ディーテの顔には余裕はない


「・・・・ちっ、」

舌打ちするディーテ、今下手に動けば確実にとられる


じっとこちらを見据えるイリア

薄い青い瞳の奥が光る



D1-0013

それがイリアにつけられた識別番号

発見された旧世界のオリジナル──

彼らを元に作られたのが現在のディーテと同じ強化兵士達


イリアは多くは話さなかったので

彼の現在に至るまで経緯はわからない



「意識が散漫だ──」


ふいに近づいた気配に、とっさに後ろに飛び去るディーテ


しまった──、そう思った時にはすでに遅く


予めそこに来るのがわかっていたかのように襲ってくる攻撃

そんなでかい図体のクセに動きは速く

避けられない──!、 腕を交差させ衝撃に備えるが

繰り出された蹴りの威力に、堪え切れず膝をつく


「集中力が途切れがちだな」

そう発するイリア




「・・・・・」

あまりの凄さに無言になる隊員達、

そこに割り込むように


「──うん。流石だなぁ、イリアは」


そう言いながら二人の側に近づく有島

「ディーテでさえ、膝をつくとは」


「イリアのおっさんは加減をしらねぇから・・・、肋何本か逝った」


痛てて、と肋を押さえながら立ち上がるディーテに

「そんなもの2、3日で治るだろう」イリアは言う


「うん、まぁ、そうなんだけどね」

強化兵の回復力は常人とは違う、たが痛いもんは痛い

「じゃあ、2、3日は俺は休養ってことで」


有島に向けてそう言うと、横にいたイリアに

「いや、明日から訓練だ」

「・・・・・」

何言ってんの?このおっさん、ディーテは肋押さえながら思った





「強化兵士ってすごいんだな・・・」

そう呟いた奏の声に畏怖の響きを感じ、さくらは眉を潜める


「ディーテはディーテよ」


「うん、でも・・・」

その先に続けられようとする言葉を遮ろうと、口を開いたさくら──、


「すんげぇー!!」


それより早く春人の声が遮る

「マジ凄くね!? かっけぇー、

俺もイリアのおっちゃんの訓練受けたら強くなるかな?

明日からかぁ、楽しみだな、奏!」


満面の笑みで言う春人に毒気を抜かれたのか、いつもの調子に戻った奏は

「いや、俺は出来れば遠慮したい」

まだ死にたくないと、後ずさる


「なんだよー、友達だろ一緒に行こうぜ!」

奏の肩を掴み、楽しそうに言う春人


「お前の『行こうぜ』が『逝こうぜ』に聞こえる・・・」

「何か違うのか?」

「・・・・・」


春人と奏の会話を聞き、ホッとするさくら


──ん? と思う


それは何処からきた安心?

何に対しての?


自分の心に確かめようとすると、

聞こえる少女の声


───思い出さないで



・・・・・何これ?


戸惑ったように固まったさくらに春人が言う

「さくらも一緒な!」


・・・・・いや、流石に遠慮したい


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