ー砂漠のキツネたちー 1
帝国によるエテジア壊滅から4年──
ダハブ砂漠から南に、カスティア平原を越えると
進路を東に変え更に南下する
僅かに潮の香りが漂う、ひび割れた地面が続く荒野を
三台の車が土埃を上げならが疾走している
「うっわ、三台とも真っ赤って・・・、趣味悪くね?」
真っ赤に塗られた三台の武装された車、その横に描かれた旗の模様を望遠ゴーグルで覗きながら
「赤い風だから赤とか・・・」
ないわーとひとり呟く少年に
仲間のひとりが「お前のそれも無いけどな」と少年が股がっているバイクを指差す
荒れた土地での戦闘に特化したバイクは、少年の好みなのだろうか
なかなか奇抜な色に変更されていた
「マジかよ、この高尚な芸術がわからないとか。ダメじゃん」
そう言いながら、バイクに股がったまま足をぶらんぶらんさせてる少年に、後ろから声がかかる
「──おい、春人。
お前のよくわからん高尚な趣味はもういいから、そろそろ準備しろ」
春人と呼ばれた少年は、へいへいとバイクのエンジンを掛けた
「今回はただの足留めだからな、無闇な戦闘はさけろよお前ら。
危ないければさっさと離脱しろ」
今回の作戦部隊の隊長の男はそう言うと「特にお前は。」と春人に念押しした
不満気味に口を開こうとしたところに、無線が入る
《──ポイント通過した、出るぞ!》
その言葉に、待っててましたとばかりに真っ先に斜面をかけ降りる春人
「あっ!、おい、春人!」
呼び止めた隊長の声はエンジンにかき消され、少年の姿は舞い上がった土埃に見えなくなった
「──あの馬鹿! 目立つから後方につけようと思ったのに・・・。
まぁ、いい! ヤツに続け!」
そう言うと、残り2台のバイクと武装車両も
白く塗った車体に大きく赤い丸を両側に施した、春人のバイクを追ってを斜面を下った
フォンフェオンの赤い武装車両の背後についた春人は
そのまま加速すると最後尾の車の側面に並び、サブマシンガンを構え弾を放つ
敵の銃砲がこちらに向いたのを見て、一旦後方に退避すると
逆側面から攻撃を開始した仲間に合図をする
仲間に場を任せて、再び加速し赤い車両を3台とも抜き去ると、1番前に躍り出た
「オーニさん、こっちだっ!と」
蛇行し敵の車両を煽りながらそう言いと、弾が顔の横を掠めていった
「うぉっ、あっぶねー」
《──調子に乗るな》
無線から声がする
《──もうすぐランデブーポイントだ、用意しろ》
それだけ言うと無線は切れ
その後すぐ、疾走していたはずの大地が消えた──、
「いやっっっほぅぅーーー!」
バイクと共に空中に飛びだした春人は、楽しげな声を上げると
10m程下の大地に華麗に着地した
そして土埃をあげなから大きくカーブを切りバイクを止めると
降りてきた崖の方向を見上げる
同じく飛びだしてくる2台の赤い車両、悲鳴と共に焦ったようにハンドルを切るのが見えた
ハンドル切ったって無理じゃね?と残念そうに眺めていると
無線から届く声──、先ほどからの声と異なり
澄んだ少女のそれ
《──春人、避けて!》
「ん? えっ、 ───マジ!!」
残りの1台がこちらに向かって落ちてこようとしていた
とっさに回避行動を取ったが、やべぇ、間に合わないか!
南無三!と覚悟をしたところに
空中に飛びだした車両が爆散した──
(ふぁっ!?)
至近距離で爆発した車両の爆風を浴び、衝撃でバイクと共にふっ飛んだ春人は
唖然とした表情で車両の残骸を見た
(え?、何? どーゆーこと?)
そこに降ってくる声
「ホント、春人は色々雑過ぎる」
それは無線から聞こえた少女の声
振り向くと、ジープのハンドルを握りこちらを眺める細身の影
砂色の髪の毛は少年の様に短く、戦闘服に身を包んだ姿は
声を聞かなければ少年の様にもみえる
「ディーテに感謝しなよ」
「えー、さくらにならするけど
そいつには嫌だ」
さくらの横に座わった赤い髪の男に向かって言う
設置型の対空砲ライフルを何てこともなく片手で担いでいる赤い髪の男、ディーテは
「お嬢、別にこんなやつ助ける必要なかったんじゃね」
そう言いながらこちらを見て鼻で笑う
「砂ギツネならぬ、砂ダヌキか」
「何がだよ!」
そう詰め寄ろとした俺の後ろで不穏な気配が
「あれだけ・・・・・戦闘は回避しろと・・・言ったのに」
プルプルと肩を震わす隊長を見て春人は
「残務処理に行ってまいります!」
行儀良く敬礼すると、合流した他の部隊の片付けにかこつけて
さっさと逃げ出した
この大陸エルディアには、帝国のような大きな国以外にも大小さなざまな国や村がある
それぞれが自警の、軍や部隊などを持っているとこも有れば
フォンフェオンの様に大きくなった部隊が共同体を形成することもある
その一つ、フォンフェオンと勢力圏的に重なりあう場所に部隊を構える
─砂ギツネ─
本来の生活の場、ガレッジからは少し離れた中継基地で
この部隊のトップという位置にいる男、有島 二郎は
くすんだ金髪の男とのんびりとボードゲームに興じていた
「──待った!」
「待ったは3回までです、はい、王手」
ぐぬぬーと頭を両手で抱えた金髪の男─その片手は精巧な義手だ
「ヒュース、そろそろメンテナンスの時期だろう
一度、村に戻るか?」
ヒュースの義手に目を向け問うと、彼は曖昧な顔をする
「いい加減、さくらも大丈夫だと思うが?」
「・・・・うん、そうなんだけどね、
どっちかというと俺の問題かな?」
そう言う彼を半分呆れ顔で眺めると、入口の方が騒がしくなった
『フォンフェオンへの嫌がらせ』という名の作戦に出ていたチームが帰ってきたようだ
「マジないわー、こんなんなってるなら早く言えよ」
「だから砂ダヌキだ、って言っただろうが」
「たぬきって可愛いじゃない」
「マジ! んじゃ、俺たぬきでいいや!」
「お嬢はお前を可愛いって言った訳じゃねぇぞ」
そんな会話を繰り広げながら部屋に入ってきた3人に
眉間にシワを寄せたまま有島はため息をついた
(うっわ、やっべぇ・・・総隊長の顔が怖ぇ)
春人は有島の姿をみて、あわてて顔をそらすと
横にいる金髪の男の方へ向けて挨拶をした
「こんちわー、ヒュースさん」
その春人の顔を見てぶふっと吹き出すヒュース
「うん、見事にたぬきだねー」
「顔だけでなく全身真っ黒だけど、今回は戦闘でもあったのかい?」
そう尋ねるヒュースに有島が答える
「こいつだけな。──神崎からは報告うけてるから詳細はいらん」
途中、「だって、ディーテのやつが・・・」と弁明しようとした春人を制しながら
神崎とは先ほどの作戦隊長の名前だ、無線で常時連絡を受けていたので大体の状況は把握している
「何か理不尽だ!」とぶつくさ言っている春人を無視し、有島はもう二人に疲れを労う言葉をかけた
そして、さくらに
「ヒュースが義手のメンテナンスの為に村に帰るが。さくらは?」
一緒に戻るかどうかを確認する
さくらは後ろに立つ赤い髪の男を一旦ちらっと見ると、ヒュースに
「私はまだこっちに残こるよ、ヒュースさんは戦闘人員でもないから戻った方が良いと思う。
ディーテもいるし私は大丈夫だよ。」
──ヒュースさん
理由はわからないが、その言葉に少し辛そうな顔をしたヒュースに
「いや、俺もいるから大丈夫だって」
と胸を叩く春人
「・・・・・そうか」
寂しそうな笑みを浮かべ頷くヒュースを見て思う
えらく心配症だなぁ、もう3年も経つのに・・・
──3年前、
春人が所属するこの部隊、砂ギツネに
さくらとディーテを引き連れてヒュースはやって来た
そこまでの経緯は当時まだ13才、戦闘要員として駆り出されたばかりだった春人には知ることは出来なかったが
ヒュースは有島に客人として迎えられた
ヒュースが連れてきた赤い髪の男ディーテは飛び抜けた戦闘力を持っていた為、部隊にとっては寧ろ歓迎する存在だった
しかし、彼は最後のひとり─さくらと名乗った少女の側を離れることを良しとせず
必然的にさくらも戦闘要員に加える話となる
ヒュースとディーテはそれに対して意義を唱えたが
当の少女が「構わない、私は戦う」との意思を頑なに固持した為
渋る二人を説き伏せ有耶無耶のうちに今に至る
二人がひどく気にするのは、さくらの記憶が、完全にではないが所々欠落していること
生活等に不自由はないが、ヒュースが時々悲しそうな顔をしているのは、きっとその無くしてしまった記憶に関してなのだろう
「──さくら!」
春人は食堂でトレーを抱えた少女を見つけると、こっちと呼ぶと共に、隣で食事していた少年を押し退ける
「・・・お前なぁ」
押された少年の文句は無視し、さくらの為の席を確保する
さくらは呆れ顔のまま、こちらにやって来ると
押された少年に声をかけた
「奏、ごめんね」
「いや、春人が馬鹿でアホなだけ」
奏は自分のトレーをずらすと、さくらの分を空けた
「ちょっと待て、俺のどこが何って?」
さくらの横から身を乗り出して抗議する春人に、さくらは遮るように座って言う
「うん、奏の意見に賛成」
比較的、若者が多いこの部隊でもこの3人は十代とまだ若い
有島が意図的に集めたのかはわからないが、東洋の出身だろう者が多く
年齢より若く見えるみえることで、余計にこの部隊が他方から若輩者扱いを受けることに繋がっている
「そーいえば、ディーテは?」
いつもさくらの側を離れない男がいないことに気づいた奏が聞く、「あいつの話はすんなー」と呟く声を無視して
食後のミルクをたっぷり入れた紅茶を、美味しそうに飲んでいたさくらは言う
「有島隊長とヒュースさんに捕まってたよ」
「ふーん、何かまた作戦でもあんのかな?」
そう口にした奏
「マジ! 漆黒の闇を切り裂く、一条の白き光、俺の愛馬ブリュンヒルデの出番だな!」
と拳を握る春人
「えっ・・・・嘘でしょ」
「あいつのセンスって一体・・・」
二人が同時に発した言葉は、春人には聞こえなかったようだ




