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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
34/52

ー赤と白と黒とー 18

「まだ何もわからんのか!」

大聖堂の奥まった一室で、険しい顔をした恰幅のよい中年の男が信者のフードを来た男達に怒鳴る

「しかし、教王様・・・!」


「言い訳などいらん!」

教王と呼ばれた男は弁明をしようとした信者の言葉を遮ると、男達を見下ろす

「いつまで、そこにいるつもりだ? さっさと犯人を探し出せ!」


「──はっ」

男達は一様に頭を下げると室内から辞した


今日の午後、目にかけていた甥が何者かに寄って殺された。しかもこの教王である自分が納めるこの場に於いて、大聖堂の尖塔に突き刺さった状態で

惨たらしい甥の死に男は激怒した。直ぐに犯人を見つけ出しエルデ教の名の元に裁きを下してやろうと

あんなことをしたのだ、少なからず目撃証言があってもおかしくないはずだ。なのに、もう夜も更けようというのに何の手懸かりさえも見つからない


「・・・・・くそっ!」

聖職者であるはずの教王は悪態をつく


こんなことをしている場合ではないのだ、明日には、いやもう今日か。既に日付は変わっている

あの赤い瞳の皇帝が来るというのに、何の対策さえも取れていない


オストログ帝国を手中に納め力を付けたルードリィフに、この国の代表の男の送り込み一度面会を申し込もうとした。だが、あの男はそれを蹴った

なのに今度はあちらから謁見を申し出てきた、その理由は───?


白い髪、赤い瞳

現在、この大聖堂に集められている子供達と同じ色を纏った男

ルードリィフは現在35歳だと聞く、ならば25年前は10歳──、贄に慣れるはずであった年齢だ


それが何を意味するのか?


この殺害もヤツが仕組んだことなのか・・・?

男はその可能性を考えるが、理由が浮かばない

嫌がらせとも取れるが、一人の男を殺すのにそんな手の込んだことはしないだろう


教王は舌打ちをすると、考えるのを止めた

どうせ明日にはルードリィフと顔を会わすのだ、その時に考えればいいことだと

甥には可愛そうだが、今更何をしようとも死んだ者は還らない。生きている自分の身の方が大事だ

男は皇帝との対面のためだと、自らはもう休むことに決めた






ルードリィフが率いる大隊はモントア共和国に入った直ぐの街に部隊を駐屯している

明日は部隊を分け、中隊のみでエルデ・ナジオンへと赴く


「お前、エルデ・ナジオンで何かしただろう?」

ルードリィフは自分にあてがわれたこの街で一番豪華であろう部屋へ、ふらりと入ってきた背の高い黒髪の男に言う


男、ユーリは皇帝から掛けられた言葉に、些細なことだというように告げる

「───いえ、ちょっと害虫を処理しただけです」

大切な花を傷つけられたので。と


そんな男の態度にルードリィフはふっ、と皮肉げな笑みを浮かべる

「まぁ、いい。エルデ教の奴らが探りを入れてきたが、どうでもよい。

それよりどうだった? 信仰の象徴である大聖堂は、感慨深いものがあったか?」


「・・・いえ、別に何も」

男のこれまたどうでもいいという態度にルードリィフは声をあげて笑う

そして赤い瞳の皇帝は徐々に笑いを納めると「・・・そうか」と呟き、

「では、私も明日、25年ぶりの再見でも果たそうか」

静かに笑みを消し言った



「───ところでお前はどうする?」


教王との謁見に立ち会うか?とルードリィフが聞けば、ユーリは

「明日は用事がありますので」と

今までと打って変わり、瞳に愉しげな色を浮かべた


男のあからさまな変化に皇帝は苦笑する。もう男は心の内を隠そうとはしない。自分の望んでいたものに気付き、それがすぐ側にあるのだ

執着を向けられた少女には同情するが、大切なものを失ってしまった者の気持ちはよく分かる

ましてや、それが再びこの手に戻るというのなら、


きっと何だってするだろう


自分にはもう二度と叶わないこと、


ルードリィフはユーリに目を向けると、そうか。と呟いた







今日は朝から何やら慌ただしい、目覚めた時にはディーテはもう部屋に居らず

居間の方では早朝にも関わらず神崎が何処かと連絡を取る声が聞こえる

「そうか、わかった! では本日決行だな、了解した」


神崎の横にいたディーテに声をかけると、男は、おはよう。と言いながらダイニングの椅子へとさくらを促す

「今日が決行なの? 今夜?」


コーヒーにミルクをたっぷり入れたものをさくらに渡すと、自分はそのままのを注ぎ、さくらの対面に座る

「いや、午後かな? 皇帝が謁見する時を狙うそうだ」


「えっ!? 大丈夫なの?」

危ないんじゃないか?と問えば


「教王は皇帝を警戒してるらしいんだ、牽制しあってるが正しいか。皇帝がいる限りはそれに集中するだろうし、そこで何かが起これば必然的に目は帝国に向くだろ?」

時間稼ぎにもなる。と


神崎にたたき起こされた少年二人もダイニングへとやって来た

「・・・今日だって?」

目を擦りながら聞く奏に、さくらはディーテと同じくブラックのままのコーヒー渡す

起こされたが椅子に座ったまま、また目を閉じた春人の前にはコップいっぱいのミルク


神崎も椅子に座ると

「混乱を起こすにはそこが最適だな。謁見には赴くが対談ではないから、皇帝どのは兵士一部率いたまま大聖堂に入るらしいぞ。信者達は気が気じゃないだろうな」


「えっ、武器を携帯したまま!?」

やっと目が覚めたのか奏が驚いたように言う


「いや、それはないだろうが、どうだろう? 牽制しあってるのに丸腰ってこともないような」

抜け穴ぐらい幾らでもあるさ、実際俺らもそうだろ。と神崎が笑う


「でだ、ディーテはひとりで行動する方が良いだろうから、奏と春人は俺と一緒に来い。・・・てか、いい加減に起きろ!春人!」

さくらの横で船を漕いだままの春人の頭に拳が落ちる


「いってぇっ!」と頭を押さえた少年に目を向けるとさくらは尋ねる

「私は?」


「──お嬢はここにいて」間髪いれずディーテが答える


「嫌! 私も手伝う! ここに来てから私だけ何もしてないじゃない、そんなの嫌!」

さくらは目の前の男を睨みながら言う


「ダメだ」と

頭ごなしに否定する男に神崎は声をかける

「ディーテ・・・、とはいっても全員出払ってしまうから、さくら一人になるぞ?」


「なら、外から鍵をつける」


そこまで言い切る男に呆れたような目を向けると

「なら、お前がさくらを連れていけ、側に居る方が安心できるだろ?」


「・・・それは、」

神崎の提案に、ディーテは一度言葉を切るとさくらを見る

「ディーテ・・・!」と懇願するように男を見つめれば、逡巡した素振りを見せたが、小さくため息をつくと、分かった。と

「その代わり絶対俺の側を離れないこと」


さくらに言い聞かせるように言う男に笑顔で返事を返すと、話しは決まったとばかりに神崎が言った

「さぁ、奪還作戦の開始だ!」と


急いで朝食を食べ終えると、さくらはディーテと共に街へ出た

街は皇帝の訪問を警戒してか、いつもの信者達の姿に加え自警団の男達の姿がより多く目につく

その自警団の男の一人とディーテは先程から何か話をしている。その男も仲間らしい

話の内容はディーテに任せ、また街へと目を向けたさくらは、もう幾人かの帝国の制服を着た者も街へと入っていることに気づく

(皇帝が通る道の警備なのかな?)


信者の白いフードで溢れる街に帝国の黒い制服は目立つ。それを目で追っていたさくらは、人混みの中に昨日会った男を見つけた───、


男はこちらを見つめ、優しく微笑んでいて


呼ばれるようにそちらに足を進めようとしたさくらにディーテが声を掛ける

「──お嬢? どうかしたか?」


ディーテの声に、一瞬目をそらした間に男の姿は消えていて。街にいるのだから、そりゃ何処かで出会うこともあるだろうと

「・・・ううん、何でもない」とさくらは頭を振った


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