表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
32/52

ー赤と白と黒とー 16

次の日、目覚めたさくらは見慣れない部屋に戸惑い、場所を確認しようと扉に向かったが、丁度そこから現れた赤い髪の男に再びベッドへと連れ戻された


「ディーテ?」

男は先程からさくらの呼び掛けにも応じず、ましてやこちらを見ることもなくベッドの横に置いた椅子に座り何かの書類に目を落としたままだ

「ディーテってば!」いい加減、語気を強めて呼んでみると、男はやっと書類から目を上げこちらを見た


そのディーテの視線を受けて

(うわぁ・・・、怒ってる・・・よね、そりゃ)

昨日の夜の邂逅をのぞけば、ディーテとこうして顔を会わすのは一週間以上振りだ。いや、もうすぐ二週間になるかもしれない


無言でこちらを見たままのディーテに、

「・・・・怒ってる?」と聞くと、男は視線を落とし大きく息を吐くと

「勝手に出て行ったことを言ってるなら、凄く腹がたった」


「だ、だよね・・・」


「でも、一番腹立たしいのは自分自身なんだけどな」

ポツンと呟いたディーテの言葉はちゃんと聞き取れず、「ん?」という顔をしたさくらに、男は立ち上がり近づく。揺れる瞳でさくらを見下ろすと、静かに確認する


「お嬢・・・、触れてもいいか?」

そっと躊躇いがちに伸ばされた手に、さくらは、大丈夫。と笑う


自分の頬に触れた手に自らの手を添え、さくらは目を瞑る

この手は安心できるもの、あんな男の手とは違う


起こってしまったことに今更悔やんでも仕方がない。ディーテが助けてくれたので、最後の一線は越えてはいないのだから

だけど、もし今度あの男と顔を会わせることがあったら、思いっきり引っ叩いてやろうと、

そう決意を固めたさくらの体を、ディーテは頬に添えていた手を外し全身を包む


「・・・お嬢、頼むからもうひとりであんなことするな」

そして必ず、自分に伝えてくれ。と

さくらを包み込み、頭上から綴る声はとても切実で、さくらは「ごめんなさい・・・」と言うことしかできなかった



あんな事があった後なので「お風呂に入りたい!」とディーテに必死に訴え、やっと部屋の外へと出ることが出来たさくらに、居間にいた少年二人が駆け寄ってきた


「さくら! 大丈夫なのか!?」

こちらを覗き込むように切羽詰まった感じで問う春人は、少し窶れていて、

心配かけてしまったことをすまなく思い、さくらは謝る

「ごめん、心配かけたよね? 本当にごめん!」


「それより、何ともないのか!? 顔に血がついてたけど・・・

──あっ! 顔、内出血してるじゃん!?」

ドアをぶつけられた痕のことだろうか、気になってさくらも鏡で確認すると、鼻と額周辺に内出血が見られる


「うわぁ、これ・・・、しばらく外出れないじゃん。これ化粧で隠せる?」

今はうっすらと青いだけだが、明日、明後日には更に酷くなるだろうことが予測でき、引っ叩くじゃなく、あの男にはグーパンチを見舞ってやることに変更した


「どうしたんだよ、・・・それ?」と、さくらの普段と変わらない態度に、春人は少し口調を戻して聞く。ディーテは何も話していないようだ

さくらはニヘっと笑うと、顔面から転んだ。と詳細は言わないことに決めた


春人はさくらのそんな返答に顔をしかめ、一言も口を挟まず話を聞いていた奏は、眉間に刻まれたシワを見るに、もしかしたらある程度は状況を推測出来ているのかもしれない

だけど、二人共さくらがそれ以上何も言いたくないことが分かったのか、他に尋ねることはしなかった



玄関を開けるなり、声をかけながら男が入ってくる

「おっ!さくら目が覚めたか! うん、良かった良かった!」と神崎はさくらの姿を見て頷く


「あれ・・・? 隊長も居たんですね。


──ところで、ここどこ?」


今更ながらに状況を確認するさくらに

やっぱり、あの夜は俺のこと認識してなかったのな・・・。と神崎は少し寂しく思う

「ここはツテを頼りに借りてる今回の作戦本部だ」


「作戦って・・・?」


困惑気なさくらに続ける

「もちろん! ・・・・・お前らの手助けに来たんだろうが」


「あっ・・・・」

神崎は無言になったさくらの頭をポンポンと叩くと、戻ったら有島にちゃんと謝れよ。と告げる

「俺らには怒られろって言ってたじゃん」と呟く春人は無視し、さくらに、ディーテの居場所を尋ねる。今は部屋で何か書類を見てるはずだ、と


「冷蔵庫の中の材料で、三人で適当に何か作ってくれ」

それで、後で早めの夕食でも皆で食おう。

神崎はそう言うと、さくらが先程まで居た部屋へと入っていった


「えっ・・・、嘘?」

「ちょっ、マジで・・・?」

神崎が言い残した言葉に反応する二人


何故か作る料理が料理でなくなるさくらと、卵を割るのでさえ五回に一回の成功率の春人


(それを言いたいのは、俺じゃね?)

唯一、まともな料理が作れる奏は大きくため息をついた




奏の頑張りに寄って作られた夕食を終えると、大人組はまた膝を付き合わせ話しを続けている。時折どこかと連絡をとっているようだ


料理では何も手伝うことが出来なかったさくらと春人は、せめて片付けでもと二人で流しに立っている

(結局、私って何の役にも立たなかったのね・・・)


さくらが思うのは料理のことでなく今回のエルデ・ナジオンに於いてのことだ

夕食の用意をしている時に春人と奏から聞いたのだが、さくら達が行ったことは既に何の意味もなく

もう、決行のタイミングを待っているだけなのだと、さくらの行動は無駄だったのだと


(え・・・? 私襲われただけとか!?)


嫌なことを思いだし顔をしかめながらお皿を洗っていたさくらは、あること思い出す


「春人、そう言えば私、リズちゃんと会ったよ」


「えっ! マジで!」

洗い終わった食器を片付けていた春人が驚いてこちらを見る

「どうだった!? 元気そうだった!?」


「うん、病気とかそういうのは無さそうだったよ。」と、リズとのことを春人に伝えた



「・・・・・そうか、」

話を聞き終えると、俯いてしまった春人にさくらは余計なことを言ってしまったかと

「ごめん、春人・・・、余計気になるよね。まだ直ぐに迎えに行けないのに・・・ごめん」


さくらのそんな言葉に顔を上げた春人は、さくらが思っていたのとは違い、

「何で謝るのさ? そうか、・・・リズ、ちゃんと持ってたんだ・・・。

──うん、ありがとう、さくら!」


教えてくれて。と、物凄く笑顔で言う春人に

自分のしたことは何の役にも立たなかったけど、それでも春人のこんな嬉しそうな顔が見れたことで、さくらの心も少し軽くなる


「早くリズちゃんに会えるといいね」

春人につられたようにさくらも笑った







ディーテは先程の神崎との会話を思い返す


「どうも、皇帝殿が非公式にモントアに来るらしい」

神崎はオストログの皇帝を揶揄するように言う


どういうことだ?と尋ねたディーテに

「教王との謁見を求めたみたいだぞ」

それ以上はまだわからん。と

その会話はそれだけで終わったのだが、ディーテにとっては男と交わした話の中で、その会話が一番気にかかった


皇帝が来るだと?

それに伴って思うのは、一人の男のこと


「ディーテ?」

部屋に入ってくるなり難しい顔で黙りこんだままの自分に、まだ怒っていると思ったのか、さくらがこちらを覗き込みながら尋ねる

ディーテはゆっくり頭を振ると、何でもない。と笑みを作る


だけど目の前の少女はまだモジモジと何か言いたげで、お嬢──?と問えば

「・・・あのね、色々ありがとね」と

あの夜のことと、自分達の手助けの為に動いていることを言ってるのだと思う

ディーテは今度はちゃんと笑うと大きく両手を広げる


「───・・・何?」

そんなディーテの仕草に不審な目を向けるさくらに

「見返りの補充」とだけ告げる


さくらは顔をしかめると「何かセクハラ親父っぽい」と、満面の笑みをたたえたままのディーテに言う

それでもポスッと自分の腕の中に身を委ねたさくらを、ディーテはぎゅっと抱きしめる

さくらが目覚めた時のそっと包み込んだものとは違い、今度はちゃんと少女の体温を感じる取れるくらいの

さくらがここに存在(いる)ことが分かるくらいの

ディーテが先程思い浮かべた懸念を払拭するかのように


「お嬢、もう何も言わず勝手にいなくなるのは止めてくれ」


この温もりを無くさないように、閉じ込め腕の中に囲いこんだ少女は小さく、分かった。と呟いた




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ