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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
29/52

ー赤と白と黒とー 13

初日から目的の子供達に会えたことで、あまりにも事が上手く行き過ぎ、逆に困惑してしまうさくら

お世話と言っても子供達は大人しく、各自ひとりで遊んだり、本を読んだりと別に何もすることはない

なので他のお世話役の二人も、時折注意は向けるがそれ以外は同じく本を読んでいたり、編み物をしたりと自由に過ごしている

(何、この平和・・・?)


手持ちぶさたのさくらは部屋の窓へと近づく


大聖堂は三階までは吹き抜けのホールになっている為、この部屋は左右に分けられた四階部分の場所に当たる。なので窓から見える景色はなかなかに良い

(しかし・・・、どうしよう?)

二人に連絡する術が思いつかない。どうやらこの窓もはめ殺しとなっていて開かないようだ


うーん。と唸るさくらのスカートを、きゅっと掴かまれる感覚に視線を下ろすと、赤い瞳と目があった

こちらを見上げているのはまだ幼い女の子。さくらはしゃがみ込むとその子と視線の高さを合わせ、

「どうかしましたか?」とゆっくり笑顔で聞く


「・・・・・外、」


「外がみたいの?」と尋ねると、こくん。と頷く幼女に、

さくらはよし!と言うとその体を抱き上げる

小さな彼女の身長では窓の外を眺めることが出来ないのだ


さくらに抱えあげられ、見えた窓の外を何かを探す様に必死に見つめる幼女に

「何か探してるの?」と声をかけると、彼女は首にかけた紐を引っ張り服の中から何かを出そうとする、


「───窓の外に顔をだしてはダメよ」

そう声をかけてきたのは同じメイド服を着た年長の少女

「リズ様を下ろして」の声に慌ててさくらは幼女を床に下ろす


( ──リズ!?)

幼女が呼ばれた名にさくらは驚き、床に下ろした彼女の白い頭髪を見下ろす

「外からの標的になる可能性もあるから顔を覗かせることはしてはいけないの」

さくらを注意した少女が続ける


「・・・リズ、様と言うのですか?」

さくらの問いに「?、──ああ。」と答えると

「ええ、このお方はリズ様。でも個別のお名前は別に今すぐ覚えなくていいわ。むしろ覚える必要もないわね」

個別で接することはいらないと、全てを贄様という存在で呼べば良いと


さくらはきゅっと唇を噛むと

「・・・わかりました」と返事を返した


この子がリズだとすれば、先程、窓の外で必死に探していたのは春人かもしれない

春人からは全て聞いている。そしてリズが服の中から引っ張り出そうとしていたのは彼が預け、必ず取りにいくと言った物だろう


世話人の少女がまた自分の席に戻り、やりかけの編み物を再開したのを見届けると

さくらはまだ足元にいるリズの頭にポンと手をやる

そして彼女に視線を下ろすことなく、リズだけに聞こえるように小さな声で言う

「また見たくなったら、言ってね。こっそりと」


幼女がはっとこちらを見上げた気配はあったが、さくらは顔を向けることなく、笑みを浮かべた自分の唇に人差し指を当て「しっ」という動作をすると、その場を離れた


これくらいの望みならいつでも叶えてあげたい、こんな小さなお願いくらい幾らでも

でも、まだ春人が来てることも、助けようと動いてることも言ってはいけない。バレる訳にはいかないから


今直ぐにでも春人に伝えたい気持ちでいっぱいで、さくらは胸の中で呟く

(春人! リズちゃん見つけたよ!)





その春人はというと、両頬を氷嚢で冷やしている

幸いなことに歯が折れることはなかったが、冷やしておかないと次の日スゴい事になるだろうことは目に見えている

「それだけで済んだことが奇跡だと思うぞ」

神崎がもうひとつ氷嚢を作ると奏に渡す


「すみません・・・」と奏は受け取ると片頬に当てる

奏は片方だけだ、何か不公平。と春人は背を向け、どこかと連絡を取っている赤い髪の男を睨む


今は施設を引き揚げ、神崎達がいる部屋に二人共来ている

部屋は何室か備えたコンドミニアムで

「・・・何でこんな立派な部屋取れるんだよ? 部屋なんて空いてないって言われたのに」

春人が恨みがましい目で神崎を見る


「お前らみたいに、考えなしに行動しないの大人は」

と言うと、氷嚢を作っていた氷を冷蔵庫に戻し、二人の向かいに座る

そして、少し声のトーンを落として告げる

「・・・エテジアの件は耳にしてるか?」


「爆発があって街の人達も巻き込まれたことは・・・」奏が答える


「そうか──、」と一度言葉を切った神崎は続けて

「その爆発にクーロンのフォンフェオンの者達も巻き込まれたと有島より連絡がきた」


「──はぁ!? なんで・・・?」

驚きで発した言葉が頬にきたのか、痛みに顔をしかめ春人が聞く


「詳しくは俺にもわからん。俺達もルズガルを離れた後だったのでな。それと──、


ズーハオも亡くなったようだ」


「そんなっ!」

「!!」

神崎の言葉に声を失う二人

それではフォンフェオンはまた頭を失ってしまったのかと。しかも、ズーハオにはクーロンで少しだけだったがお世話になった二人だ。少なからず縁はあった人物の死に春人も奏も黙り込む


「ま、詳細は帰ってから、有島に聞くんだな」

ついでに怒られろ。と神崎は話を切り上げた



そこにちょうど連絡が終わったのか赤い髪の男、ディーテがやってくる

「神崎、やっぱりそうみたいだ。さくらもそこにいるらしい」


「行くのか?」


「すぐにでも行きたいが夜になってからだな。8時に手筈を整えてる、向こうもそれくらいの方が都合がいいと」


「そうか。じゃあ、俺も準備するか!」


そう言い、立ち上がった神崎にディーテは微妙な顔を向ける

「お前もいくのか・・・?」

俺ひとりで充分だが?と言うディーテに


「さくらの事となるとお前、暴走するかも知れないだろ?

そのストッパー役だからな」とニヤッと笑う


そんなストッパー役である神崎によって両頬だけの犠牲で済んだ少年が叫ぶように言う

「ちょっ! ちょっと待ってよ! えっ、どういうこと!?

もうさくらの居所が分かったの!? しかも既に手筈が整ってるって!?」


「・・・だから言っただろ? 大人は考えなしに動かないって」

神崎は呆れたように春人を見ると、再びソファーに腰を下ろす


「今、俺達の他にも大祭の儀式というやつをぶち壊そうと動いている有志がいる。そいつらと組んだ。

その中には既に信者として深く大聖堂に潜り混んでいる奴らもいるんだよ」

だから情報の入手も簡単なんだ。と


「お前らガキの遊びとは違うんだ」

付け加えるようにディーテが冷たく言い放つ

「───っ!」


遊びなんかじゃない!と、言い返したかったが、

自分達がこれまでで出来たことなんて本当に何にもないじゃないか、という現実が春人の言葉を止めた

そんな春人の肩にポンと横から手が置かれる。奏はこっちを見て諦めたように小さく首を振る


・・・・・その通りだ、と

二人が言うように自分達はまだまだ子供なのだ


さくらに危険な役を任せ、やっと見つけたかもしれないリズの居場所もディーテと神崎からしてみれば既に周知の事実で

自分達が手こまねいている間に、二人はもうその先の段階にいる

「・・・・・」


無言になり黙ってしまった春人に、神崎はふっと笑うと

「さくらは俺達が連れ帰るから、お前達はその顔の腫れ何とかしとけ」

そう言うと、その腫れを作った張本人のディーテと共に部屋を出ていった



「・・・何だかなぁ」

腫れがひどくなってきたのか喋ると痛い。痛む頬が殴られたせいなのか氷で冷やされたせいなのか、

その痛みに、春人は顔を歪める

「いつからなら大人って認められるんだろ・・・」


「さぁ・・・。 俺もわかんね」

返答など求めていないのだろうが奏が答える


「早く大人になりたい・・・」

そう言うと、春人は暗くなりかけの窓の外へ目を向けた




無言で装備を整えていく赤い髪の男、それを眺めながら神崎が口を開く

「もうちょっと穏やかに接してやってもいいんじゃねえか?」


神崎の言葉に眉間にシワを寄せたディーテがこちらに視線を送る

「いや、確かにお前が手加減してたのもわかる。わかるけどさ・・・」

実際にディーテが本気であれば、二人はぶん殴られるだけではすまないだろう


「こう・・・話を聞いてやるとか? そんなのあっても、いいんじゃね?」


「それはお前や有島がすればいいだろう、俺である必要はない」


まるで取り付くしまもないディーテの返答に

「うーん・・・」と唸る神崎

今回の件で男はかなり頭にきているようだ

それは先程の少年二人に対してだけでなく、今から迎えに行こうとしている少女に対しても


ディーテがさくらに手をあげることは無いにしても、

静かな怒りの方がたちが悪いんだよなぁ。と、神崎はポリポリ頭をかく

(ま、そんな色々な意味をこめてストッパーとしてついていくんだが )

出来れば何事もなく穏便に解決できることを、切に願う神崎だった


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