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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
22/52

ー赤と白と黒とー 6

一台のジープがカスティア平原を北上する

運転しているのは赤毛の男、前方には砂の海─ダハブ砂漠が見え始めた


「思ったより時間がかかったな」

ディーテは車を止めると、ジープの足回りを砂漠用へと変更させる

別にそのままでも行けるのだが、少しでも速く目的地に到着出来ればと


その彼の目的地はエテジア──、



「エテジアに?」

ディーテの問いに、そう。と有島は返事をする


昨日の夜に有島に呼び出されたディーテは

「ちょっとエテジアまで行ってもらえないかな?」と

部屋に入るなり、有島に切り出されたのだ


昨日の迷子の件かと思っていたディーテは、男がそう言ったことに「何故?」と疑問を投げかける


「うん、迷子のあの子の件も、奏の話しを照らし合わせると無視出来ることではないんだけど・・・、


直接的にはこちらに関わることではないからね」


切り捨てるような冷たい発言を口にする有島に、ディーテは何も言わない

有島の立場上それが当たり前と分かっているから


この世界でいくら人道を説こうとも、それが通用するとは思えない

それが通じるのは秩序に寄って世界がまとめられた状態においてだ

バラバラな主義、権力が横行する現状では自分が護るもの、護れるものの範囲を見極めることが必然なのだ



「イリアから連絡が来たんだけど、エテジアで暴動が起きそうだと」

クーロンのフォンフェオンが送り込んだ手の者の報告だそうだ


「何故エテジアの奴らは逃げない?」

そんなもの起こすぐらいクーロンに遁走した方が余程マシだろう。とディーテは言う


「そうだね、それを見越してズーハオは部隊を近くに待機しているようなんだけど・・・」

誰も逃げることもせずただ、不満だけがエテジアを充満していってるようだ


「こちらとしても、それがちょっと気になってね。


──で、ディーテにちょくら覗きに行ってもらえないかなぁって」

笑顔でそう告げる有島


ディーテは鼻にシワを寄せる

相変わらず食えない笑顔だ。断っても、どうせ行かざるを得ない状況に持っていかれるのだろう

「・・・・・分かった。

今から出る。 覗くだけだからな、すぐ帰るぞ!」


「今から──?」

急なディーテの出発に、なるほど・・・。と頷くとにこやかな笑顔で

「了解した、入口に車の準備をしておこう」と




部屋に戻り急いで準備をしていると、お風呂上がりの少女が部屋に入ってくる

少し伸びた肩まで届く髪の毛をタオルで巻き、こちらを見ながら

「あれ? ディーテどっか行くの?」と聞く少女は相変わらずで


年齢的にも体系的にも少しずつ大人になり始めた少女は、髪も伸びたせいか、もう少年には見えない

だが本人にその自覚はないのか、袖のないシャツに短パンというカッコで男の傍に近寄ってくる


「・・・・・お嬢」

ため息と共に名を呼ばれたさくらは「何よ?」とこちらを見て首を傾げる


計算なのか!?という様なさくらの首を傾げた上目遣いにディーテは

(うん。さっさと終えて、さっさと帰ってくるに限るな)


これからの行動の流れを瞬時に組み立てる

「ちょっと急用で出掛けてくるわ。明後日の昼・・・いや、朝には戻ってくるから大人しくしててね」


「──え? ・・・・・ディーテ、家を空けるの?」


何事かを考えた様に、一瞬言葉を詰まらせたさくらに

ディーテは不審の目をむける

「──お嬢?」


「え?、ううん、何でもない。気をつけてね」

そう言うと、ディーテに笑顔を作るさくら


笑顔を浮かべたさくらをディーテは無言で眺めると、

少女の頭を巻いていたタオルを外し、少女の髪をタオルで乱暴にガシガシと拭く


「ちょっ、なっ! ディーテ!?」


そう言い、男の手からタオルをひったくる。そしてこっちを睨み文句を言おうとしたさくらを、

ディーテが自らの腕の中に、すっぽりと抱え込んだ


そんな男の行動に意味が解らず「ディーテ?」と呼びかける少女に

「うん。ちょっと補充」

さくらを抱きしめたままディーテは言うと、腕の中の少女は「何よそれ」とポツリと呟いた




「───さぁ、さっさと用事を済ませて帰ろう!」


ディーテは旧遺跡入口の南面にジープを隠すように置くと

折りたためる小型のサンドホバーを取り出し、エテジアへと向かった


見えてきた崩れたエテジアの元擁壁と、新たに設置されたシェルターの足元には何の囲いも、警備の兵士姿も見えない

入るのも出るのも遮るものは何もない

逃げよう思えばいくらでも逃げれる状況だ

「───?」


ディーテは擁壁の崩れた部分を利用し、あっという間に擁壁上に登ると街を見下ろす


街には忙しいそうに発掘現場を行き交う人が見える

だだ、もう外側に大きな重機は見当たらず、底へと伸びるクレーンだけが何機も絶えず稼働している

もう発掘は最終段階なのだろう


帝国は、ルードリィフは何を掘り出そうとしているのか?


それは今回の自分の仕事ではないと、ディーテは首を振ると

ここからでは埒があかないと街中に入ることを決めた




こんな擁壁の上に人がいると思う者は居ないだろう、そう思ってのディーテの行動だったのだが

その姿を黒い瞳で捉えている男がいた

「・・・・・」


擁壁上の男をディーテと確認すると、黒い瞳の男はひどく嬉しそうな声で

「───も、居るのだろうか?」と

最初の言葉は強く吹いた風によってかき消されたが


そう告げた男の顔はとても甘く、優しく

まるで最愛の人の名を口にしたような表情をしていた──




街に降りたディーテは砂塵フードを深く被る

この街には見知った顔をもあるかもしれないので大っぴらに聞き回ることは出来ないが

行き交う人々に紛れ、それとなく話しを聞いてみた



──結果は、


よくわからない。それが現状だ


旧遺跡入口に戻ったディーテは人々との会話を反芻してみる


確かにフォンフェオンの人々の口には不満が上がる

それは帝国に、そしてシンイェンに対しての

ならば逃げればいいではないか?と問えば、何を言っているのだ?と

そんな選択肢など初めから存在しないかのように

それは矜持からではなく、本当に彼らの中には存在しないようで

それが聞いた人のすべてに見られた


ならばと帝国側の兵士に、これだけ不満を漏らしているフォンフェオンの人々が、脱走しないように入口に警備をつけないのか?と問えば

こちらもフォンフェオンの人々と同じ反応


やはり彼らにはエテジアからの遁走という選択肢を全く持ち合わせていない


(・・・なんだ、これは?)


記憶の操作・・・、洗脳か?

こんな大勢の人々すべてに?


あり得るのだろうか?

だが、彼らの態度を見る限りにそれが一番しっくり収まる


しかし、誰が?何のメリットが?



そんな思考の渦に埋もれていたディーテは、ここが敵地で有ることもすっかり忘れていた

ただそんな状態でなくとも彼には、背後に寄る男の気配を感じることは出来なかったかもしれない


「────やあ」


「・・・──!!」

にこやかとも言えるほどの挨拶の声にディーテの反応は一瞬遅れる


────それが致命傷となる



振り向き様にガッと首を捕まれたディーテは、苦し気に男を見る、


「・・・ユーリ、アリアス・・・お前っ!」


「久しぶりですね」


底の見えない笑顔を向ける男はギリギリとディーテの首を絞め付ける

その手を外そうともがくが、びくともしない

強化兵士である自分が外すことも出来ない程の力、目の前の奴のどこにこんな力があるのか?


どうするか?と考えたディーテに

「──彼女は?」と、先程までと違う笑顔を浮かべ尋ねる、それはまるで──、


「・・・何の、ことだっ」

分かってはいるが、男の前でその名を呼びたくなくディーテは言う


そんな男にユーリは告げる

「さくらですよ。


・・・・・でも、居なそうですね」

心の底から残念そうな態度で言うと、男はディーテの首を絞めていた手を離す


ディーテは瞬時に後ろに下がると、間合い取り男を睨みつける

「お前がさくらの名を口にするな!」

絞められていた為か、少し掠れた声でディーテが言う


ユーリは不思議そうな顔で、何故とばかりに首を傾げるとこちらを見る

「さくらの名を出すことに君の許可はいらないよね?」

それはまるで──、先程と同じく

愛しい恋人の話しでも語っているような


「・・・・・お前・・・?」


さくらが居ないことでディーテに興味を失ったのか、男は背を向けると歩き去ろうとする


そんな男に怒りを込めたディーテが叫ぶ

「ユーリ・アリアス!」

振り返った男は何だ?とばかりにこちらを見ると、

思い出したかの様に告げる


「──そう、そう。もしさくらがこの近くに来るようであったら、止めてくれるかい?」


「───?」


「もうすぐこの街に暴動が起こるから」

彼女が巻き込まれないように。と





もう振り返ることもなく去っていった男


「・・・・・っ!」

無防備にこちらに向けた背に銃弾でも浴びせたかったが、ディーテの手が銃に伸びることはなかった

本能の中の何かが彼にそれを止めさせた



・・・・・あの男は何なのだろうか?


暴動が起きると言い切った男


このエテジアの人々の偏った意識の流れもあの男のせいならば

暴動は起きるのだろう

さっさと戻って報告しなければと思ったディーテだが


それよりも心を占めるのは、あの男のさくらへの態度だ

四年前の、この場で見た男のさくらを見つめる眼差しには、何の感情も浮かんではいなかった

それまで占めていた喪失も絶望も


男の心の中で、いったい何の変化があったのか?



ディーテは速くさくらの元へ戻らなければと、焦る思いに駆られ、ジープを(カレッジ)へと向けた

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