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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
15/52

ー砂漠のキツネたちー 10

『──いいよ、こっちは大丈夫。別に急ぐこともないしね』

通信機から聞こえるのは有島の声


ズーハオから、今日はこのまま街に泊まればどうだ?と提案されたのだ

今はその件を報告する為、通信機の前に座る三人

『出発は明朝で。寝坊すんなよ、小僧ども』そう言うと通信は切られた


有島と神崎は街の入り口に停められたイリアの大型装甲防護車で泊まるらしい


「いいなぁ、俺もあの車の中見てみたかったんだよなー」

と残念そうに奏が言う


「んじゃー、お前覗いてこれば? 夕飯まで時間あるし」


ズーハオが細やかながら晩餐を開いてくれると言う、

その時間まで、まだ小一時間ほどある

春人の提案の意味を、正確に理解した奏は


「・・・お前、ディーテがいないからって」と呟く



フォンフェオンの部隊に大きな影響力を持つ、古参幹部ハオランに気に入られたディーテは

ちょっと付き合えと、男に無理矢理引き摺られていった


本当に嫌なら、無理矢理だろうが何だろうがディーテが抵抗することなど簡単だが

それをせず連れて行かれたってことは、何か思惑があるのかも知れない

それかハオランという男が気にいったか?


ぽやっとした顔でこちらの会話を聞いているさくらを見る


(うん、ないな)

この少女以外、あの赤い髪の男が気にかける存在などいない

時折この無防備な、ゆるい表情を見せる少女に


(さくらって実は結構お嬢様なんじゃね?)


そう思いながら「さくらはどうする?」と尋ねる


「ん──・・・」と一瞬考えたさくらは、あっ!と思い出したように

「忘れてた! 私、長老さん達と約束してた・・・」


「えー、そんなのほっとけばいいじゃん」


自分の思惑とは違う方向に向かおうとしているのを感じてか、春人が言う


「ダメ! 約束だもん。

私ちょっと会いにいってくるわ」

そう言って立ち上がったさくらに、奏は


「春人も連れて行けば?」

これでも護衛にはなるし、と

 

急に振られた提案に、当の本人は「おっ!」という顔をするが

すぐに仕方ないなぁという態度で

「俺は別に構わないよ」などと言う


また「んー、」と唸ったさくらは「──まいっか」と言うと

「じゃあ、行こっか春人」

そう少年に告げる


意気揚々とさくらと出掛ける為立ち上がった春人は

扉を出る前に奏を見ると、グッと親指を立て

「グッショブ! 奏!」そう言い残し出ていった


勝ち目のないだろう戦いに、それでも挑む親友への

奏からのせめてもの手助けだ

「──うーん、何だかなぁ」と奏は笑った

 




ズーハオにある程度の場所を聞き、忙しいのに案内すると言う男を

さっきので大体地図は頭に入ったからと断ると

「これが若さかっ・・・!」と何故か悔しげに呟くズーハオ


そんな男に、また夕食の時に。と挨拶を告げ歩きだすさくらと春人



目的の場所辺りをうろうろしてると、上から声が降ってきた


「──おお、嬢ちゃんではないか」

見上げれは、木で組まれた大きな露台が道にせり出す様に建てられている

その露台からこちらを見下ろしているのは老リュウとよばれていた老人


老リュウは二人の目の前の扉を指差しながら言う

「ほれ、そこの扉からこちらに来るといい」



露台に上がってきた二人に手招きすると

自分の前の席に座るよう促す


クーロンは入り組んでいる為、風の通りは悪い

だがここは夕方の心地よい風が吹いてる

チリンチリンと澄んだ音が聞こえ、その音の方に顔を向けると

丸い小さな、陶器のようなものから音は聞こえるようだ


さくらの視線に気づいたのか、老人もそちらに目を向けると

「綺麗な音だろう、風鈴と言うのだよ」


「ふうりん?」


「風の鈴と書くのだよ」


「風鈴・・・、綺麗な名前ですね」

この大陸では凹凸が少ない為、風はどこも良く吹く


「良かったら持って帰るといい、構造は簡単だからどんな物を使っても作れるだろうて」


「ありがとうございます、老リュウ」

お礼を言うさくらにニコニコと笑顔を見せる老人は、

ふいに横で同じく風鈴を眺めていた少年を見、

「──ところで、そっちのチンチクリンは何ぞ?」と聞く


こっちに話を振られたことに気づいたのか「ん?」と顔をむける春人


「ああ、春人と言います」

ほら、挨拶!とさくらにつつかれ、

「こんちわー」と言うと、ペコリと頭をさげる


「ふうむ、チンチクリンだのぉ」再び言う老人


「──チンっ! ・・・・チクリンって何?」


そこに含まれる残念そうな響きに、言葉を理解出来ないまま反応した春人は

やっぱりわからなかったのか最後は疑問符になる


「ふぉっふぉっふぉ、なかなか愉快な少年じゃの」

老人は楽しげに笑うと

もう少年に興味はないというようにさくらの方を向く


んだよ、ソレ・・・。ひとり呟く春人



「そうそう、さくらに見せたい物があって呼んだんじゃった」

そう言うと老人は一旦建物内に入ると、腕に比較的大きな植木鉢を抱え戻ってきた


底の低い植木鉢には複雑な枝を伸ばした、25㎝程の高さの緑の葉をつけた低木


怪訝な顔の二人の前にそれを置くと

「盆栽というんじゃ」


「ぼんさい?」


「そう」老人はいたずらっ子のような目でさくらを眺めると言う

「これが、桜じゃよ」


「さくら・・・、──桜!?」


さくらの反応にふぉっふぉっふぉと笑うと

「まぁ、しかし、今は葉桜じゃがの」

少し残念そうに老リュウは言う


「四季がないこの大陸では、本来なら桜は咲かんのだが、

わざと寒さを与えて狂わせれば花は咲くんじゃよ」

急だったので、それも出来んかったがの。と、


食い入るように桜を眺める少女に

「今度来るときは、さくらに見せれる様に調整しておくよ」

だから、いつでも遊びに来るといい。


老リュウはそう言うとさくらの頭に優しく手を置いた





「へぇ、これが桜なの?」

そう言って春人が、もう日も落ちた紺いろの空に掲げたのは

小さなピンク色の花がいくつもついた綺麗な髪留め


老リュウから場を辞する時

再び思い出したかのように老人は

『忘れとった、忘れとった。 ほらこれ』と


胸のポケットから出した、今、春人が持っている髪留めをさくらにくれたのだ


それは貰えないと断ったが、自分の薄い髪を指し

『わしには必要ないじゃろう』と笑い、髪留めをさくらに押し付け、

さくらが再び断る前ににさっさっと行ってしまった


「どうしよう。明日ズーハオさんから返して貰おうか」


「いいじゃん、貰っとけば。返されたらジーサン泣くよ」


何だソレ。と思ったが、確かに返すのも何だか悪いような気がしたので

「そうだね、貰っとくか」と



「うん、その方がいい。 あんなジーサンよりさくらの方が似合うよ」

ほらっと、春人は髪留めをさくらの髪に宛がう


そんな春人を見上げるさくら


──ん?

見上げる?


「───! 春人、身長伸びた!?」

「ふぇっ?」

間抜けな声で返事をした春人に、さくらは顔を近づける


「ほらっ! 目線が違う!」


「───なっ!!」

キスも出来そうなくらい至近距離まで接近したさくらに

真っ赤になり動揺する春人


(えっ、何この状況・・・、ちょっ、マジ近いって・・・!)


さくらの睫毛の長さまで詳細に見てとれるほどだ


(うわぁ、さくらの睫毛って髪と同じ色なんだ、キレイだなぁ・・・)

思わずそっと手を伸ばそうとしたとこに

低く響く声──、



「───おい、何やってんだ。くそガキ」


ビクッと固まる春人

さくらは声の方に顔を向けると

「あ、ディーテも帰ったのね。 ──あのね、春人がね・・・、」


「さくら──、いいからこっちに来て」


さくらの声を遮るようにそう言うと、少女を手招きする

少年から離すように



「なんだ、なんだぁ、青春か!? そうなのか!」

ダハハと笑うのはディーテと共にいた酔っ払いのハオラン

そのハオランを見てびくーっとするさくら

「おい、くそガキ。お前とはちゃんと話さないといけないようだな」

そう低い声のまま言うディーテ


(・・・うん、何、このカオス・・・・・?)


春人はこの状況をどう打開すべきか必死に考えるのだった






出発の明朝、見送りの挨拶に来たズーハオに有島は

「うちの隊員が騒動を起こし迷惑をかけたそうで、すまない」

すまないと言いながら、その顔に浮かぶのは笑み


同じく笑顔を浮かべたズーハオは

「いえいえ、こちらこそ。()()()()便()()()()()()()()()()()()()()()()」と


少女の横にいた赤い髪の男が、憮然とした表情でこっちを見ていたが有島は無視する



「──春人、準備出来たか?」

バイクのエンジンをかけている少年に声を掛けると

「・・・うぇい」と気の抜けた返事が返る

きっと昨日の夜にでも何かあったのだろう


テクニカルには神崎と奏が乗り、輸送防護車はディーテが運転する

さくらはディーテが固持したので、有島と同じく輸送防護車だ


車に乗り込もうとしたさくらにズーハオが声を掛ける



「・・・さくらは──。 今、幸せかい?」


本来言おうとしたであろう言葉を、言えないまま別の質問に代えて

「──? 幸せかどうかは・・・、

でも仲間もいるし、楽しんでますよ」

ズーハオの曖昧な質問にそう答えると少女は笑った


戦争であるとはいえ、彼女の大切な物を壊すことに自ら荷担したのは事実だ

エテジアの、その件の謝罪を、有島から記憶がないのだと教えられた少女にするのは無理だ、


だからズーハオは少女の回答に「──そうか」と静かに呟いた


横で話しが終わるのを待っていた有島はズーハオを見、一度頷くと

さくらを促し車に乗り込む


そして、


「さぁ、我が家に帰ろうか!」


そう声を掛けると

仲間が待つ基地へと帰路に就いた




章の意味が曖昧ですが、砂漠のキツネたちは終わりです。

ありがとうございました。

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