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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
12/52

ー砂漠のキツネたちー 7

枯れた大地に短い草が続く景色が、いつのまにか砂の広がる丘陵に変わったことで、

ハルーバイナ砂漠に入ったことがわかる


その砂漠の中の道らしき線の上を、一台のバイクと武装車両(テクニカル)、それと輸送防護車が行く


バイクがテクニカルに並走し、何か合図を送ると

三台は道を逸れ、砂の中に生えてるかのように建つ

朽ちたコンクリートの構造物の側でエンジンを止めた


バイクから降りた春人(はると)は、んんーっと体を伸ばすと

テクニカルの荷台から荷物を取ろうとしている(かなで)に近づく

「それ貰うわ。ここらでいいかな?」


そう言うと、野営の為の準備を始める

太陽は西に傾き始めていて、完全に沈みきってしまうと辺りは真っ暗な闇となってしまう為、早めの設営が必要なのだ

一番後ろを走っていた輸送防護車から降りてきた少女─さくらも、春人と奏の側に寄ると設営を手伝い始める


「さくら、ちょっとそっち持って」

「いいよ、もう少し引っ張る?」

「─?、春人、おまえそれ逆!」

「えー、変わんないだろ?」

「なわけあるか!」二人に同時につっこまれる春人




「うん、何だろうなぁ。引率の先生ってこんな感じなのかなぁ」

三人の少年、少女のやり取りを微笑ましく見守りながら、同じく輸送防護車に同乗していた有島は言う


「総隊長、喋るついでに手も動かす!」

陣幕の帆を広げていた神崎に怒られ、

「えー。俺、総隊長なのに・・・」と言いながら渋々と有島も準備を手伝う


三人の若者達が所属する班の隊長として同行した神崎だが、そもそも総隊長自らこんな所に来ること事態がどうなのだと思った




砂キツネの部隊に一通の書簡が届いたのは

イリアが来て数日後


警らにあたっていた神崎は、基地に舞い降りてきた大きな鳥の、

足元につけられた書簡を見つけた

鳥を操るのはフォンフェオンの得意とするもの

中を確認するでもなく、それがフォンフェオンから来たものとわかった


「──?」

神崎から書簡を受け取り首をかしげる有島


中が安全かどうかの確認はすんでいる為、とりあえず届いた手紙の内容に目を落とす


「・・・・・・ふっ、」


「・・・んふっ、ふふふは」


手紙の内容についてだろう、すごく気持ち悪い反応を示す有島に

神崎は引きぎみの目を向け聞く

「フォンフェオンは何だと?」


変な笑みを浮かべたままの有島は

「うん、そうだね。─ちょっと、お出かけでもしょうか!」

と全然説明になっていない答えを述べた



手紙の内容は──休戦と同盟、一時的なものではあるが


ついでに少しばかりお話しでもしませんか?

とのこと





「だからと言って、お前自ら出てくるのはどうなんだ?」

少しお酒が入ったからだろうか、絡んでくる神崎に


「まだ言ってるのか、大概しつこいな。

それにもうハルーバイナ砂漠まで来てるんだぞ?

今さらここから引き返せとかはないだろ」

先触れもだしちゃってるし、と言うと有島は炙った肉に食いつく


もうひとつの陣幕では若者達が何か言い合いながら楽しげに食事をとっている

「あいつら・・・、遠足と勘違いしてないか?」

呆れた顔を三人に向ける神崎



有島が会談の為フォンフェオンに赴くというのを聞き付け、真っ先に名乗り出たのは春人


「はい、俺、行く! 行きたい!」

そんなノリだけで行かせられるか!と思ったが、有島はあっさり許可した


そして春人は、もう二人──、さくらと奏も巻き添えにし

必然的に赤い髪の男が同行することになった


計算の内だったのだろう


有島の横で憮然とした表情のまま肉にかぶり付いているディーテ

出発した時からずっと憮然と顔のままなのは

さくらを巻き込んだことへの抗議だろう


実際巻き込んだのは春人だが

春人にわざと情報が漏れるようにしたのは有島だ

絶対行きたがるとわかっていたから


有島が大人数で会談に臨むのをよしとしなかったのもあるが

「これだけの人数だなんて・・・。しかも、若者どもは何か遠足状態だぞ?」

戦力的には三人とも戦える能力はあるのだが、

何にせよ、見た目が・・・


「大丈夫だろ、向こうにつけばイリアのおっさんもいるし」


「・・・まぁ、そうだな・・・」

神崎はこちらが訪問の先触れとして送った使者─イリアが、既に向こうに到着しているだろうことは承知しているが


それは、それでどうなんだろう・・・?と

その対応にあたるであろう人物に同情した








神崎に同情された人物─ズーハオは


(──どうして、こうなった?)

という思いを噛みしめ、

ピリピリとした幹部、長老の視線を受けながら、案内してきた男と席に並んだ


「──ズーハオ?」

低く響く幹部の男の声


「──えっとぉ、どういことですかねぇー?」

細い目を横の男に向ける


この部屋の中の誰よりも大きな体をした男は、この場においても表情を変えることなく薄い青い瞳を回りにむけると

「砂キツネからの使者としてきた」

それだけ言って黙る


(!? えぇー、それだけ!)


使者の男の短か過ぎる返答に「───ズーハオ?」

低い声はそのままに、笑顔を浮かべた幹部の男に慌てて


「げ、現在、砂キツネの部隊と一時的にでも手を結ばないかと、

休戦協定を打診したのですよ!」

休戦──、という言葉にピリっとした空気が流れたので

一時的ですよ、一時的!と強調する


「彼はその使者として赴いたらしいイリアさんです」


「ん、──イリアだと?」

長老の一人が反応する


「オリジナルか・・・?」


知ってるなら早いとズーハオは

「そうですよ、あのイリアさん。

なので無礼なことは出来るだけ控えて下さいねー」

イリアに対し殺気を放つ幹部の男達に向けて言う



「──ふむ。そうだの、この者ならこの部屋の全員を殺すことなぞ分けないわな」

このピリピリした雰囲気に全く動じることのないイリアを眺めながら長老が言う


「お主らが不満というのなら仕方ないないのぉ」


「だなぁ、どうせ我らは老い先短いしの」

ふぉふぉっと笑う長老達に、幹部の男達も「・・・大老」と殺気だてていた態度を修める


フォンフェオンでは目上の者の意見は絶対だ、余程のことがない限り尊重される


ズーハオはその流れにホッと息をつくと

「では、話の続きを──、」

「いや、私はただの先触れだ。明日には本人が来るだろう」

話を遮るように告げた言葉に


「──ん?」


いや、本人って?


首を傾けたまま固まったズーハオに

「────ズーハオ?」


低く声を発したのは今度は長老達だった








パチパチとはぜる焚き火に目を向けたまま、動かないさくらに

「眠いの?」と春人は聞く


「─ううん。焚き火の火って見てるとぼーって、ならない?」


「わかる、なるよなそれ」

奏が新しく薪をくべると頷く


「ふーん、そうなの? 俺はわからん。

どうせならもっと火をでかくして、ファイヤーってやりたい!」

「・・・情緒がないよねー、春人は」

「だよな」

火の中に放り込んだ芋をつつきながら言う


「焚き火にかこつけて焼き芋作ってる二人に言われたくない!」

「えー、だって焚き火と言えば焼き芋だよねー」

ねー。とハモる二人


「じゃあ、春人は食べないのね?」

「──食べる」

春人の返事に笑うと割った芋の半分を差し出す




少し冷えた気温に焚き火の炎の暖かさが心地よい

ただ火に当たる前面は暖かいが、背中の方はひんやりしている

春人は着ていた外套を脱ぐとさくらに掛ける

「──ん?」


「いや、寒いかなぁと思って・・・」

少し照れながら言う春人に


「ありがと」

やはり眠たいのだろうか、いつもなら見せることのない柔らかい笑顔を向けながらさくらが言う


(ヤバっ、可愛いすぎる!)

(しかも何か声もポヤポヤしてる)

(ギュッとしたい!)


そんなさくらの姿に悶絶しそうになってる春人の心を読んだのか


「俺がいること忘れてね?」

奏が焚き火の向こうから言う


「うん、存在すら忘れてた」


だよねー。と言うと、うとうとし出したさくらを見てこちらを向くが、「うーん」と唸るとディーテを呼ぶ



「ディーテ、さくらが寝そう」


呼ばれた男はこちらに近づいてくると

「──お嬢」と、うとうとしているさくらに優しく声をかける

他の者に向けるものとは全く違う声で


ディーテがさくらをとても大切にしていることは確かだ

だがそれが、どのような愛情を含んでいるのかは春人にはわからない

身内にむけるもの、恋人にむけるもの、色々ある


そしてディーテが他の隊員の女性と夜を共にしていることも知っている

──さくらではなく




複雑な表情でこちらを見てる春人に気づいたのか

何だ?という顔を向ける男

それに対してそっぽを向く春人


横で見ていた奏は、小さくため息をつくと

「ディーテ、今日の番は俺と春人でやるから、さくらを連れていってやって」


本来ならディーテと、さくらが当番だったのだが

この状態のさくらにそれをやれというのは可哀想だと、


頷いたディーテは、再びさくらに声をかけると

少女の体を抱き上げる、軽々と


そっぽを向いた視界の端に、少女を抱き上げたまま天幕へ向かう男の姿が入る


「──っ!」

春人は乱暴に焚き火に薪を放り込む


そんな春人の頭に奏の手がポンポンとのる


「・・・・・んだよ、お前までも子供扱いかよ」


「確かに他の人達から見れば俺らはまだ子供だしな。

──まぁ、伸びしろがあるってことで」


先は長いよ、奏はそう言ったが

春人は今、さくらの横に立てない自分をもどかしく思った


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