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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
11/52

ー砂漠のキツネたちー 6

たっぷりとした布を使った、しかし体のラインはしっかり強調する服を見に纏ったシンイェンは

ルードリィフがエテジアに到着したことを聞き付けると、

急ぎ足で、エテジアでの彼の執務室へと向かう


「──ルードリィフ!」


ノックもなく、ましてや敬称もつけることなく名を呼びながら入室した女に、

眉をひそめる皇帝ルードリィフ


その表情に気づくこともなくシンイェンは続ける

「戻ってきているなら何故、知らせてくれないのですか!」


何の知らせもなく、突然戻ってきた皇帝に対してだろう

シンイェンは半日近くも前に到着していた皇帝のエテジア来報を、

帝国の兵士から先程連絡を受けたのだ

不満を湛え、黒い瞳で強くこちらを睨む女は美しい

だが、その姿に何の感情も揺さぶられることはなく皇帝は告げる


「──すまない。溜まっていた用事を済ませたかったのだ」

と、口元を笑みの形に刻む


皇帝からの返答に少し落ち着いたシンイェンは、やっと周りの状況を確認する

部屋にいたのは皇帝と、もう一人

自分が率いる部隊の者達と同じく、黒い瞳黒い髪の、皇帝より少し年若き青年

ユーリ・アリアスという名の男


シンイェンは皇帝との二人きりでの逢瀬を邪魔する存在である男に、非難の目を向けると

今度はこの男を退出させてくれるよう、皇帝の赤い瞳を見つめる


(──分かりやすい女だな)

フッと息をもらすと、ルードリィフは部屋の横に控えている男に顔をむける


「ユーリ、今日はもういい。 明日8時にまたここへ」


「わかりました」そう言い、一礼するとドアに向かう


去り際、部屋に残る女に一瞬視線を送ると、

ユーリは部屋を退出した





部屋を出た男の姿を確認するとすぐ

「ルードリィフ・・・」

そう言いながら自分の胸にしなだれかかる女、シンイェンに対し、

出ていく際に視線を送った男


その瞳には珍しく、侮蔑という感情が浮かんだ気がした

(・・・珍しいな)


男はどんなに優しい言葉を紡ごうが、悲しみを伝えようが

常に黒い瞳は凪いだまま

(感情を表に出すことはなかったのだが・・・)


何か心境の変化だろうか?


そこに、

「聞いているの!」

と下から見上げるように言う女


思考の中に落ちていた皇帝は、邪魔をされたことを不快に思ったが

腕を伸ばし女を抱きしめると、うるさい女の口を封じるように唇を落とす

そして耳元に口を寄せると


「──今夜、部屋に向かう」

だから、今は忙しいので邪魔をするな。とは、心の中に留めておいた






現在のエテジアには帝国からの民、フォンフェオンの部隊の者、

そして歯向かわず、帝国に慈悲を求めたエテジアの民

様々な人種がいる、その中をひとり歩くユーリ


現場の雑多な雰囲気は嫌いではない

特に今はあの女の媚びる視線が脳裏に残り不快さが消えないから


自分に向けられた訳ではない視線

だが、もしそれが自分に向けられていたら

咄嗟にくびり殺してしまっていたかもしれないとユーリは思った


──ただ不快

この感情は多分、過去の何かに起因しているのだろうが

あまりに時が経ちすぎて、薄れた記憶では思い出せない

なので対処のしようがない


「不快だな・・・」

いっそ殺してしまうか、と思うが

まだルードリィフにとって、フォンフェオンは必要があるようだ




「頭領は何を考えているのだろう・・・」

「俺、一年も家族と会えてないんだがなぁ」

「まだマシじゃないか! オレなんて3年も戻れてないぞ」

そう不満を言っているのはフォンフェオンの部隊の者


同じ色彩を纏うユーリはそのまま自然に会話に口を挟む

「シンイェン様は皇帝に首ったけらしいね」


急に会話に加わった青年に「──ん?」と顔を向ける男達

移り変わりの激しい現場では知らないヤツなどゴロゴロいる

ただ、青年はちょっと美形すぎたが


「皇帝様はえらい男前らしいからなぁー」

「頭領も女だから、そりゃ、男前の方がいいだろ」

お前も顔だけならいけそうだぞ、そう言うとガハハと笑う


それに対してユーリは

「なら、クーロンに戻る気なんてないんじゃないのかい?」

その言葉に押し黙る男達


「・・・・・」


「・・・ズーハオのやつが、何とかしてくねぇかなぁ?」

「もともとアイツはずっと反対してたもんな」


ズーハオにはユーリも会ったことがある

あの崩壊の日フォンフェオンの部隊をまとめていたのがズーハオだ

今は確か、クーロンでシンイェンの代わりに全てを取り仕切っているはずだ


「いっそのこと、ズーハオを頭に立てればどうだ?」


ユーリの言葉に慌てたように男達は言う

「─お前! ・・・滅多なことは言うな」

男達は声をひそめると


「シンイェンには忠誠を誓う、怖い奴らが付いてるんだからな」

「あまり、外でいらんことは言うなよ?」

そう言う男達は、シンイェンから敬称を外してしまっていることに気づいているのだろうか?


「分かった」と、何か楽しいことでもあったかのように笑う美形の青年を見て


「お前が頭領を籠絡してくれればよくね?」

と男達は思った









そのズーハオは、クローンの街の中を忙しく駆け回っていた


「これは俺の仕事じゃなくないか?」

そうぼやくとボロボロのバギーに股がる


複雑に繰り返された増築のせいで迷宮と化したクーロンは、

道は狭く、車は役に立たない

バギーやバイク、むしろ徒歩が最強かも知れない

「ああ、また間違えた!」


イライラしながら呟く、長い間住んでいても未だに道を間違えるのだ



やっと目的の場所にたどり着くと、外で待っていた部下に書類を渡す

「お前、いい加減俺をパシリに使うの止めてくれ」


「いやー、ズーハオが来るって聞いてたからさ。ついでじゃん」

本来の頭であるシンイェンとは違い、頭(仮)なズーハオには皆気安い


まぁ、もともと力や立場を誇示するタイプでない彼なので、それに対しての不満はないのだが

仕事量が半端なく多すぎる

「──はぁ、」とため息をはいた彼は、目的地である扉を開けた



中にはフォンフェオンの幹部と長老達


俺が一番貫禄の無さそうなだなぁ、と思いながら席につくと

直ぐに体格の良い古参の幹部から叱責がくる


「結局シンイェンとは連絡がつかんのか!」

もうすでにこのクーロンの幹部達にとって、シンイェンは頭領から外された存在である為、敬称はない


「はぁ、帰還を促す旨は送っていますが、

むしろあちらへの召致を催促されますので・・・」

最近は無視してますね。と、口を滑らさなかったことを誉めたい


「もう捨て置けば良いではないか」

長老の一人が言う


「元々、先の頭領の意向を叶えただけのもの、亡き者も今さら何も言うまいて」


「それでは示しがつかんではないか!」


「示しも何も、のう?

帝国の皇帝に腑抜けてしまった事実は、他も皆承知よ」

ホッホッホと長く伸ばした髭を扱きながら、また違う長老は言う

ぐぬぬと唸る幹部


(タヌキと怒ったタヌキの化かし合いか、いや、キツネ?

いやいや、キツネはダメか・・・)

等と幹部と長老の言い合いをぼやーと聞いてたズーハオ


「そもそもズーハオ、お前がいかん!」

やべ、お鉢が回ってきた! と、細い目見開きキリッとしたふりをする

「お前・・・寝てただろ?」


「何言ってるのですか!大哥。言いがかりです」


ちょっと意識が違う方向を向いていただけで

とは言わず、コホンと咳払いをすると

「一応、色々と手配はしてるんですよ、これでも」


もうそろそろ届くであろう便りを待っているところなのだが、




「あの・・・、 ───ズーハオ?」


戸惑ったような顔で部屋を覗きこみ、こちらを見た顔見知り若者


便りがきたか!とズーハオは彼に近づくが

戸惑ったまま何も言わず固まっている若者を見ると


「───ん?」 


・・・・・おや?

何か間違えただろうか?


何事だ?とこちらを注目している部屋の中の視線を浴びながら

汗が頬をつたうズーハオだった




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