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砂の大地に吹く風は  作者: 乃東生
10/52

ー砂漠のキツネたちー 5

オストログ帝国に寄り破壊された砂漠都市エテジア


その中で豊富な水を湛えていたアズラク湖は、今や見る影もない

湖の水は抜かれ、周りを鉄板で補強された縦穴が、

まるで湖の代わりにかのように黒い姿を現している


湖畔に並んでいた建物は取り壊され、大型掘削機やクレーンが建ち並ぶ

一方では掘削された土砂が山積みになり、大型重機が辺りを走り回っていた

 


街を囲っていた擁壁は一部破壊された為、カラブランの対策として現在は鋼鉄で組まれたシェルター(砂避け)が設置されている


全壊を免れたエテジア中央機構の建物は今、

帝国に寄る旧世界の遺跡発掘に当たっての拠点として使用され

エテジアの元首が暮らしていた建物では、フォンフェオンの頭─シンイェンが、

かつては美しいかったはずの街をバルコニーから見下ろしていた


「──騒がしい街ね」

発掘現場から聞こえる騒音に顔をしかめる


シンイェンは美しい女だ

荒々しい部隊の男達の頭に立てるのであるから、華奢な弱々しさはない

雌豹のようなしなやかさと狡猾な貪欲さを持ち、

自分の魅力を最大限に活かすことがわかっているのだろう、隊服でさえグラマラスな体にそったラインの物を身に纏っている


女は後ろに控える部下に

「ズーハオから何か連絡はあったか?」

そう聞くと部屋に戻り、前の主が揃えたのか、趣味のよいカウチにその身を沈める


「いえ・・・、ここ2ヶ月ほど連絡はありません。

連絡の為、送った部隊の者もキツネどもに襲われたようで」

シンイェンはキツネという言葉に舌打ちすると


「ちょこまかと・・・!

──まぁ、いい。 クーロン(本拠地)の様子はわからないということだな」

押し黙る部下に嘲るように黒い瞳を向ける


クーロンはフォンフェオンの本拠地である

ここより東へ行った、ハイジャン湾に面している

そして海を更に東へ行けばかつては小さな島国があったはずだ


だが今や、この海を航る術はない

この大陸を囲むほぼすべての海は汚染され、船を浮かべても溶け沈んでしまう

生物など生息することができない死の海

その遥か沖はどうなのか?というと、海上には汚染の影響なのか、

常に乱気流が発生している為、空から確認することも出来ない


大陸エルディアは空からも海からも断絶された巨大な陸の孤島なのだ




部隊の半数を率いてこちらに乗り込んできたシンイェンは

ここ2年程、クーロンに戻ってはいない


本拠地や周辺の村を守る為には、これ以上部隊の人数を別ける訳にはいかないと提言するズーハオに

なら、本拠地を移せばいいと提案したシンイェン

それに対して、この地で根付いた生活を送っている村人達は、そう簡単には土地を捨てれるものではないと


めんどくさいな、とそう思う

部隊もなにもかも


部屋の入り口に控えている軍服を纏った帝国の兵士に目を向けるとシンイェンは聞く

「皇帝、ルードリィフが戻るのはいつなのだ?」と


今やシンイェンの心を支配しているのは、ただひとつ──






オストログ帝国の要塞都市ブラウにて

簡素な執務室の机で書類に目を落としていた、

この国の皇帝─ルードリィフは、ドアのノックの音に「入れ」と告げる


「用件は?、手短に言え」


そちらに目を向けることなく告げる皇帝に、入室してきた部下は伝える

「西側の連合諸国から苦情と、モントア共和国の人民代表と言う者が皇帝へ御目通りを願い出ております」


「─ふん、苦情は捨て置け。 どうせ何もできやしない」


「モントア共和国の代表の方は?」


「そうだな・・・・・、」

ルードリィフはやっと顔をあげ立ち上がると、部下に赤い瞳を向け

「30分後に、会談室へ」

それだけ言うと部屋を出る為、ドアに向かう


その皇帝に再び部下の男が声を発する

足を止められたことに不快感げに部下を見返ると

「エテジアよりまた親書が届いておりますが」と


シンイェンからのいつ戻るかの催促の要請だろう、

ルードリィフは唇を皮肉げに歪めると、どうでもいいというように

「──ほっておけ」一言発すると、廊下に出た




モントアの代表だという男は下卑た笑みを浮かべた、退屈な男だった

あまりのつまらなさにルードリィフは、同席していた執務官に続きを任せると10分程で席を立った


このまだ若き皇帝に向けられる視線は、庇護を受ける為にやってきたあのような者達の媚びた目か、

反発をする人々の怒り、憎しみ、嫌悪

率いる部下達から向けられるのは憧憬、尊敬、畏怖、そして恐怖


廊下の対面から歩いて来た男は、

そんなモノを一切含まない凪いだ黒い瞳でルードリィフを見ると

その目を伏せ、廊下の端に引いた


男の姿に、ルードリィフはフッと口元に笑みを浮かべて言う


「戻っていたのか、我が犬よ」

犬と呼ばれた男、ユーリ・アリアスは目を伏せたまま黙礼の意を示すと、再び顔をあげた


「いつもどうやって姿を消すのか・・・、エテジアに行っていたのか?」


「──ええ、先程戻りました」

ここからエテジアは近い距離ではない、なのにこの男は度々ブラウから姿を消してはエテジアを訪れている


ならばと、現場の進捗状況を尋ねると

「見た限りは7割程度でしょうか、 詳しくは現場の責任者に尋ねられるのがよろしいかと」


それについては然程興味がないというように答えるユーリに

ルードリィフは赤い瞳を細めながら言う

「──ふん。 お前は現場を見に行っている訳でなければ、何をしているのだ?」


この男が現在掘削している場所ではなく、旧遺跡入口によく行ってることは現地の者の報告であがっている

ただ、何をする訳でもなく何時間か佇んでいるだけだと


「いえ、何も──」

ユーリは皇帝を見つめたまま静かに答える


「では、遺跡で男と会っていたと聞くが?」

これ以上、詮索してもこの男から真実を聴き出すことは難しいだろうと、

もうひとつ上がっていた報告の方を問う


一瞬、考えるように眉を潜めると

「──ああ、あの男ですね」と思いだしたのか、答える

「流れの旅の者のとのことらしいですが、

彼はオリジナルですよ」


「オリジナル?」


「ええ、強化兵士の原型です。

旧世界で作られ現代で蘇った、そのままの意味でオリジナルです」

そう事も無げにいう男にルードリィフは非難の目を向ける


「──何故そのまま行かせた」


「確かに(オリジナル)は強化兵士としては最強ですが、洗脳は聴きませんよ。


そして貴方が欲しているモノを与えることも出来ない」

彼はただの旧世界の残滓だ、と



目の前でそう語る、この黒髪の男は

どこまで知って、何を隠しているのか──・・・


それを聞き出す為の拷問も死に至る痛みもこの男には効かない


人はいずれ死ぬ

その本質から道を外れてしまった者、

ユーリ・アリアスに死が訪れることはない


これは呪いなのだと




「3日後、私もエテジアに行く。お前も同行しろ」


ルードリィフの言葉に男は答える

「はい、我が皇帝(マイン・カイザー)」と





城塞という名の如く、張り巡らされた石の壁

その壁の上には人が歩く為の通路があり

一定間隔で見張り塔が聳える


その見張り塔のひとつにユーリは音もなく降り立つ


監視の任務にあたっていた兵士はふいに現れた男に驚くが

ユーリは優雅に兵士に近くと呟いた

『──ここには何もない』

その言葉に、驚いた表情を消し再び任務を再開する兵士



「ここには何もないか・・・、」


自分が先程発した言葉を繰り返す

「まさにその通りだな」


ユーリは塔の縁に近づくと南へと目を向ける



ここ最近、エテジアより南、フォンフェオンの縄張りでぶつかり合う部隊に

赤い髪のめっぽう強い男がいると聞いた

その側には常に砂色の髪をした少年がいると


赤い髪の男は、いつも少女の側にいたあの強化兵の男だろう

ならば砂色の髪の少年とは──、



エテジアの遺跡で声を掛けてきた男

D1ナンバーを持つオリジナル


ふと、男に問いかけてみた、

エルディアは元気かと


表情にも態度にも少しも変化は表れなかった

だが、何に反応したのか、返答に滲んだ僅な動揺


どちらへ向けて旅立つのかと聞けば、南へと



明確な答えがあったわけではない

そう・・・、砂キツネと呼ばれる部隊に()()()は居るのだろう


「・・・・・さくら」


こちらを見つめながら暗闇に落ちていった少女

あの時、少女は『有里(ゆうり)』と正確に自分の名を呼んだ

もう、薄れて消えてしまいそうな記憶の中の()()と同じく


だが、暗闇の穴の底で、届くはずもない声で必死に叫んでいた少女の声に、それはなく


「さくら」再び名を口にする


次出会った時あの少女は、何を選択しどちらを選ぶのか


もし()()であるならば──


胸に走る痛み

痛みなど感じるはずもなく、刻むものも持ち合わせない胸に手のひらを当てる


「今度こそ喪わない。」


何を犠牲にしても───。


東、西を間違えてました、全部訂正しています。

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