ー砂漠都市エテジアー 1
───遥か昔、栄華を誇った文明
空も海も大地も、・・・・宇宙さえも支配した人々は
遂には自分達だけの神を創ろうとした───
「だけど、それはね唯一神エルデの怒りをかったんだ。
そして築き上げた文明は跡形もなく消えてしまった」
「ふーん・・・・」
私の気のない返事に、叔父のヒュースは立ち上がり、
「エルディは紅茶でいいかい?」と笑いながら問かけた
「ミルクたっぷりね!」
出ていく叔父の背中越しに窓に目を向ければ、
立ち並ぶバラックの向こうに広がる赤茶けた大地
この大陸エルディアは8割が乾燥した大地に覆われている
遥か昔は自然豊かな緑の大陸だったらしいが
エルデの怒りとゆーやつでこんな不毛な大地になったそうな
「・・・・・心狭すぎじゃない?」ポツンと呟く
同時に叔父の出ていったドアと反対側から声がする、
「あれ? 咲良来てたんですか?」
ドアを開けながら入って来たのは背の高い青年
砂避けのフードを頭から外すと少し伸びた黒い髪
同じく砂避けの遮蔽レンズを外し黒い瞳にでこっちを見つめる
「ユーリ、久しぶり!」
嬉しさのあまり飛びついた私に、苦笑しながら
「咲良・・・・、砂を落としてからにして下さい」と私を離すとフードを脱いだ
別に鍛えてるわけではないのだろうけど均整のとれた体付き、
砂漠の太陽で少し焼けた肌が艶い
何でカサカサにならないの?と思いながらも
「もう飛びついていい?」
と聞くと
「こら!エルディ、ユーリを困らせない」
コップの乗ったトレイを抱え、部屋に入ってきた叔父に窘められた私は
「えー、だって2ヶ月ぶりに会ったのにー」
ちぇっ・・・・と頬を膨らます
「・・・・・・兄さんも甘やかしすぎだな、これは」
「そんなことないもん!勉強だってちゃんと・・・、もう高等科カリキュラムも終わったもん、
だからしばらく自由に遊んでていいって」
少し目を見張った叔父に、どうだと胸をはる
「14才で高等科ですか? 流石ですね」
叔父の隣に資料抱えて座ったユーリが黒い目を優しく細めて誉めてくれた
けれど、すぐに「この前の調査の件で・・・」と叔父と話しだしてしまったけど
(・・・・ちぇっ)
考古学者の叔父の助手をしているユーリは
調査の為、外出してることが多く、なかなか会うことはできない
(せっかく2ヶ月ぶりなのに・・・、叔父さんが調査に行けばいいじゃない)
ひどい事を思いながらも、私たちがそうできない理由もある
私─エルディア・咲良・オブライエン─の父
トレヴァス・オブライエンは
この砂漠都市エテジアの国家元首
叔父ヒュースはその弟
一応重要人物であり、おいそれと都市を離れる訳にはいかない
4年程前に遺跡で倒れていたユーリを叔父が見つけ連れて帰ってきた
彼は自分の名前だけしか覚えておらず、
しかし生活面においては問題がなかった為(いや、むしろ問題が無さすぎた為)これ幸いと叔父のヒュースにコキ使われている。
まぁ、要するに優秀なわけで
黒髪黒瞳、今は無き東洋の島の人々の血脈なのだろうか?
小さい時に亡くなってしまった母がそうだった
私のミドルネームは母から貰ったもの
緑の大地だった頃、美しく咲き誇った樹木の名前だったらしい
(まぁ、この大地じゃ無理よね)
冷めてしまったミルクティをスプーンでくるくる、くるくる回していると、
「・・・──ユーリ、エルディを第三バラックに案内してやってくれ」
ありがとう、ヒュース叔父様!
まだ昼前なので砂漠から吹き込む風は穏やかだが
叔父から手渡された砂塵フードを被り外に出た。
「髪もちゃんとしまって」
と薄茶色の、砂漠の砂と同じ色の私の髪をユーリがフードの中に押し込むと、きっちりフードを閉めた。
「・・・・暑い」
「我慢して下さい」
ユーリは砂上バイクの後部座席に私を乗せ、運転席に座ると自分に掴まるように促す。
「ふふふ、デートみたい」
「・・・・何言ってるんですか、エルディア」
呆れたようなユーリの声に
「違う! 咲良!」と即座に訂正すると、苦笑を浮かべながらも応える
「・・・・・咲良、ちゃんと掴まってて下さいね」
ユーリの背中越しから来る風は熱を含んでいるが心地よい
叔父も父も私を『エルディア』と呼ぶ
この大陸と同じ名前、エルデがつくった大地『エルディア』
初めて会った時、名前を紹介した私にユーリは
「こんにちわ、さくら」と微笑んだ。
それは何故かとってもしっくり私の中におさまった。
当たり前のように
第三バラックはエテジアの一番外れにあり
すぐ向こうにはダハブ砂漠が広がる。
遺跡の入り口はここより1キロほど行ったとこだが、調査によれば遺跡はエテジア全体を覆うらしい。
エテジアの下には遥か昔の遺跡が眠っていることになる。
流石に都市を掘り起こす訳にもいかないので隅っこの方で細々と発掘している。
この第三バラックでは地表50m地点からの出土品を調査していて
出土した品はバラック内で手作業により調べられ研究される。
その遥か昔の文明が持っていた宇宙まで行ったと言う叡知を研究してる訳だけど
(叔父さんがいなけりゃ、父さん直ぐに打ち切ってそう)
出土したという謎の砂の塊を見ながら私は思った。
ユーリは研究員に捕まり急がしそうだったので、ひとり出土品(謎の塊)を見てまわる
(うん、暇だ)
そろそろ退屈してきたとこで、ユーリが私を呼ぶ
「咲良、ちょっと見せたいものが」
近付いた私にユーリが小さな砂の塊を渡す。
平べったい砂とゆーより岩盤?
平らな面には花らしき跡が、色は無いが押し花のよう型どっている
「さくらですよ」
「ん?」と首をかしげる私に
「咲良と同じ名前の樹木。もう今で見ることのかなわない桜の化石です」
「・・・・・・へぇ、これが・・」
見えにくいが5枚の花弁がある3センチ程の小さな花
指で摘まんで目の前に持ち上げる視線の先でユーリは、
「その花が集まって枝中に咲き誇るんですよ。
夜だと尚更輝いて見えて、薄いピンクの花が灯りのように揺らめいて
そしてそれが一斉に吹雪いて舞い散る・・・潔く」
どこか遠くを視るように呟く
「・・・・ユーリは、見たことあるの?」と尋ねると
「・・・・・いいえ」
何故か悲しそうに笑った
ユーリと共に第三バラックから戻った私は、ユーリに頼み叔父を羽交い締めにすると
「叔父さん!父さんが話があるって、今日は家に帰るよ!」
嫌がる叔父をジープに押し込める
「ユーリ!お前は何か楽しそうじゃないか!?」
「いや、気のせいですよ」
あきらかに楽しそうな顔のユーリの横に乗り込み、後部座席の叔父を振り返り告げる─、
「叔父さん、入浴いつした? ・・・・・臭いよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
凄く静かになった叔父をつれてエテジアの中心部へと向かった
エテジアは砂漠の中のオアシス都市
豊富な水を湛えたアズラク湖の周囲に広がる
時折吹く強烈な砂嵐カラブランから護る為、二重の擁壁を持ち
その擁壁上に磁場による障壁を施している
だので擁壁内では砂による被害はない
そして他国─主にオストログ帝国による脅威から護る為の策でもある
私達が先程までいた発掘現場はその擁壁外の為、本当はよい顔をされないのだが
言うように父さんは身内に甘いのだと
ジープの後ろにつく3台の物々しい護衛車を見ながら思う
(私が居るのでいつもより多いしね)
第三バラックにいた時もちゃんとついて来ていた
(父さんは警戒しているんだろうか)
隣でジープのハンドルを握るユーリを見上げると
私の視線に気づいたのか、こちらを見て、ふっと目を細める
その仕草に思わず赤面する
(・・・・・なっ! 何それ!)
真っ赤になって両手を頬に当てて悶えてる私の後ろから叔父が
「あー、ユーリそろそろ代わろうか」
と運転の交代を促す
「そうですね、ここからは僕のパスでは不可能ですね」
都市の中心部、最中央は立ち並ぶ建物からして違う
無機質な統率された建物が建ち並ぶ
その中の一際高い建物、エテジア中央機関、国家元首を要する建物
そこに入るには限られた人か国の中枢を担う人のみ
セキュリティも厳しくパスがないと1つ目のゲートさえ通れない
席を代わろうと降りた叔父にユーリが
「僕はここで失礼しますよ」とゲートの向こうに目を向ける
ゲートの向こうではこの砂漠の都市には似合わない堅苦しい格好をした数人の兵士、父の専属の兵士達
「あの人達、苦手なんで」
えー、俺も苦手なんだけど、とぼやく叔父に「ではまた明日」と告げ立ち去ろうとする
「ユーリ!」と呼びかけると振り向くユーリ
「──あの・・・・・、」
告げることも別にないのに呼びかけてしまい困ってしまった私の頭にポンと手を置いた彼は
私の目を覗き「咲良もお元気で」と笑いかけ立ち去った
「・・・ユーリは、暫くはこっちで手伝ってもらうつもりだから、
また遊びにこればいいさ」
叔父の声を聞きながら、立ち去ってゆく姿をミラー越しに眺め続けた




