生まれ変わったら、何になりたい?
初投稿です。
よろしくお願いします。
生まれ変わったら、何になりたいですか?
こんな質問、誰しもが見たり聞いたりしたことあるんじゃないだろうか?
もちろん、俺も例外ではなく、イケメンになってみたいとか、大金持ちの家に生まれたいなど馬鹿馬鹿しい話をしたものだ。
才能に嫉妬して、生まれながらに持っているやつらに嫌悪感を抱きながら、羨ましくないとか、めんどくさそうだ、などと言い訳をしていたあの頃は自分にもまだ可愛げあったんだろうなと、しみじみ思う。
違う、そうじゃない。
そんな昔のことなんてどうでもいいんだ。
今、俺が言いたいのは
「どこの誰が真剣に植物になりたいなんて考えると思ってんだよ、あのクソ女!!!」
彼の心からの叫びは誰にも届かない。
何故なら声すらも出ていないからだ。
声など出るはずもない。
声帯もなければ口すらもない。
今の彼の姿は、
まごうごとなく、木なのだから
かでもなく、くでもなく、きだ。
どうして彼が、怒れる植物へと変貌してしまったのか。
それは遡ること数時間前のことである。
「今日は、俺史上最大の厄日だな...」
夕日を背にしながら、歩く少年の姿がある。
容姿はごく普通、髪は短く整えられており顔にも眼鏡をかけている事以外にこれと言った特徴はない。
別に身長が高いわけでも低いわけでもなく、初対面の人にはあまり印象の残らない。
それが彼の普段の姿である。
が、よくよく見れば、その哀愁漂う現在の彼の姿は上記に当てはまらないだろう。
髪はボサボサになっており、所々焦げている。
眼鏡も実はブリッジを接着剤で付けているようで今にも外れそうだ。
服装もよく見れば、上着、ズボン共にダメージジーンズ顔負けの大穴を開けている。
彼の不運は今朝起きた時から始まる。
ピピピ、ピピピと鳴る目覚ましに起こされた彼は足元に落ちていた自分のメガネを踏みつけ壊してしまう。
涙目になりながらも、学校があり買いに行くわけにも行かなかったので壊れたメガネを接着し、寝癖を治そうと洗面所へ向かう。
何気なく電源をつけたドライヤーが火を吹き、叫びながら、風呂場に入り浴槽貯まっていた水へ頭を突っ込む。
そんなことはまだ序の口で、学校へ行く途中では犬に追いかけられヤンキーに絡まれ、自転車とぶつかり、信号無視してきた車に轢かれかける。
命からがら辿り着いた学校では、校門に生徒指導の体育教師が仁王立ちしており、俺の言い分を聞くことなく遅刻だと生徒指導質に連行された。
反省文を書かされた後は、友人に馬鹿にされたり、そのボロボロな姿からクラスで一番かわいいあの子からも少し引かれていた。
その後も多少の不運に見舞われながら一日を過ごした。
その哀愁漂う姿はその結果なのである。
「なんだ、いったい何なんだ?俺は誰かに呪われてでもいるのか...?」
割と真剣にお祓いに行こうと考えていた少年の目の前に小さな女の子が飛び出してきた。
長い黒髪に麦わら帽子、そして白いワンピースを着たその幼女を見て、心の中では今時こんな分かりやすく清純派みたいな子がいるんだなと思いながらも声をかける。
「おい、こんな所で走ってたら危ないぞ。」
この辺の住宅地は高台に建っており、道路をはさみ高さ十数メートル程下に広大な自然が広がっているのだ。今少年と幼女がいる場所はちょうどその道路のカーブの外側の歩道である。
(てか、この子今どこから出てきたんだ?)
ボロボロになり考え事をしていたとはいえ、この道には死角などなく唐突に人が目の前に現れるなどあるはずもないのだが。
(まぁ、俺が見えてなかっただけか)
単純に考え事をしていて前が見えていなかったのであろう、と少年は結論付けた。
「ゴ、ゴメンナサイ...」
「俺は大丈夫だから、今度からちゃんと気をつけるんだぞ?」
自分のことを若干棚にあげながらも謝ってくる幼女に注意をする。
うん、と元気に返事をした幼女はそのまま俺と反対方向に走っていく。
「元気だなー...はぁ、俺も早く帰ろう」
これ以上不幸に巻き込まれるわけには行かない、と早々に家に帰るとする少年は幼女を見送り前を向こうとした瞬間
ゴオォォォォォォォォン
目の前にトラックが突っ込んできた
いったいどれほどの速度で走ってきたのか、トラックが突っ込んだガードレールは耐え切れず破損しており運転席の半分ほどは空中に放り出されている。
たった数歩先で起こった出来事に唖然とするしかなかった少年は足を動かすことができなかった。
なにせ、これが自分にぶつかってきていたら確実に死んでいた。その恐怖が少年が動くことを許さなかったのだ。
もし、あの幼女とぶつかっていなかったら。
そんなことを考えていたら、足元から硬いものが割れるバキバキという音が聞こえてきた。急いでその場を離れようとしたが間に合わず、少年の足元は崩れ落ち、それとともに少年も落ちていく。
意識を取り戻すと、少年は全身を襲う痛みに驚き体を動かそうとする。が、体の自由がまったく利かず痛みと共に絶望までもが襲ってくる。
(このままじゃ死ぬ...死ぬ?死ぬのか?嫌だ、いやだいやだいやだいやだいやだ)
声を出そうにも痛みにより呻き声しか出せない。
助けを求めることもできない。
周りはいつも眺めていた森の中で人の気配はない。
ただの少年がそんな状況で精神を正常に保てるわけがないのだ。
彼の心は壊れていく。流れた血のせいか、寒さまでもが少年を襲う。
ふと、かすれた視界に誰かが立っているのに気づいた。
助けが来たのか、と希望が沸いてくる。
「生まれ変わったら、何になりたいですか?」
正直いってこいつは頭がおかしいのかと思った。
俺がこんなに苦しんでいるのに、そんな馬鹿なことを聞いてくるのだ。
いや、これはあれかもしれない。よくテレビとかで見る、意識を失わせないように会話するやつだ。
にしても、不謹慎ではないか。目の前にいるのは死にかけているんだぞ。たちの悪い冗談だ。
「生まれ変わったら、何になりたいですか?」
俺が聞いてないと思ったのか、繰り返して聞いてくる。
答えられるわけないだろ、と悪態をつきたいが声が出せない。
だけど、人が近くにいるというだけでこんなにも心が落ち着くものなのか。
不思議なほどに心が休まっている。
「植物とかどう?何もしなくても生きていけるし、楽だよ?」
やっぱりこいつは頭がおかしいのかもしれない。
もっとあるだろ、犬とか猫とか、言うに事欠いて、植物って...
不思議そうにこちらを見ながら、特に大きな木とかおすすめ、とか言ってる。
そのとき、風が吹いた。
仰向けになっていた俺の目の前で木々が揺れ、青空がみえる。
確かに、どこか惹かれるものがあるかもしれない。もし、あの空ほどに届く大きな木ならばどれほど壮大な光景が見れるのだろうか。いつも俺が帰り道から眺めていた、この森よりも。
もし、死んだら
もし
生まれ変わったら、お前の言うとおり木にでもなってみるよ
「そう、じゃあお願いね。」
その言葉を最後に俺の人としての生涯を終えたのであった。
であったじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!!
そうして少年、桜井 双葉の新しい人生?は始まったのである。