にくの、でんしゃ
あした、しごとなのに、こんなじかんに、とうこうしてるのが、いちばんのホラー
二つ隣にある駅のスーパーが安売りをしていたので、買い物をして戻ってきたのが午前11時。
3歳になる息子と手を繋いで帰りの電車に乗ろうとしたら、息子は怯えながら、呟いたのであった。
「にくの、でんしゃが、きた」
……と。
やってきた電車は、普通の電車であった。
長男は怯えているが、別に、何の変哲もない電車である。
私は、考える。
12時には、お気に入りの連続テレビドラマが始まる。
残念ながら、録画はしていない。
なんとしても間に合いたい、ところでは、あるの、だが。
長男は大声で泣き喚き始めた。
「にくの、でんしゃが、みてる!」
と。
「あ、すみません、大丈夫ですか? 乗りますか?」
駅員のお姉さんが、長男と私に、優しく、そんな言葉をかけてくれていた。
……この電車に乗らないと、ドラマには間に合わない、のだが……。
「いえ、大丈夫です、次の便で乗りますので……」
流石にこの状態の長男を乗せるのは難しいだろう。
はぁ、再放送とか、やってくれるかなぁ。
私がそんな感情を押し隠したような笑顔を浮かべると、お姉さんは『わかりました』と頷き、電車を進ませるように、指差し確認を行った。
一体なぜこうなったのか不明だが、長男はしばらく、泣きっぱなしであろう。
もう少し、調子が良くなった後に、ゆっくりと、電車に乗せてあげよう。
……そんなことを考えた、数分後。
私たちが乗るはずだった、その電車は。
急カーブを曲がり切れず、横転し。
信じられないほどの、死傷者を、出したので、あった。
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電車が不通になったため、結局タクシーで帰宅した私は。
ドラマの時間には間に合ったものの、もちろんそれを見るような気にもなれず。
最後の気力で、録画ボタンを押した後、ダイニングテーブルに、突っ伏した。
30分ほどそうした後、私は体を起こして、自身の頬を張る。
いけない、私でさえ、これほどの衝撃を受けたのだ。
息子はもしかしたら、もっとひどい、トラウマ級の体験になった可能性もある。
急いで息子の元に向かうと、彼は楽しそうにお絵描きをしていた。
親の心、子知らずとは、良く言ったものだ。
長男は、赤とピンクのクレヨンで、巨大ミミズのような絵を書いていた。
ミミズの体にはたくさんの目が付いていて、男の子と大きな女の子(恐らく息子と私)を睨み付けている。
体の脇には大きな口と乱杭歯もあり、女の子はそこを笑顔で指差している。
あちらへ行こう、と、男の子へ言うかの様に。
「上手だね、何の絵?」
やはり、心に傷を負ったのかもしれない。
私はなるべく、彼の絵について否定しないように、語りかけた。
彼は、笑顔で、声をあげるのであった。
「にくの、でんしゃ!」
追記 にくの、でんしゃ。
野槌の亜種。
百目や百目鬼を吸収し、複数の眼を持っている。
十年単位で目を覚まし、電車に擬態して大量に捕食した後、再度長い休眠に入る。
因みに、誰も死なない別VERも書きました!
途中まではコピペですが笑、宜しければ是非~
にくの、でんしゃ ~もうひとつの、けつまつ~
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