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6049日  作者: サグマイア
7/10

お前から悲劇が始まった

あいつが送検された。起訴されて、有罪になって、刑罰が確定する頃には身内以外忘れてくれるかな?

だけど、私は忘れない。あいつだけじゃなくて、罪に問われない掲示板の連中から受けた傷も。でも、あいつが英雄だとは認めないけど、私が魔女だったことは否定できない。その事実が助けを求める気持ちを奪い、もう一方の感情を生む。

「イタル、どこいるの?私が持ってたっていう包丁、一緒に探してよ…」

この世の全てに嫉妬して死んだウジ虫がいた。そいつは葬式で家族の愛を知って、今はパートナーの犬とトンネルを歩んでる。私の葬式に来ることはない。

モグ、お父さん逮捕されたね。お母さんにいじめられて辛いよね。私と一緒にいてもいいんだよ?

シンジ!あんたもウジ虫よ!私が泣いて苦しんでた時、何かしてくれた?これがあんたが何もしなかった結果だよ。どう思ってるの!?

ココロ…

私を殺した男が言っていた生きてはいけない女は、私じゃなくてこいつのほう。今日も私が生きていけなかった嘘の世界で生きている。SNSでは、友達が殺された悲劇のヒロインを演じている。

サクラなんかやって…架空請求なんか無視すればいいって言ったのに…絶対にダメって言ったパパ活なんかやったせいで…

経緯の詳しさに寒気がした。でもすぐに、私を貶めていることへの怒りに変わった。

「一回も私に忠告なんかしてないだろ…」

ココロは自分をかわいそうに見せるために私の葬式に来るはずだ。その時、何ができるかわからないけど、少しでも正体を暴き、地に伏せさせ、死の味と臭いを教えてやる。

一人で呪うな?先に行っておいて偉そうなこと言うなよ。イタル…




私の体は通夜の前に焼き尽くしてもらった。腐敗した姿を見られることはなくなったから、これで堂々と行ける。自信が芽生えて鏡を見てみると、アイシャドウなしでも瞼と黒目が大きく開いてて、光はないけどエネルギーで輝いてた。肌も小麦色だったのが蒼白くなっていて、頬の窶れさえなければほぼ理想に近い。白装束に着替えると、驚くくらいに美しくなった。


通夜がはじまると、斎場に書道の作品、ピアノの賞状、バスケットボール、ダンスのソロパートの写真が並べられた。イタルと真逆の、スミレ色じゃない華やかな人生。小中高の友人が、そしてマスコミがこれでもかと愚かな女を笑いに来る。

6000日の徒労を台無しにされ、名誉に泥を塗られた両親の怒りが伝わる。何怒ってるの?パパ、誉めてよ。知らないだろうけど、ちゃんと処女のまま死んだんだよ。あの女とは違うんだから。


やっぱりココロは来た。みんな制服なのに、一人だけ汚れた金で揃えたであろう喪服に、自分のステージと言わんばかりの厚化粧と香水、盛髪。表面上は友達でいて、脅された時は怖がっていた相手の葬式でこれだ。今度こそ、ただの恐怖では済ませてやらない。

ココロが焼香を済ませて女子の輪に入る。みんな馬鹿じゃないからココロを見る目が冷たい。気味がいい。

「ライト綺麗だね。スミレちゃんも見てくれてるのかな?」

そんな言葉に反吐が出る。友達を泣かせて何がしたいの?澄んだ夜空も斎場のライトも、全てぶち壊してやりたいんだよ。

ココロの首に手を回すと、思いが通じたように苦しみ出した。ココロをトイレに連れていく友達の目が、これを演技だと思って見ている。ざまあみろ。笑いが止まらない。

いつの間にか、イタルが前に言っていた包丁を握ってた。これでココロを殺せる。生きている人間に思いを伝えられる。もうイタルなんかいらない。

「ココロ、何顔青くしてんだよ。どうせ演技だろ?私は本当に苦しかったんだよ。血が出たんだよ。最初は熱くて、一気に寒くなって、掻くことも吐くこともできなくなって、失う気すらなくなった。

その間、男子に全裸死体だってシコられて、見つけられたら腐ってるところジロジロ見られて、掲示板では女嫌いに叩かれて、今ではマスコミに馬鹿な女の末路だってテレビで流されて。

私ってあんたの紹介料?かわいそうで賢いあんたを演出する道具?ここまでの仕打ちをされなきゃいけない悪者なの!?

お願いだから、謝って。少しでも、私の気持ちわかってよ…」

この女にだけは絶対にしてはいけないと思ってたのに、とうとう涙が出てきた。もう強がる気力もなく、気付いてほしかった。

でも、ココロは吐き捨てた。

「なんなんだよ、クソッ」

怒りが伝わらないだけでも苦しかったというのに、泣いても何も伝わらないとなると、もし体があったとしても、死んでるのと同じこと。裏を返せば、法律も道徳も止められない憎悪を限界まで発散できるということだ。

包丁をココロを首に回す。このケバケバしい頭を便器に捨てて、私の愚かさが霞むくらいの笑い者にしてやる。

怒りと嘲りと悔しさが乱れたけど、これしか慰めがない惨めさが、一番強かった…

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