口なしと云えど目は耳は
ニュースが女子高生失踪事件の容疑者逮捕を報じた。イタルが言ったように、私達が手を下すことなく警察が解決した。できることなら、他の殺人事件みたいにこのまま風化してほしい。
「やっぱり、あの時イタルと一緒に殺しておきたかった」
被疑者死亡で有耶無耶なら、車内から女子高生の毛髪が発見され、体液が検出されただなんて恥ずかしい報道もなかったと思う。私がかわいそうな女の子と演出するかのように、中学の頃のダンスの動画まで使われていた。
「すっぴんだとムカつくぐらいイケメンだな」
よく言われた。背も高くて、かわいくはなかった。
「色情霊のイタル君との出会いの場所でいよいよご開帳だね~」
これがイタルへの精一杯。魂は痒くて寒くて、気持ち悪くて固まってる。心なしか制服も2週間着たままのようで、湿気と臭いで不快感を覚える。ワンコの鼻が怖い。いてほしくない。イタルにも消えてほしい。じゃなくて、私が消えたい。
次の日には、出会いの地は遺棄現場として規制線が張られていて、それなのに大勢の人間が出入りしていた。
「イタル。今までありがとう。これで私も報われるから、先に行きなよ」
こう言われる覚悟はしてたみたい。規制線から先には入ってこない。でも、目を据わらせてその場で待ってる。
「あんた、何に期待してんのよ?前にバカが全裸死体だって言ってたから?」
「お前こそこの期に及んで相当バカなこと言ってるぞ」
警察がイタルをすり抜けて規制線の中に入ってくる。話が通じない警察に伝えたい苦しみを、イタルにぶつける。
「お前未練がましいんだよ!同じ日に生まれて死んだからって、他に何も関係ないだろ!こっちはお前みたいな綺麗な死に方じゃないから報われるのもお前より時間かかるんだよ!もう私に関わろうとすんな!あっち行け!消えろ!」
少し期待してたイタルのいやみ。今回はそれもなく、山を急いで駆け上がる警察がイタルをすり抜けると、ワンコと一緒に消えていた。
「発見!社会死状態。引き続き遺留品を捜索し、検死官に伝達…」
見ないで。放っといて。私の気持ちとは反対に、警察は家族や友人、そして私自身のために頑張ってる。鼻をつまみながら。
死後2週間、私を知ってる人ならまだ私だって判別できる状態だった。だからこそ痒くて吐き気がして気が狂う。
搬送する車の中で、遺留品の中にあった香水を私の亡骸に何度もスプレーする。ブルーシートを浸透しているように見えるけど、幻だから私に届くことはない。
そうだ。この香水は、あの夜、あいつと不潔なことをしてもいいように準備したんだった。
たまらずに瓶の蓋を開けて全部かけると、香水は赤黒い腐敗液になって出てきた。
「もうやだよ。みんな私に構わないで。死にたいよ…」
身元確認や死因究明のために、私の体は焼かれることなく、ジロジロ見られている。
あいつの供述がニュースになった。教室での騒ぎは全国的な祭となり、親にも隠していたことがバレていく。
【速報】メッタ刺しJKスミレさん、サクラだったwww
ミソジニーってやつか。これで、あいつへの疑問、いや、期待も完全になくなった。男は手を噛む女が最も憎くて、そんな女の命を奪って恥を与えることが最高の快楽なんだ。女にモテるこの顔立ちも、火に油を注いだのかも。
でも、私は生意気だったんじゃない。実際に弱くて、最後の最後で女にも負けて、孤独だった。
イタル、弱い奴が死んで喜ぶ奴なんか死ぬべきだって言ってたね。その言葉が今一番温かいよ。ねぇ、どこにいるの?
でも、やっぱり会えない。知られたくない。私は死ぬべき悪い女だって、思われるだろうから…