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6049日  作者: サグマイア
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情念と呪い

今の私達を動かしているものは、情念なのかもしれない。イタルを見ればよくわかる。口では嫌がってても、自分のお葬式に私を連れてってくれたり、ちゃんと自分の首を据わらせたり。そして、新しく生まれた情念も感じ取れる。イタルが男になっちゃうな。ちょっと怖いや。


私は今、情念であの男を捜している。イタルのことを怖がっておきながら、あの日のことを、痛みや寒さ、寂しさを思い出している私は、殺された時の姿になっちゃった。

「スミレ、どうしたんだよ」

「あんた誰よ?今はあいつのことで頭がいっぱいなのよ」

余計なことを考えたら、情念が途切れてあいつに会いに行けない。復讐は二の次。会って確かめたい。私が報われるには、あいつを避けることはできないから。

「見つけたよ。これであなたに会える…」




あいつから、あなたになった。あなたは仕事中もずっとビクビクしていて、マンションで一人になると、座るか歩くかのどちらかになった。

私があなたに抱く情念で最も強いのは、憎しみでも寂しさでもなく、疑問。あなたは警察にバレる恐怖でこうなっているのだろうけど、微かでもいいから、私に謝る気持ちがあってほしい。

「こうなるってことを考えてほしかった」

あなたが驚く。気付いてもらえたと思ったけど、あなたのスマホが鳴っただけだった。あなたは留守電に切り替わるのを待ってから着信に応じた。

「モグか、メグミかと思ったよ」

「ママはあっちで動画見てる。パパ遊んでよ…」

親って子供に変なあだ名つけるよね。私はプーちゃん。おならみたいだって怒って、カーテンレール破壊してやめさせたのを覚えてる。でも、そう呼ばれるのも愛されていたからなのよね。

「ねぇ、私はあなたが優しい人だって理解してるんだよ。私はそれでも殺さなきゃいけない存在だったってこと?少しでもいいから、私のことも考えてよ。私だってあなたを殺したい気持ちもあるよ?でも、何倍も苦しめなんて言わない。同じ苦しみでいいから。そしたら、今度こそ私に優しくして…」




「お前何勝手に電話してんだよ!」

その尋常じゃない剣幕で、私の情念は電話の先に行ってしまった。モグの母親がスマホを取り上げる。

「あのクズかよ。ちゃんとお前からも金払えって言ってやったか?」

モグをお前呼ばわり。私は女がモグを蹴ったりしないように庇う。でもどうせすり抜けるから、ただ女がモグに何もしないように願うだけ。

「知らないお姉ちゃんがパパに謝ってって言ってた」

「サイテーだな。もう女連れ込んでんのかよ。お前も愛情失ってんな」

モグに気付いてもらえたことがうれしかった。そして、モグの情念が私にも伝わった。こんな小さい子なのに、孤独で、絶望してるなんて。一緒にいてあげたい…




私がモグを抱きしめようとすると、モグと私の間にエネルギーが割って入った。それは上階を突き抜けながら私を屋上へ連れていった。

「何すんのよあんた!」

状況を理解できない中、イタルが何かを探していた。

「スミレ、包丁をどこに隠した?」

「何?知らない…何のこと?」

「本当にわかってないのか?お前、あの男じゃなくて、子供の首を切ろうとしてただろ!」

言葉を失う私に、イタルは続けて言った。

「スミレを殺した男の面、拝んでやったぜ。警察が動くのも時間の問題だし、あいつは既に地獄の苦しみを味わっている。放っておこう」

「逮捕まで、裁判まで、あいつが死ぬ時まで待っていなきゃいけないの?そしたら、私はずっと苦しむんだよ!」

「また呪ってもいい。でも今度は子供が見てないところでやれ。あと一人でやるな。危なっかしい」

そう言うと懐から鋏とチューブ、空気が入った注射器を捨てた。それは地面に落ちる前に消えた。

イタルは私の情念を捜すために、見ず知らずの男を殺そうとしていた。今度は首じゃなくて目が据わってるし、やっぱり怖い。

「ああ、思い出してきた。お前絶対胸触っただろこの色情霊が!」

「やめろよおいまだ包丁見つかってないんだからよ」

小さいくせに、怖いのに、私はやっぱりこいつに頼ってる。

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