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第8話 Aの食卓

ようやく自宅へ帰ってきた。外はもう真っ暗で街灯の灯りがぽつんと灯っている。二階にある自分の部屋に戻り、ベッドの上で寝転んでいた。部屋は机に本棚、洋服ダンスにダンベルなどが置いてあるのだ。


 長い一日が終わった。なんというか濃厚な時間を過ごした気がする。まるで身体をはちみつの中に放り込まれた気分だ。どろどろして動きが鈍くなり、はちみつの甘さと香りで頭がクラクラになるみたいな。


 それはどうでもいいか。俺様の日課は筋肉を鍛えることだ。といっても今日はトレーニングをしない。筋肉を休ませる日だ。

 これは身体を壊さないためだ。かつてキノコ戦争以前のボディビルダーが丸一日マラソンをしたり、筋肉の筋がちぎれるまでウエイトトレーニングをした例があるという。

 筋肉を育てるのに必要なのは食生活だ。基本的に朝と晩は決められたメニューにしてもらう。昼間は学校の給食だが、こちらは気分転換だ。今日みたいに寄り道で外食をすることもあるが、肉を育てられるものを選んでいる。


 これはフエルテとアモルの兄貴も実践していることだ。アモル兄貴はオリンピックスクワットという、高負荷のバーベルで僧帽筋上部そうぼうきんじょうぶに担いで古スクワットするものだ。これで大腿四頭筋を鍛えられるのである。さすがの俺様も敷居が高い。

 スクワット、デッドリフト、バーベルローイング、懸垂けんすいディップスとプレスを行っている。これらをリズムよくこなすのが大事なのだ。

 最初は背中を曲げながらのデッドリフトや、腰を落としきれていないスクワット、そして、あまり効果のない腕立て伏せなどをしていたっけ。フエルテの兄貴に注意されたな。フエルテ兄貴もおふくろに教わったことをそのまま俺様に教えているという。俺様はおふくろの思い出はあまりないが、フエルテ兄貴がいてくれたから寂しいと思ったことはないね。


「アミスター、ごはんよ」


 俺様はベッドから起き上がるのだった。


 ☆


 食堂は広い。長方形で長いテーブルが置いてある。ひとつの席に4人座れるもので、それが3卓あった。

 灯りは電灯が付いている。太陽光発電で動いているのだ。非常時には水力発電でも動く。

 こちらは俺様たち家族が使う場所で、使用人たちはこことは違う場所で食事をとっていた。

 食卓には家長であるアモル兄貴が上座で、次にコンシエルヘ叔父さんとフェリシダー、それに蜂の亜人である叔母さんと小さい羊の亜人の妹が座っていた。

 バリエンテはアモル兄貴の側にいる。フエルテ兄貴はいない。今日は用事があるようだ。

 パンに鳥の胸肉、鳥のささ身のサラダ、オムレツに根菜たっぷりのスープである。

 鳥の胸肉とささ身は高タンパクな食べ物だ。もちろんこればかり食べているわけではない。たまにサバや牛の赤み肉を食べたりするのだ。牛はここ数年で需要が安定しており、気軽に食べられるようになった。


「では、いただきましょう。本当はセルティン叔母さんも来る予定でしたが、急用でこれなくなったと連絡がありました」


 アモル兄貴が言うと、全員食べ始めた。料理人はアリの亜人だ。アリが大勢いる村の村長の息子だが、労働力として育てられたので、いてもいなくてもどうでもいい存在だったらしい。この屋敷で働き、コミエンソに集まる珍しいものが体験できるので喜んでいた。


 ああセルティン叔母さんは親父とコンシエルヘ叔父さんの妹だ。家を出て家庭を持っているが、たまに食事しに来るのである。今日は予定が狂ってこられないようだ。


「しっかし今日はすごかったなぁ。うちの学校に転入生が来たんだからさ!」


 フェリシダーが話題を振った。とても興奮している。よほどホシコを気に入ったのだろうか。別にお前に気があるわけではないのに、なぜ盛り上がるか理解できない。


「転入生ねぇ……。司祭学校設立以来、初めてじゃないか。余計な騒動が起こらなければよいがな」


 コンシエルヘ叔父さんは苦々しくつぶやいている。あまりよそ者は好きじゃないようだ。いや、司祭学校の歴史では異質な存在なのだろう。俺様はあんまり気にしないけど。

 叔母さんは小さい妹とバリエンテの世話をしており、話に加わっていない。

 アモル兄貴が訊ねてきた。


「そんなに珍しい人なのでしょうか」

「何しろアマテラス皇国から来たサキュバスだからね。本でしか見た事がないから驚きだよ。特にアミスターに対して色目を使っていたな」


 ぶっほ!!

 フェリシダーの奴、いきなり何を言いやがるんだ! むせたじゃないか!!

 アモル兄貴がじっと俺様を睨んでいるよ。俺様はあいつに気なんかないからな!!


「色目ですって? ゴリラのアミスターに何か惹かれるものがあるのでしょうか」

「アミスターは筋肉がすごいからね。たぶん筋肉に惚れているんだろうな」

「はっはっは、照れるなぁ」


 筋肉を褒められて悪い気はしない。俺様は思わず笑ってしまったが、アモル兄貴の冷たいまなざしが突き刺さる。視線という細い針を複数本突き刺された気分だ。


「……アミスター。私はあなたの交友関係に口出しする気はないわ。でも気を付けなさいよ。その転入生が何を企んでいるかはわからないわ。いいえ、サキュバスというだけで陰謀をもくろんでいると思われているかもしれないわね。なるべくその子に気を使ってあげなさい、いいわね?」

「えー、なんで俺様が……」


 ぎろり!


 さらに殺気が膨れ上がった。ライオンも怯えて逃げ出すかもしれない。さすがの俺様もびびっちゃうよ。フェリシダーもびくびくだ。

 叔母さんと子供たちは我関せずに食事を続けている。バリエンテはもしゃもしゃと飯をかきこんでいた。こいつらは大物になるな。


「ところでフエルテの兄貴はどうしたんだよ。いつもなら食事に参加するのに」


 そうフエルテ兄貴は家族との時間を大事にする。司祭の杖と言っても司祭につきっきりではない。たまに司祭の杖が集まって会議をすることがあるのだ。主にエビルヘッド教団とか、外国の話とかするらしい。アモル兄貴も別の会議に出席することがあった。


「今日は何か緊急の会議が起きたみたい。セルティン叔母さんもそちらに参加しているのよ」


 そうセルティン叔母さんは司祭の杖だ。フエルテ兄貴がいなかったら、叔母さんが猛毒の山にアモル兄貴と付き添っていたそうである。

 

「セルティンは一週間ワンウィーク騎士ナイツのひとりだ。あいつが参加を強要されるということはよほどの事態が起きたのだろうな」


 コンシエルヘ叔父さんが口を出した。一週間の騎士というのは司祭の杖でも特別な役職を持っている。セルティン叔母さんはそれなりに強いのだ。その人が参加するということは本当に非常事態が起きたのだろう。


「まあセルティン叔母さんは強いからな。心配することはないね」

「そうなの。で、転入生の人はどういう人なのかしら。詳しく教えてくれないかしらフェリシダー」


 話を逸らそうとしたが、アモル兄貴がまだ食いついてくる。


「そうですね。ホシコという女性ですが、なんとなくですがフエルテさんに似ているのですよ」


 フェリシダーは俺様の前では軽いが、アモル兄貴の前だとしおらしくなる。フェリシダーはいい加減学習しろと俺様に言うが、どうにも治らなくて困る。


「フエルテ……、身体を鍛えているのかしら?」

「違いますね。普通の女の子ですよ。胸は平坦で慎ましいですね」


 その言葉にコンシエルヘ叔父さんは息子を睨みつける。叔母さんも同じだ。女性の身体を話題にするのはあまり幼児に聞かせていいものではない。


「なんとなくだが雰囲気が似ているんだよ。フエルテ兄貴とは全然違うのに、親近感があるんだよな。全く不思議だよ」


 俺様は自分で言っていて違和感を覚えた。そうホシコは兄貴に似ていない。なのになぜそう思うのかわからないのだ。


「……確かその子はエビルヘッド教団の首都フィガロ経由から来たのよね。事前に教会から連絡は来ているのよ。もしかしたらフエルテの親戚かもしれないわ。あくまで推測だけど」


 アモル兄貴が言った。しれっと言ったが本質を貫いているかもしれない。フエルテの兄貴の父親はフィガロから来たとわかっている。なんでも父親の名前はマリウスといい、蟲人王国インセクターキングダムではよくある名前だそうだ。

 ホシコの母親は夜鷹らしいが、血が混じっているのかもしれないな。


「まあ、いいわ。一番大事なのは節操のない行動は慎みなさい。あなたが女の子に手を出すことはないと思うけどね。男の子だったらわからないけど」


 そう言って食事をしながら言った。いや、女にしか興味ないよ、男は相手にしないぞ。あんたと一緒にするな!!


 俺様は心の中でそう思った。

題名はゲームDの食卓がモデルです。

 故飯野賢治氏の作品です。題名は結構思い付きであり深く考えてません。

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