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第5話 ホシコの憂鬱

「むしゅ~。素敵な女の子が来るなんて、今日は素晴らしい日だね~」


 教室の中でうきうきした口調で話しかけるのは、俺様の従兄弟に当たる蜂の亜人の男、フェリシダーだ。この世の春が来たといわんばかりの浮かれっぷりだ。

ミツバチの形態で全身が黄色い毛で覆われている。額には触角が生えており、背中にも飛行できない飾りの羽根も生えていた。

 尻にはぽっこりと蜂の腹部が出ているが、尾てい骨が変化したもので、針は出ない。

 ちなみにこいつは怠け者だ。父親はコンシエルヘ叔父さんで、母親はミツバチの亜人だが、働き蜂はメスだけである。オスは働かないそうだ。ミツバチの習性なのか、ダンスが趣味である。俺様は筋肉を鍛えるのが好きだが、不思議に馬が合う。たぶん相反する性質だから、気が合うのかもしれない。これで同じ趣味なら互いに反発して険悪になっていただろう。

 あとおばさんはよく息子に家事の手伝いをしろと注意するが、いつも逃げている。それで夕食の頃にはその事で叱られるのが日課だ。学習能力がなさすぎる。

 今は休み時間なので人はまばらだ。俺様は特に用事もなく、椅子に座ったままで、フェリシダーが話しかけてきた形だな。


「俺様はどうでもいいな。あんながりがりで肉のない女に興味はない」

「うほっ、おっぱいとお尻に肉がないと不満ですか。毎日アモルさんのわがままボディを見つめて暮らすアミスター君とは思えない発言ですなぁ」

「お前だって毎日兄貴を見ているだろうが!! 大体あいつのどこがいいんだ!?」


 するとフェリシダーはやれやれと嫌味たっぷりに首を振る。なんかイラっと来る動作だな。コンシエルヘ叔父さんの血を引いているとは思えない。ましてやおばさんにも似ていないぞ。

 いや、逆だな。真面目な両親から不真面目な子供が生まれてもおかしくない。妖精王国フェアリーキングダムではチェンジリングといい、妖精がいたずらで生まれた人間の赤子と自分の子を取り換える伝承があるという。

 うちの場合はアモル兄貴は父さんに似ているし、俺様は母さんと同じゴリラの亜人で身体を鍛えるのが大好きだ。


「アモルさんのあの爆乳と迫力ある尻がいいんじゃないか!! その上おっとりと優し気な表情だからこそ、ダイナマイトバディが光るんじゃないか!! ああ、羨ましいよ。俺の妹たちはふかふかの毛で覆われた羊だからなぁ」

「俺様としてはヘンティル姐さんの方が好きだがね。お前は蜂の亜人のくせに毛のない人間が好きなのかよ」

「おいおい、アミスター君。そいつは差別発言というものだぜ、人から差別主義者と陰口を叩かれても仕方がないというものだぜ。まあ、君の場合はお姉さんに対して含むものがあるからだろうね。そもそもヘンティルさんも毛がないじゃん」


 フェリシダーに指摘されてしまった。確かにアモル兄貴もヘンティル姐さんも毛はない。俺様が尊敬する偉人、フエルテ兄貴もそうだ。

 俺様は少しバツが悪くなり、話題を変えることにした。


「そういえばお前はアモル兄貴が女になっても平然としていたな」


 6年前、アモル兄貴は女になった。今までは女性に似た男性だったのだが、なぜかとある任務のために出張して帰宅したら、女に生まれ変わっていたのだ。俺様は10歳児だったが唖然となったね。開いた口がふさがらなかったよ。

 ちなみに当時の任務は囚われのフエルテ兄貴の救出だった。


「そうだな。あの人が女に変化しても大して衝撃はなかったよ。むしろ女になって当然だと思ったね。そりゃあ一緒に風呂に入って親父より立派なものがついてるのを見た事はあるが、大きくなれば引っ込むと信じていたよ」

「男の股間は引っ込まないだろ。ハイエナじゃあるまいし」

「だがシンセロ伯父さんも美人だったよ。あれで女性でないのが残念なくらいさ。もっとも男のままだからこそ価値があると周りの大人は噂をしていたけどね」


 どんな価値だ。男が女に見えるなど恥さらしもいいところだ。女の腐ったやつ、男女など生きる資格はない。まあ幼少時に父さんの事を母親と信じていたのは内緒だ。


「あら、君たちボクの噂話をしていたのかな?」


 噂をすればホシコだ。こいつは他の教室から来た女子とおしゃべりをしていた。女どもの会話は理解できない。どうせなら筋肉の話をすればいいんだ。アモル兄貴とどんな食事を摂れば筋肉が身に付くかで盛り上がったことはあるけどな。


「ああ、その通りだよ。この国では珍しいサキュバスを見て盛り上がっていたのさ」


 フェリシダーはウソをつく。こいつがサキュバスであることは話題にしていない。そりゃあ直接見た事のない種族を見て興味がないわけではないが。

 フェリシダーは突如腰を振りながらダンスをし始めた。求愛のダンスだ。鼻歌も混じっており、非常にうざい。ホシコは笑いながら眺めていた。


「あはははは。君って面白いね。名前はなんだっけ?」

「フェリシダーだよ。スペイン語で幸せを意味するんだ。両親が俺に幸せになってもらいたいと名付けたんだよ」

「そうなんだ。ボクの場合は空に浮かぶお星さまのようにキラキラ輝いてほしいという意味で付けたといってたね」


 フェリシダーとホシコは互いの名前で盛り上がっていた。そこにホシコが話を振る。


「それで君の名前はどんな意味があるの?」

「俺様の名前なんかどうでもいいだろう」

「どうでもよくないよ。だってボクは君に興味津々だもの。そのマウンテンゴリラの身体にはちきれんばかりの股間のこん棒が素敵すぎて、目が離せないんだもの」


 ホシコは俺様の股間をじっと見ている。確かに俺様の逸物は他の人間より太くてかたい。しかし露骨に見つめられると恥ずかしくなってくる。さすがサキュバスといったところか。性に関しては貪欲のようである。


「フィガロでは性に関して厳しいのよ。身寄りがおらず、芸も学もない女性が娼婦になるのは問題ないのよ。そうゆう人たちはきちんとした衛生管理の元、厳重な警護の中で仕事をしているわけね。子供がいればエビルヘッド教団の司祭が文字の読み書きと九九を教えたりするわ。そうやって将来は娼婦以外の職を脱却させるためよ。でもそれ以外の人間が子作り以外にエッチなことをするのは禁じられているのわ。特に若い子の不順異性交遊は厳しく罰則を設けられているのよ。ボクみたいに性で遊ぶ人種は四六時中見張られていて、いつでも処罰できるようにしているわけね。だからこそボクは逃げてきたわけよ。ここならエッチなことをたっぷり楽しめるしね。女は下の口だけじゃなく、いろいろ使えるのよ」


 引いた。これは引くわ。サキュバスと聞いたときから性に関してはそこそこやると思ったが、思った以上の変態だった。周りの女性陣もホシコに対して一歩下がっている。そりゃそうだろう。フエゴ教団でもエロいことは積極的に推奨されているわけではない。むしろ制限している。

 キノコ戦争以前の性交を収めた映像を授業で見たが、あれはあくまで演技だそうだ。気持ちいいのは確かだが、劇中のように快楽が押し寄せているわけではないという。

 

「うほー! そうなのかい。なら今度俺と一緒に楽しもうじゃないか!!」


 引かないのはフェリシダーでした。蜂のくせに興奮しすぎだ。鼻息が荒すぎて女子たちにドン引きされているぞ。もっともこいつの性癖はみんなにばれているけどな。


「そうだね。お尻でよければいつでも相手をしてあげるよ」


 ホシコは笑った。子供のような無邪気そうな笑顔である。さすがのフェリシダーも表情が固まっていた。


「ボクはね。子供が産めない体質なんだ。石女うまずめっていうんだよ。だからあそこじゃなく、別の口を使わないといけないわけね。それでもいいならこれからトイレに行って楽しもうか?」


 とんでもないことを言い出す女だ。フェリシダーは乾いた笑いしか出ない。ぱくぱくと鯉のように口が動いていた。

 だがこいつはなぜこのようなことを言い出したのだろうか。そもそも子供が産めなくても性交を楽しめるのではないか? フェリシダーの冗談に真面目に答える彼女に、俺様はなぜか異質なものを感じ取った。

 そう人間世界に興味を抱き、陸に上がった人魚の娘のように……。


「あっ、アミスターはスペイン語で友情という意味なんだ。友情に厚い人間に育ってもらいたいと願ってつけられたそうだよ」


 そう答えたのはフェリシダーだ。茫然としていたが気を取り直したようである。というか俺様の名前の由来をなぜ話した。別に知られても構わないけど。


「そうなんだ。素敵な名前だね。じゃあこれからもボクと友情を育もうよ。君とは仲良くなれそうな気がするんだよね」


 そう言ってホシコは右手を差し出し握手を求めた。俺様も釣られて握手をする。か細い手だがどこかで握った気がした。どこでだろう。こいつとは今初めて手を握ったはずなのに。

 

 俺様の疑問に答える者はいなかった。

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