表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/44

最終回 おねがいマッスル

「では、アモルさんとアミスターさん、ステージにお上がりください」


 ここは司祭学校にある多目的ホールだ。大人が300人いても収容できる空間がある。

 普段は学園長がつまらない話を聞かせるために使うホールだが、今回は俺様とアモル兄貴がステージの上に立つことになった。


 意味が分からない。ディオスに襲われて1週間、俺様はイデアル先生のカウンセラーでなんとか立ち上がった。首を切断されたニュンペーは普通に生活している。

 しかしウワバミたちに罵られた心の傷はまだ癒えない。ホシコはコシノたちにリンチに遭ったが、あれは自分の意思じゃないから関係ないと明るい表情で笑っていた。

 

 俺様は今回自分が弱いと実感した。肉を鍛えることに夢中になり、肝心の精神修業はおざなりだった。

 その事をアモル兄貴に伝えたら、今度みんなの前で筋肉を披露しようと言われた。本当に意味不明である。


 俺様はステージの横に立っていた。さらに側にはアモル兄貴がいる。マイクロビキニというきわどい水着で、乳首と股間をぎりぎり隠しているだけの代物だ。


「うふふ。あなたと筋肉を比べるなんて初めてだわ。お手柔らかにね」


 アモル兄貴は微笑んだ。兄貴の胸はメロンのように膨らんでいる。普通は重さでだらりと垂れ下がるものだが、兄貴の豊満な胸は上をつんと向いていた。

 エロさを感じない。兄貴は6年前まで男だったからだ。それ以前から身体は鍛えていたが、母親になって以来身体は崩れている。俺様と勝負して勝てると思うのだろうか。


「今回は勝ち負けは関係ないわ。あくまでお互いの筋肉を褒めたたえましょう。行くわよ」


 こうして俺様たちはステージの上に立った。


 前方は椅子に座った生徒たちがずらりと並んでいた。人に見られるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。俺様の鍛え上げた筋肉を思う存分見せてやろう。


「ではリラックスポーズを取ってください」


 リラックスポーズとは自然体ともいう。最初にステージに登場した時にとるポーズで、名前こそリラックスだが、実際には全身に力が入っている。


まずは正面向きからスタートして、その場で一回転して、最後は再び正面向きに戻る。


司会者の「ターンライト」という声の元、右回りに4分の1回転して横向きのポーズへと移る。ここで数秒間停止し、再び司会者の「ターンライト」という声で、後ろ向きポーズへ移るのだ。


同じく数秒間停止し、再び「ターンライト」という声で横向きポーズへと移り、最後は再び、正面向きに戻るのである。


 俺様とアモル兄貴は司会の言葉に従い、リラックスポーズを見せた。


「ではフロント・ダブルバイセップス!」


 司会者の声で俺様はポーズを取った。バイセップスとは上腕二頭筋を意味する。両腕を曲げた状態で上腕二頭筋を見せ、さらにその体勢を前から見せるということでこの名になっているのだ。


両腕を上げていることから逆三角形の体型や腹筋、身体全体のバランスなどを全て見ることができる。


昔から、力強さや筋肉の大きさを象徴する代表的なポーズとして広く普及してきたポーズだという。


 俺様はみんなに思う存分上腕二頭筋を見せつけた。


「おお、アモルさんの上腕二頭筋は素晴らしいね! ハムのような腕だ!!」

「慈愛に満ちた女神のような腕だね」

「アミスターはマウンテンゴリラそのものだな」


 観客の掛け声は兄貴を称賛する声ばかりだった。なんか悔しい。


「リラックスしてください。次にフロント・ラットスプレットです!」


 俺様はリラックスポーズをした後、フロント・ラットスプレットのポーズを取った。


 ラットは背中の筋肉を意味し、スプレッドは広げるという意味があるので、背中の筋肉を広げたポーズという意味になる。


脇の下に見える筋肉は広背筋で、これは背中の筋肉で、逆三角形の体型を形作っている筋肉だ。背中の筋肉を大きく左右に広げて、背中の横幅を強調するポーズである。


「おお、アモルさんの広背筋はすごいね。ゴリラみたいだ!!」

「母性の象徴である胸より、広背筋の方が自己主張激しいね」

「こうして見るとアミスターのは個性がないな」


 こちらも散々な言われようであった。


 次にサイドチェストのポーズを取る。


「アモルさんのチェストはすてきだね。それに肩も取れたて新鮮のメロンだよ」

「胸も肩もメロン付きだなんて豪華な人だなぁ」

「アミスターは平凡だな。まさにリアルゴリラだね」


 次はバック・ダブルバイセップスだ。


「アモルさんの背中に鬼神が宿っているよ。子供を背負う母親の背中だね」

「すべての災厄から我が子を守る女神だな」

「アミスターは、うん、普通だな。そりゃあ素人より鍛えていると思うけど」


 ……バック・ラットスプレット。


「うーん、アモルさんの背中に天使の翼が生えているね。いいや女神の翼かな?」

「それにグレートケツプリだよ。子供を産んでさらに迫力が増したね」

「アミスターは迫力はあるけど、なんかいまいちだな。普通の人より肉は厚いけどさ」


 サイド・トライセップス。


「アモルさんの肩はちっちゃい重機を乗せているのかい!!」

「腕一本で木を引き抜いても俺は驚かない」

「アミスターの肩はでかいけど、ただそれだけだな」


 最後にアブドミナルアンドサイ。


「アモルさんの腹筋は板チョコバレンタインだね」

「脚はゴリラだよ。あれを見たら泣く子も黙るね」

「弟の方も同じだな。でも元々肌が黒いからね」


 こうして規定ポーズはすべて終了した。結果としてアモル兄貴の勝利である。

 俺様は大いに落ち込むのであった。


 ☆


「わかったかしら。あなたは今までがむしゃらに走ってきただけなのよ。きちんと人の忠告を聞かないから、迷走してしまったわけね」


 その晩、俺様はアモル兄貴に呼び出された。兄貴は司祭の仕事と育児を両立させている。もちろん司祭の仕事はコンシエルヘ叔父さんが手伝い、育児はアマブレさんが手伝ってくれている。

 兄貴は人に協力してもらうことに抵抗がない。大変だと思うときはきちんと人に頼る。

 筋力トレーニングも、教団にいる人からきちんとトレーニング方法と、日々の生活などの指導を受けていた。

 俺様は人に頼らず、独自で筋肉を鍛えてきたのだ。


「今回は私の方が優勢だったわね。でもあなたはおじい様からきちんと教えを守り、48ある殺人技を7つも習得したわ。人の話を聞いて、素直に受け取ることができたあなたはもっと強くなれるわよ。これからもがんばりなさいね」


 そういってアモル兄貴は俺様の頭を撫でた。今は亡き母親より小さな手だけととても暖かかった。


「……ディオスがあなたを痛めつけたとき、頭の中が真っ白になったわ。私の可愛い弟が傷つけられて、破壊衝動に駆られたのよ」


 突然、兄貴が独白する。


「でもあなたが初めて私に助けを求めたとき、不謹慎だけど心が震えたわ。ああ、私はあなたに頼られているのだって。そう思ったら拳に力が入ったわね。結果としてディオスの首はちょんぎれたけど」


 なんとも物騒なことを言うな。けどディオスの身体からは首が消えていた。確か兄貴は心臓を狙ったはずだが、気のせいだったのだろうか。


「あはは、そんなことはどうでもいいじゃない。ボクにとってアミスターは一番なんだから」


 ホシコが後ろから抱きついてきた。こいつは相変わらずである。


「ねえ、アミスター。今度からボクも筋肉を鍛えるよ。そしてゴリマッチョになり、一緒に愛し合おうじゃないの」

「いや、愛さないから。お前は何をしたいんだ?」

「そりゃあ、アミスターの子供を産むためだよ。アミスターは筋肉が好きだから、君好みの身体に鍛えるのさ。もちろん性別は女にするよ」


 こいつは何を言っているのだ。まったく意味が分からない。


「あらあら。子供を産むのは司祭学校を卒業してからでないとだめよ。さらに言えば20歳を超えた方が理想的ね。10代で子供を産んでも何のメリットもないわよ。私は女になったときに浮かれてて、毎晩フエルテとがんばったら、ヒットしちゃったのよね」


 兄貴はしみじみとした口調で答えた。すごくどうでもいいことだ。


「そうだ。アミスターに手紙が来たんだ。はいどうぞ」


 ホシコは俺様に手紙を差し出した。差出人は闘神王国である。はて誰だろう、ギルガメッシュさんはまだコミエンソにいるのに。


 手紙の内容は最強を決めるトーナメントへの紹介状であった。

 出場資格はギルガメッシュさんの48ある殺人技をふたつ習得している者である。

 すでに31名のギルガメッシュさんの孫たちが集結し、俺様は特別枠として参加を認めるというものだった。

 なんで俺様がそんなものに参加しなくてはならないのだ?


「聞いたことがあるわ。闘神王国ではおじい様の孫たちが闘神王の称号を狙って争っていると。実際に闘神王には何の権限もないけど、最強を目指す者にとっては絶対の称号らしいわね。私は女になったから参加資格を失ったけどね」


 兄貴が答えた。そんなの俺様には関係ない。勝手にやればいいんだ。


「ああ、それは無理だね。だってコミエンソじゃ、トーナメントはノースコミエンソのノースコロシアムで行うそうだよ。もう、アミスターが参加すると決まっているから大盛り上がりだよ」


 ホシコが言った。なんで俺様の許可なしで勝手に進めるんだ。


「そりゃあ、アミスターが唯一7つも殺人技を習得したからだよ。闘神王国じゃ3つが限界なのに、アミスターはあっさり7つも持っているからね。さすがはボクが惚れた男だよ。代わりに今夜はたっぷりと可愛がってあげるね」


 それはいらない。しかし、なぜこうなってしまったのだ。俺様がいったい何をしたというのだ。

 俺様は、俺様は……。


「やっぱり俺様という態度がむかつくんじゃない? 偉そうな人をこてんぱんにやっつけられるのを見たい人がいるんじゃないかな」


 ホシコに言われて気づいた。続けて兄貴も追い打ちをかける。


「ああアミスターの場合は、あえて偉そうにすることで、自分を大きく見せているだけなのよ。子供の可愛い背伸びね」


 そう俺様は知らないうちに、一人称が俺様になっていたのだ。これは身から出た錆、自業自得なのである。

 俺様は腹の底から声を上げた。


「俺様の戦いはこれからだ!!」

 題名はアニメ、ダンベル何キロ持てる? の主題歌、お願いマッスルです。


 正直マッスルスチューデントは迷走していました。マッスルアベンジャーと並行して連載してましたが、スチューデントはろくに道筋も考えず、見切り発車した形でした。

 ゲーム、ときめきメモリアルを目指してましたが、まったく見当違いの方向へ飛んでしまったのです。


 最終回は兄に敗北する弟を描きました。大抵悪人を懲らしめて終わる傾向でしたが、アミスターは敗北したままで終わっています。

 ご愛読ありがとうございました。次回作にご期待ください。


 とはいえ来週の木曜日には外伝を発表します。なのでまだ終わらないですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 私は毎回楽しみにしてましたよ~。 アモルの変わりぶりがよかったです。 途中からでてきたホシコの変態ぶりにも癒されました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ