表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/44

第13話 スーパードクターメディコ

「ふむふむ、それで突如腹部が膨らんだと……。ふむふむ」


 ベッドの上で横になっている俺様の横で、リビアヤマネコの亜人であるイデアル先生が何かを書いていた。

 ここはフエゴ教団が経営する病院だ。ノースコミエンソのあり、鉄筋コンクリートで作られている。鉄筋コンクリートとは鋼材を組み合わせ、周りをコンクリートで打ち込んで固めたものだ。圧力にも引っ張り力にも強く、建造物の耐久・耐震性を高めると授業で習ったな。

 時刻は夕方だ。俺様は司祭学校で事故を起こした。それで気を失った俺様はここにいるわけだ。ちなみに2階建てで、病室は2階にある。

 真っ白い壁にタイル張りの床。装飾品はなく、家具はベッドと木製のタンスだけだ。タンスの上には水差しとガラスのコップが置いてある。


「ホシコさんにみだらな関係を迫られ、焦った君は風船のように腹部を膨らませ、放屁で逃げ出したと……。これでホシコさんが君を蛇蝎のように嫌われると思ったでしょう。でもホシコさんは君を心配していました。添い寝したいと願い出ましたが却下させましたよ」


 イデアル先生は俺様の症状をかきこみながら、ホシコの事も教えてくれた。あの野郎、まだ俺様を諦めていないのか。

 ちなみにイデアル先生はホシコが男だと知っていた。見た目と仕草は女性そのものだし、ホシコは女性に欲情することがなかったという。学校にいる間は女性でいるようにと指示をされていたそうだ。

 それなのに保健室で俺様に迫ったのは、俺様を本気で心配していたらしい。セルティン叔母さんに踏みつぶされた際にいの一番で駆け付けたのもホシコだという。ちょっと意外だと思ったな。


「まったく俺様の身体はどうなったのだろうか。なんでいきなり腹が膨らんだのか」

「おそらくはガスでしょうね。おならは肛門こうもんから放出されるガスです。飲み込んだ空気や、腸の内容物の発酵で生じるものですよ。あなたの場合は空気よりも軽く、人間ひとりを持ち上げるガスを錬成したのでしょう。言わば大腸スキルですね」

「なんて嫌なスキルだ。こんなださいスキルなんて願い下げだぜ!!」


 俺様は頭を抱えた。鍛えた筋肉とはまったく関係のないスキルに、絶望した。


「そうですね。今までの記録ではおならを利用したスキルもあります。ですがあなたのように身体が宙に浮くことはありませんでした。もっともおならをどう活用するかは前任者の記録があるので大丈夫です。あなたがすることはあくまでスキルを鍛え、活殺自在に操ることですよ」


 イデアル先生はそう慰めてくれた。だが俺様の気分は晴れない。身体に重い鉄を背負わされたようだ。

 それを見たイデアル先生はため息をつく。そして口を開いた。


「……そもそもスキルというのは本人の意思とは無関係です。神応石スピリットストーンが周囲の人間の感情を読み取り、力に変えるのです。あなたが尊敬するフエルテさんの筋肉スキルも塩の町サルティエラの女王、イザナミ様の真似だといわれました。あなたの力も一見筋肉に関係のない力に見えますが、周囲の人は別の目で見ているかもしれません。気を落としてはいけませんよ」


 イデアル先生はぽんと手を俺様の左肩に優しく触れた。この人とは幼い頃から知っている。


「……今日は休みなさい。3日は入院しなさいな。まあ、検査をすることになるでしょうけど」


 そう言って先生は病室を出た。後に残るは俺様だけだ。

 いつもなら筋力トレーニングをする時間だが、トレーニング器具がまったくない。することがないのだ。暇である。


 ふぅ、たまには筋肉を休ませないとな。やれやれ。


 がちゃりとドアが開いた。というかノックくらいしろ。入ってきたのは白衣を着た人間の男だ。陰険そうな面構えである。細身の体はまるで人骨の標本みたいだ。髪の毛も白く縮れている。

 確か名前はディオスという名前で、イデアル先生と同期だと思う。


「……起きていたのか。ちっ」


 ディオスは舌打ちをする。いきなり部屋に入ってきてその態度は何だ。俺様は不機嫌になった。


「先ほどイデアルが出て行くのを見たが、どんな楽しくて夢のある話をしたのかな? エリート様は将来の不安なんか一切ないから羨ましいねぇ」


 いきなり嫌味を言ってきた。というかこいつは司祭で実家も司祭だ。父親は人間で母親は鹿の亜人だという。ふたりはノースコミエンソに連れてこられ、父親に才能が有ったので司祭になったそうだ。 ちなみに父親はイデアル先生の実家で勤めている。神応石の研究員だ。確かこいつも同じである。ちょっと仕事に厳しく癇癪を起しやすいが優秀な人だとイデアル先生がこぼしていたな。


「……先生もエリートだろ。なんでも素晴らしい発見を繰り返したそうじゃないか」


 俺様は嫌味を返した。ディオスは神応石の研究において結果を出している。もっとも同僚が謎の死を迎えるため、死神という陰口を叩かれていた。

 するとディオスの顔が険しくなった。怒りで顔が真っ赤になっている。


「きっ、君は私を馬鹿にしているのか!! 私はエリートではないぞ、社会的弱者だ!! 勝手に私を強者呼ばわりしないでくれ!! そのせいで私はいろんな雑務を押し付けられるんだぞ!! 本来ならイデアルが全部やる仕事なんだ!! ああ、腹が立つ!!」


 ディオスは地団駄を踏んでいる。まるで子供だな。真っ当な大人とは思えない。こいつの母親が結構甘く、子どもの頃は好きな物ばかり食べさせてきたからわがままに育ったと、これまたイデアル先生が言っていたっけ。


「ああ、なんてむかつくんだ。私は手柄を立てたのに周囲はまったく評価してくれない。するのはイデアルばかりだ。それとあいつの母親もなんだ。娘だからと言って贔屓しまくっている。それに旦那が金持ちだから好き放題に暮らしているぞ。お前もあいつらには近づくなよな」


 こいつこそイデアル先生がいないのを幸いに好き放題だ。そもそも先生の母親は厳しいことで有名だぞ。兄ともども躾けられたそうだ。お手伝いをしたり何か功績を挙げないと好きなものは買ってくれなかったらしい。かといって失敗や敗北は見逃しているという。それらを糧に成功につなげるようにと教育されたそうだ。

 だからなのかイデアル先生の兄はエル商会というハンバーガーショップで性交を収めたのだ。年に何度かハンバーガーを路上で売り、その売れ行きを計算に入れて店を開いたらしい。

 だがディオスの言葉は賛同できない。こいつは面倒が大嫌いで功績を挙げても自分ではなく部下に丸投げするから嫌われているのだ。


「ところで先生は何の用で来たんだよ」


 独白が終わりそうにないので俺様は声をかけた。するとディオスは怒鳴りだした。


「お前なんかに用はないんだ!! こちらはすごく忙しいんだよ、お前に構う時間は一切ないんだ。それなのに入院しやがってむかつくんだよ。お前の世話は自分でやれよな。ちっ!!」


 舌打ちした挙句、ドアを乱暴に閉じて出て行った。何がしたいんだ? まあ狂人が俺様の部屋に入ってわめきちらしただけか。なんかああいう馬鹿を見ると面白いな。動物園にいる猿山の猿みたいに滑稽に見える。

 

 コンコンとノックの音がした。俺様はどうぞと答える。入ってきたのは小柄だが、でっぷりと太ったウシカエルの亜人だ。白衣を着てぐるぐる眼鏡をかけている。背後には女性看護師をふたり待機させていた。こちらはホルスタイン牛の亜人である。


「やーやー、こんばんは。わしはこの病院の院長を務めるメディコというものだ。アミスターさん、今日は災難でしたねぇ。検査は明日以降になりますが、まあ、堅苦しく考えずにまいりましょう。明後日は司祭の杖の皆さんを呼んで検証するのでよろくしね」


 メディコという人は気さくな人で軽い冗談で俺様の緊張を和らげてくれた。牛の看護師も俺様のために食事を用意している。お腹に優しいおかゆにきゅうりのピクルスを付け合わせていた。


「それはそうと先ほどディオスが出て行きましたね。あの男は何か言いませんでしたか? いいえ、顔をしかめているということはまた何か嫌味なことを言いましたね。まったくあの男はいつまでも子供のままだ。親が自分を守ってくれると勘違いしておるのですよ」


 メディコ院長は愚痴をこぼした。ふたりの看護師も同意している。なんでも司祭学校では傍若無人な態度を取っていたらしい。弱い者いじめが大好きで女子にもいたずらをしていたそうだ。その度にラモンの両親が平謝りしたのだが、ディオスはそれを勘違いした。

 自分は偉いから何をしても許されると思い込んだのだ。

 教団からは特に罰則はなく、ディオスは傲慢にふるまったという。

 

 ところが司祭学校を卒業したら親は庇ってくれなくなった。ディオスはイデアル先生の母親スーさんに怒鳴られていたという。ディオスは親に泣きついたが、お前が悪いといってスーさんの方を擁護した。もう両親は成人になった息子を突き放したのだ。

 親といると甘えるので離れた場所で医療行為の研修をさせたが、あまりに態度が悪く、患者を恫喝するので一時期、ナトゥラレサ大陸にあるアグア教団に預けられたそうだ。

 

 ああ、ナトゥラレサ大陸とはオルデン大陸より南に海を渡った大陸の事である。昔はアフリカと呼ばれていたそうだ。

 アグア教団はフエゴ教団から分かれた組織で、主に水に関係する事業を行っている。人間にとって水は重要だ。発電所に浄水場などを設置している。これはアマテラス皇国製の技術を使っているという。

 

 それでつい最近戻ってきたが、ディオスはもうこの世のものを憎んでいた。思い通りにならない生活に、自分より弱い人間がいないためストレス解消もできなかった。

 自分を薄汚い蛮族が住む未開地に送り込んだスーさんたちを恨んでいるという。ディオスはスペイン語で神という。自分が神だと勘違いしているのだ。中身は紙のようにぺらぺらなのに。

 

「あの男は君の検査には関わらせません。功績を挙げるのはいいのですが、どうも中身が伴っていないのですよ。どうも結果ばかりが先走り過程をすっ飛ばす癖があるのです。あいつはなるべく人と接しないように資料室へこもらせましょう」


 看護師たちはいい気味だと笑っていた。というか病院の暗部を始めて入院した患者に教えていいのか?

 たぶん、いいのだろう。メディコ院長を始めとした医者や看護師たちはディオスの扱いに難儀を示しているようだ。


「あいつはまだ若い。世間の厳しさに揉まれて、更生してくれればいいのですがね……」

「院長先生、それは天地が逆さになってもあり得ませんよ」

「そうそう、あの手の輩は死んでも治りませんからね」


 メディコ院長の言葉に看護師たちは呵々大笑いした。ディオスに対する扱いを見せつけられた気分だ。俺様は真っ黒で重苦しい大人の暗部を見せつけられたと思った。

題名は週刊少年マガジンに連載された真船一雄先生のスーパードクターKです。


メディコとはスペイン語で医者を意味するので、重複してますね。

ディオスはスペイン語で神といいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ