表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶  作者: クスクリ
1/36

親父のこと

 俺は親父をモデルにして小説『凶悪志願』を書いたが、小市民的だった性格をぶっ壊して、こうあって欲しかったという願望で破天荒なものにした。俺にとって親父は確かに育てて貰った恩はあるが、人生の反面教師だ。

 俺は小学校五年生のとき、交通事故にあって障害者になってしまった。そんな俺に親父はこう言った。

「お前は障害者になってしもうた。もう真面な仕事に就くことはできんやろ。ようできて体力の要らん事務職や。そいに、足が悪いということで将来誰かの助けば借りんといかんごたる困難なことにも直面するやろうや。そんときお前は弟たちば頼らないかんかもしれん。やから、今からは弟たちば大事にして仲良うしていかんといけんぞ」

 この親父の言葉、死ぬまで忘れない。俺の天邪鬼的性格を形成したのは正にこの言葉だったろうし、全ての俺の行動を呪縛した。意地でも事務職になりたくなかった俺は公務員、経理を毛嫌いした。といって、別に弟たちより頭が悪かった訳ではない。むしろ、切れる方ではなかっただろうか。

 俺は親父を恨んではいない。還暦を迎えた今、送るべくして送った人生だったと一応は納得している。国鉄職員だった親父の生き方を真似たのか、何故か、弟二人は公務員だ。対して、俺は一般企業人。大した会社ではなかったが、定年1年前まで何とか35年は働いた。日本人として生まれてきた責務は全うしたと思っている。

 弟たちとはやっと縁が切れた。俺は俺の家族三人で残りの人生を生きたいように生きていく。誰にも支配されない。収入は少ないが何とか飯は食えると思う。金の掛かる趣味も持たないし、美味い物を食いたいという欲もない。茅屋でもちゃんと住めれば文句はない。パソコンが使えればそれで良い。俺のライフワークは書くことだ。

 だから、俺は今、書いて書いて書き捲らねばならない。

 2009年4月、俺の一番恐れていたことが対馬に単身赴任している次男から齎された。昨日の夜、親父が入浴中に倒れたとのこと。身体が全く動かなくなったそうだ。そのまま救急車で運ばれて、今三男が病院に駆け付けて親父に付き添っているとのこと。詳しいことはまだ分からないのでまた連絡すると言って次男の電話は切れた。

 考えられる病名は脳梗塞か?下手したらこのまま死ぬまで寝たきりか半身不随だ。実はお袋も去年の年末、倒れて入院した。幸い、現在は回復しているが、CTスキャンでの検査では脳の委縮がみられるとのことだった。軽いアルツハイマー病の症状だが、間違いなく進行するだろう。


 正月帰郷したとき親父が、「お前たちには迷惑かけん。俺が元気な内は母さんの面倒は見るけん」と強気に語っていた矢先に、親父自身が倒れてしまった。

 人生思うようにはいかないものだ。親父は常々言っていた。

「俺は人に迷惑かけるような死に方はしとうない。畳の上ころっと死ぬんや」と。


 今年のゴールデンウイークは休みが短いので、今度の土日に帰郷するからと親父に伝えようと、会社から戻った9時頃実家に電話したら留守番電話になっていた。こんな時間に居ないなんておかしいなとは思っていたが…、まさか倒れて病院に担ぎ込まれていたとは。


 今日は眠れそうもない。次男とは連絡取り合える仲だが、三男とは折り合いが悪い。もう何年も会っていない。もちろん電話でさえ話したことがない。

 これから、実家には歩けない親父とアルツハイマー気味のお袋の二人住まい。放っておける筈がない。実家から離れて暮らす俺には切実な問題だ。兄弟で話し合う必要に迫られる。三男の存在に気が引ける。しかし、背に腹は代えられない。心せねば。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ