新たな出会い編2
今日は2月13日、明日は14日……去年のその日は今まで憎しみを向けていた人と共に過ごした、私にとってとても楽しかった思い出の一つだ。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう……その人はもうこの世にはいない。だからもう二度とあの人とあんな風に過ごすことはできない。仮に生きていたとしても、今の私にそんな資格はないだろうな……
あの日、ミナトさんや両親に真実を聞かされ、私は絶望した。あの人に二度と謝る事も二度と縋る事もできない現実に……自分のために憎しみを向けさせていたなんて、並大抵の人ではまず耐えられないだろう、それにプラス戦士としての重責と、多くの人に対する責任など……あの人を取り巻いていたものは、私なんかが到底把握しきれないものも当然あるはずだ。
そんな中、あの人は私を思って、私のバランスをとるために自らを捨てていた……それを知った時はただただ涙を流す事しかできなかった。その日からというもの、ホーリーヘヴンへ行くにも、道を通るだけでも、家に帰る時も、家にいる時もあの人のことを思い出してしまい、心がそれに奪われる。
違う……奪われてるんじゃない、私が作り出しているんだ……あの人と過ごしてきた日々を思い出す時間を……
「リュウイチ……さん……」
名前すら人前で言うことができない、私はそれほどの事をしてしまたったからだ。今更あの人の名前を口にするなんて、誰も許してくれないだろう……
一番の理由は私自身が許せないからという事もある。
でもお願いですリュウイチさん、せめて一人の時だけでもあなたの名を呼ばせて下さい。お願いします……!リュウ……イチ……さん……うっうぅ!!
なんでこんな事に……なんで?最初は本当にお兄ちゃんとして見ていた、凄い頼りになって、ぶっきらぼうだけど優しいお兄ちゃんとして接していた。でもいつの間にか私は……
サツキ先輩の恋人さんだから私、我慢できてたのに……ううん、それも自分に言い聞かせていただけ。サツキ先輩と不仲になりたくなかったから、だから私はそう思わないようにしていた。
でも……もう無理だよ……私……自分に嘘をつけない
私は……私は……リュウイチさんが好き!世界の誰よりも大好き!!
それなのに……もうその言葉すら伝えられない。初めから許されない事だと分かっていたけど、こんな事になるなら私……
「お姉ちゃん……どうすれば良い?私、これからどうしよう……??」
「…………」
病室のベッドで横たわる姉に声をかけるも、当然の如く返答は返ってこない。傷は完全に完治しており、傷口さえ残っていないのはイブキ先生曰く、強力な治癒術を何度も施されていた事によるものだろうと見解した。
……そう、それはリュウイチさんによるものだと誰もが予想している。一度だけ、お姉ちゃんの病室に行く前に病室のドアの隙間から光が見えた事があった。見間違えかと思って気にしなかったけど、病室へ入るとそこにはリュウイチさんが居た。その時はまだ気づかなかったけど、何かしてくれている事だけは分かったていた。声をかけても「何のことだ?」と返され、ろくに相手にしてくれなかった。
リュウイチさんは私に変わらぬ優しさを与えてくれていたのに、それに気づかなかった私はつくづく救いようのない馬鹿な女だと思う。
ごめんなさい、リュウイチさん。
そして私はリュウイチさんに謝る事もできない。許してくれなくてもいい、ただ一言だけでも謝罪の言葉を述べたい、そしてできれば感謝の言葉も……
"そんなものはいらない"と、きっと返事をするだろう。でもそれさえ聞く事もできない。もうこの世にいないのだから……
そう思うと再び涙が込み上げてきた、必死に抑えようとしてもそれは止まることを知らず、零れ落ちていく。
っ!?
ふと窓の外を見ると、そこには仮面をつけた男性が立ってこちらを見ていた。あの仮面……もしかして紅!?
私は窓のから飛び降り、男と対峙する。
相手は武器を構えるでもなく、また殺気を感じさせる事もなく私を一瞥すると、すぐにお姉ちゃんがいる病室の方へ顔を向けた。
なんなのこいつ、どうして……
「私はホーリーヘヴン所属ニシミヤよ、あなたは?なぜこの敷地にいるの?ここは関係者以外立ち入り禁止のはずよ」
「……」
私の質問に答えようともせず、仮面の男はただ黙っている。
「あなたは紅の一味?だったらこの場で捕縛する!」
「……」
くっ!
「答えろ!さもないと……!?ま、待て!」
「オレは、セツナだ」
仮面の男はそう一言呟き、時空間魔法を発動させ姿を消した。
一瞬で空間移動され、私はその場で立ち尽くす事しかできなかった。高レベルの時空間魔法使い……でも警報も鳴らなかったし、一体どういう事なの?
セツナ……仮面の男はそう名乗った。確か、サツキ先輩達が見かけたって言う紅の一人もセツナって名前だった。やっぱりあの人は紅の一味の可能性が高い。
「こちら三等粛正官アカリ・ニシミヤ、たった今紅と思われる人物がホーリーヘヴン敷地内に侵入し、すぐに空間移動し姿を消しました」
『こちらオペレーター、了解致しました。すぐに付近を捜索させます』
やっぱり異常は探知されてなかったみたい、どうして?もしかして、リュウガと何か関係しているのかな?だとしたらあの紅はリュウガと通じてる可能性が……!
私もすぐ捜索に行かなきゃ!!
ハイレベルな魔法だったけど、アンチシールドを張られている本部付近なら発動距離も減少するはず……レギュレーションを転移させたリュウガじゃない限り!
『アカリ隊員、不明の転移目撃情報が入りました、そこから南西の辺りの街中で現在警備隊により確保されています』
「了解しました、直ちに向かいます」
ーー
ーー
……あ、いたいた!
二、三分走った位置に先程の仮面の男……セツナを発見した。この人が本当にリュウガと関わりがあろうとなかろうと、捕縛しなければ!
「……」
「また会ったわね、あなたはリュウガと繋がっているんじゃない?素直に答えなさい」
「オレがそんな奴と通じてる訳ないっての」
「ならどうしてあそこに居たの?なんの目的であの場に居たのか答えなさい」
「……」
黙り……何か知られたくない事でもあるのかな?
「あなたは真っ直ぐ一室の窓を見ていた、その者と何か関係があるわけ??」
「……分からない」
え?
「なんとなくだ……気づいたらあの場に立ってた。それ以外はオレ自身も分からない」
「そ、そんなことを信じられるとでも思ってるの?とにかく、あなたを連行します。紅の一味の疑いがあるあなたをこのまま帰す訳にはいかないわ」
「もしオレが抵抗したら?こんな街中で戦闘するのがお前らのやり方なのかよ?警備隊の囲み方もガバガバだし、こんなんじゃ相手に逃げられちまうぜ?」
むっ!
でも、少し冷静になったら確かに包囲が甘いかも……連携が上手くできてない!
「悪いけど、オレは逃げさせてもらうぜ。帰りを待ってるやつがいるんでね……って、ん?」
??
「……あぁ、レッカか、どうした?……悪い、またなんとなく外出したくなっちまった」
っ!?
レッカ!?もう間違いない、この人は紅だ!
「警備隊!厳戒態勢!!これより紅を確保する!」
私は警備隊にそう命じながら突進し攻撃をしかけたが、サラリと避けられてしまった。
「一撃は重いみたいだがスピードが遅い。オレでも避けられるなんて、あんた大したこと無いな」
「な!なにぃ!?」
「これ以上暴れさせたら街が危ういな……もう少し力の使い方を制御した方が良いぜ、じゃあな」
くっ!逃げられる!
体勢を立て直しすぐに駆け出したけど間に合わず、私の拳は空を突いた。
「き、消えた!?すぐに付近の捜索に向かいます!」
「え、あ、はい、お願いします……!」
……
なんか、セツナっていう人の去り際に言った言葉……全然嫌味に聞こえなかった。と言うか、まるでサツキ先輩とかに注意されてるような、そんな感じがした。それほど歴戦を踏んでるって事なのかな?
でも紅にそんな事言われるなんて屈辱だ。
リュウイチさんを死に至らしめた紅の一味になめられてたまるか!もっと訓練して力のコントロールを上手くできるようにしなくちゃ!!




