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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜新たな出会い編〜
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新たな出会い編

西地区第31534ポイント……"16日の悪夢"と言われている、あたしを含めた多くの人に衝撃を与えたこの惨劇の場に再び足を踏み入れる事になるなんて……


「二人とも大丈夫か?顔色が悪いぞ」


カイ君があたしとみぃ姉の表情を伺いながら声をかけてきた。


「……当然と言えば当然か、俺にとっても気分のいい所じゃない……ここに住んでる人たちには悪いけどさ……」


カイ君はそう言うと、復興作業が行われている現場に目をやり声のトーンを落とす。

復興作業が行われている場から少し離れた所には平凡な街並みが見える。ここがりゅうくんたちの故郷だったんだね……


「あたしなら大丈夫……先を急ごう」


「私もよ。一刻も早く本家に行きましょう」


あたしとみぃ姉は淡々と答え、口ではなく足を動かした……少し前だったらりゅうくんにそうする様に注意されてたんだろうな


……


そんな些細な事さえ奪ったあいつらを絶対に許さない……!!



「……そうですね。しかしなぜマスターは今になってヤナミ家の調査をするに至ったんでしょう?」


「私がマスターに進言したのよ、リュウガについて何か手がかりがあるかもしれないって……それを言うのにかなりの時間が掛かってしまったけれど……」


「けど、それは俺たちの身を案じての事だったんだろう?リュウガが独断で行動したり、あんな物使ってまで消そうとした内容だ、それを知った俺たちを消しにかかるかもしれないからな」


「そういう事よ」と返事をしながらヘヴンに入隊して初のミッションに参加しているユリナちゃんがあたし達の前を歩いている。

ちなみにユリコちゃんはミナトちゃんの警護兼同居人としてりゅうくんのお家でお留守番している。


「……でも、あの人がいなくなった今、こちらもじっとしていられないと思った……もう一度訊くわ、この先はあなた達の身が危険にさらされることになる。それでも良いのね?」


「リュウガの野郎を叩きのめせるなら、そんなのどうって事無いね」


「僕も前に進むと決めました。危険は承知の上です!」


「私は兄さんの守りたかったものを守るだけよ」


「リュウガの話しを聞いた時から覚悟していた事よ、問題無いわ」


「あたしも」


そう、危険がどうのなんて関係無い。りゅうくんの仇をうつ!必ず!!


「……そう、分かったわ」


そう短く言って、ユリナちゃんが後ろ目であたし達の意思を確認する。多分今のあたしの気持ちも読みとったんだと思う、最後にあたしを見た時の目が一瞬細くなったのが見えたから……


「ここみたいね……時空間の歪みを強く感じる」


「その歪みってやつは時空間魔法を使える奴なら誰でも感じるのか?」


「多分無理でしょうね、それならとっくに誰かが気付いてるはずだし。おそらく私の場合は黒華の力……過去や未来の時間軸を見る事ができる能力と強力な魔力を有してるから、空間の歪みを強く感じるんだと思うわ」


「な、なるほど……」とユリナちゃんの説明を聞いたカイ君が少し困惑したように返答する……あたしもちょっと理解できないかも……


「要するに、人の記憶を見る事ができる過去視能力でその場にいると様々な記憶が交差したり、強力な魔力によって、人の何倍も敏感に魔力を感じとる事ができるって事よ」


ユマりんがそう説明してくれてようやく納得できた!なるほど、なんかこうザワザワってなる感じ……かな?


「(そうよ、理解できたみたいね)」


あぅ……


「少し離れていて、巻き込まれたら異次元に飛ばされて二度と帰ってこれなくなるわよ」


「さ、サラッと怖い事言うなよな……」


「フフ……じゃあ、調整を始めるわ」


ユリナちゃんはそう言うと、時空間魔法を発動させた。バチバチと空中に火花のような閃光が飛び散り、あたしたちは咄嗟に後退りする。


「くっ!アキトやここでの記憶を読みとったのに調整が難しい!ここまで微調整できるなんて!」


やっぱナルミ家ってすごいんだ……


「え、これはサツキの声!?」


「(どうして頭の中でサツキの声が?!)」


「えっ!?なんでみぃ姉の声が聞こえるの!?と言うかあたしの声も聞こえるの?!」


「ユリナよ。彼女が力の加減を調整しているから、偶発的に黒華の力で私たちの心が繋がっているんだわ」


「(つまり、今の僕たちはユリナさんの力で共鳴しているんですね!?朧月の渓谷の時や、リュウイチ隊長たちが心で会話していたように!)」


「それほど調整が難しいのね……ユリナ、頑張って!」


「(頑張れよ、ユリナ!!)」


「(ユリナちゃん、頑張れ!)」


「(お願い!)」


「(くっ!僕は応援する事しかできない……頑張って下さい、ユリナさん!)」


「(……フフ)」


??


「く、黒華の力で、こんなに素直な応援の言葉をくれたのはあなた達が初めてだわ。リュウイチもだけれど、や、やっぱりあなた達は変わってるわね……

その気持ちに応えてみせる!!」


バチバチ!!


ゴゴゴゴ!


「はっああああ!!」


ユリナちゃんが開けた空間の裂け目から家にあるみたいなインターホンのようなものが見えてきた。


もうちょっと!!


「(くっうぅ!!はあああ!!)」


更に気合いを入れるユリナちゃん、すると辺りが一変して大きな家の玄関が出現した。


「ハア……!ハア……!ハア……!で、できたわ……!」


「お疲れ様、ユリナちゃん。頑張ってくれてありがとう……ゆっくり休んでてね」


カイ君とキラ君に介抱されながらユリナちゃんは後方へまわった。本家であろう建物の前に立ち、あたしとみぃ姉とユマりんが辺りの様子をうかがう。


「これ、インターホンだよね?押してみようか?」


「押してどうするつもり?」


「そりゃあ、先ずりゅうくんの恋人のサツキですって自己紹介からしてから……」


「あんたは下がってなさい」


ぶー……


みぃ姉があたしを押しのけインターホンを押すと、ピンポンとごく普通の音が鳴り響く。そしてすぐにインターホンの向こうから声が聞こえてきた。


「はい……ミツキ様、それにサツキ様達でございますね。アキトから話は聞いております。今鍵を開けますので、少々お待ちください」


誰だろう、聞いた事無い人の声だけど、あたしのことを知っているみたい……それにアキトから話は聞いてるって、一体いつそんな話を??


ガチャンっ!


そう考えていると、まもなく玄関の方から鍵の開く物音が聞こえた。少し警戒しながらも、玄関らしき前へと集まるあたしたち一行……


ガラガラ


「ようこそいらっしゃいました。私、リュウイチ様の許嫁でこちらのナルミ家でお世話になっておりますカオリと申します、宜しくお願い致します……」


「へえー!あいつ許嫁もいたのか!一回も聞いた事なかったなぁ!…………え、許嫁……?いいなずけ!??」


「初めまして、とりあえず自己紹介しておくわ、私は兄さんの"妻"のユマリよ」


わーユマりんすごい弾けっぷりだなぁ……ってちょっとぉ!なに自然に正妻名乗ってんのさ!


「ぼ、僕はリュウイチ隊長の友人のキラです、こちらはカイさんで、ここの時空間の歪みを調整してくれたのがこちらのユリナさんです。宜しくお願い致します」


「こちらこそ!うふふ、お噂通りの面白いお方たちですね、リュウイチ様から何度もお話をお聞きした事が御座いますのよ。さあ、立ち話も何ですから、どうぞお入り下さい。お爺様もお待ちしておりますわ」


お、お爺様って……現ナルミ家当主の?どんな人なんだろう、ちょっと緊張してきたかも……

あたしたちはカオリちゃんに快く迎えられ中へと誘われた。


中はとっても広く、下手をすれば迷子になりそうなくらい大きい家だ。本家の入口はカオリちゃんが元に戻し再び時空の狭間に戻ったようだ。


黒華のユリナちゃんがあそこまで苦戦したのに、直す時は何も無かったようにぱっと直していた。カオリちゃんって一体何者なんだろう……?


「お爺様、リュウイチ様のお仲間の方々が参られました」


「入りなさい……」


和風って言うのかな?りゅうくんの家にも有った障子って言う扉を開けると、そこにはお爺さんって言うにはまだ少し若そうな男の人が部屋の奥に座っていた。

さすがりゅうくんのお祖父さん、目付きが彼に似てる……


「我が孫のリュウイチが世話になっていた様で、感謝致す。私が現ナルミ家当主のナルミ・セナミです……そこにおられるのはヤナミ家のお方ですな?」


「……初めまして、わたくしユリナ・ヤナミと申します……あ、こちらではヤナミ・ユリナと申し上げた方が宜しいでしょうか?」


ん?


「(ナルミ家では名前を逆に名乗るのが普通なのよ。例えばあなただったらアサギリ・サツキ、という感じにね)」


へぇ……


「構いませんよ、慣れている方でどうぞ……しかしさすがはヤナミ家の方、よくぞあの入口を解く事ができましたね。下手をすればご自身が異空間へ飛ばされていたかもしれないと言うのに」


「そ、そんな危険な行為だったのかよ!?悪いなユリナ、お前に全部任せっきりになっちまって……」


「良いのよ。それより強引に結界を解いてしまい申し訳御座いませんでした。そうする他方法が無かったものですから……」


「どうぞお顔をお上げください、頭を下げるのはむしろ我らの方だ。一部の者が犯したこととは言え、ナルミ家がヤナミ家を壊滅に追い込んでしまい、申し訳御座いませぬ……そして謝罪がおくれてしまったことを重ねてお詫びいたします」


……悪い人ではなさそう、この人もまた、りゅうくんの様にリュウガの心無い行動に胸を痛めていたみたいだ。それにやっぱりどことなくりゅうくんと同じ雰囲気を感じる。彼もこの人くらいになったらこうなるんだろうか?いや、りゅうくんの方がもっとダンディな感じになるね絶対……


……って、言ったらりゅうくんなんて言ってくるかな?


「その事でナルミ家を責めるつもりは毛頭ありません。むしろリュウイチ殿と巡り会えて私たち姉妹は救われもしました。ナルミ家に感謝こそすれ憎んでなどおりません……そんなリュウイチ殿を救えず、こちらこそ重ねて深くお詫び致します」


……


「……くっ!ガードである俺たちの失態だ、どうぞ俺を煮るなり焼くなり好きにしてください!」


「その事はどうかお気になさらず……あのリュウイチが自分を顧みず守ったあなた方に責を負わせようなどと微塵も思ってはおりません。あやつが決めた事です、きっと意味があったのでしょう」


りゅうくん……

込み上げる涙を抑え、あたしは当主様に声をかけた。


「あ、あの……あたし達が今日ここへ来たのは!」


「存じています、ヤナミ家が関わったとされる施設の場所について調査しに来たのでしょう?あなた方の仕事を横取りしたようで申し訳ないのですが、その事についてこちらで先に調査させて頂きました」


え?なんでそんな事知ってんの!?このお爺さんホント何者……??


「な、何故そこまでご存知なんですか?」


うわ、キラ君直球だ


「それは私がセナミ殿に情報提供したからだ」


嫌悪感が胸の底からゾクゾクと駆け上がってくる感覚がしてその聞き覚えのある声がする方に目をやると、カオリちゃんと……思った通り、レッカの姿があった!


「な、なんであんたがこんな所にいるんだ!」


「気持ちは分かるけど、少し落ち着きなさいサツキ。あなた達も……」


そうあたしをなだめながら、みぃ姉たちの方を見るユリナちゃん。レッカに憎しみを向けてるのはあたしだけじゃなかったんだ、みぃ姉たちも鋭い形相でレッカを睨みつけている。


「……情報を提供したって、どういう事だよ?」


カイ君がレッカにそう睨みつけながら問いかける。

なんでこいつがこんな所にいて、なんでこいつがそんな事をお爺様に言ったのか、分からない事ばかりだけどとりあえずおとなしく話しを聞こう……先ずはそれからだ。


「私たち紅もリュウガについて調査しているんだ、その過程でヤナミ家が何か情報を握っているとたどり着いた。そして紅を匿って頂いているセナミ殿にそれについて私から進言したのだ」


「じゃな何故あなた達がここを拠点としているの?兄さんの本家で……不愉快よ」


「……」


ユマりんがそう問いかけると、レッカは口を閉ざし答えようとしない。なんで??


「答えなさい」


「どうか気をお鎮めください、かの者達を保護したのは某の判断なのです」


!?

お爺様の判断!?


「以前の騒乱で傷つき仲間たちとはぐれた紅の方たちを我らナルミ家が保護したのです。その折にレッカ殿と巡り会い、以降はここへ多くの紅を受け入れる事に致しました」


「でも!紅は今では拘束命令が発令されています!それを知っていて匿っているのならあなた方まで……!」


「承知の上です」


……


「そんな……そうだと分かっていてどうしてなんですか?」


「……放っておけなかったから、ですよね?」


「サツキ?」


「りゅうくんならもしかしたらそう言うかなって思って……りゅうくんは最後まで紅を敵視してなかった。だから、自分たちの敵ではない人たちが目の前で傷ついて倒れていたら手を差し伸べる……りゅうくんならそうしたんじゃないかな?」


そうだよね?りゅうくん??


「……確かに彼がやりそうな事ね。そんな彼を御教育なさったお爺様がそうなさったなら、納得できちゃう」


みぃ姉……


「左様、自身の敵ではない者を憎むことなかれ……某が子供たちに伝えて来た言葉です」


「セナミ殿、ご好意には今でも感謝しております。しかし、やはり私たちはここを出るべきです。これ以上あなた方を巻き込む訳にはいかない。遅くても明日までにここを出て他の地へ移りゆきます、偉大なるナルミ家に傷をつけたくはない……」


「良いのです、裁きは受け入れる所存です。リュウイチの信じた紅の方々は我らの敵ではない、そうである事を某も信じたい」


りゅうくんとお爺様、やっぱ硬い絆で結ばれてるんだね。


あたしも信じたいけど、紅はりゅうくんを……だからあたしは難しい……難しいよ、りゅうくん



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