一つの物語〜絆編3〜(挿絵あり)
「私は……ずっとあなたの……」
懐かしい声…その声に安らぎを感じる…それと同時に、深く重い気持ちになる。
矛盾した気持ちに戸惑いを隠せない…自然とその声の主に手を伸ばしたが…その声はどんどん遠くなっていく
そして別の気配が近寄ってくるのを感じた。その気配はしばらく動かず、やがて…
「…私はずっと…あなたを守るから」
今度は別の声がした…
「必ず守るから…」
とても近くで聞こえる声…聞き慣れた声…優しさがこもった声…そうか…今日も…
「……起…さ…い…リ…チ…さ…よ」
んん……
「朝よ、起きなさいリュウイチっ」
窓から眩しい光が差し込み、目が眩む
…またアイツの夢か…
「…ああ…起きてるよ…」
もう何度聞いたか分からないくらいの声の主に僕は相槌をうつ
「そういう事はちゃんと起き上がってから言いなさい、じゃないと全部寝言ととらえるわよ」
みぃ姉が僕の顔を覗きこんで、朝から厳しめの言葉を返してくる…やれやれ、妥協を許さない奴だ…僕は眠いと訴えかけてるように重い身体を起こし、再びみぃ姉に声をかける
「これで良いだろ…?ちゃんと起きてるよ…」
「よろしい…おはようリュウイチ」
優しさに満ちた微笑みを浮かべて、みぃ姉は僕を見つめる…いつもその顔をしてれば誰も文句は言わないと思うんだがな…それに、良い相手も見つかるだろうに
「…なに?挨拶の他になにか言いたい事でもあるのかしら?」
僕のみぃ姉を見る目が僕の思っている事を代弁したらしい…不穏な空気を感じたみぃ姉が不機嫌な顔に変貌した
「なにも…ただその気持ちを他の男に向けてみたら良いんじゃないかと思ってただけだ…別に文句を言いたいわけじゃ…」
「言ってるじゃないっ…包み隠さずしっかりした発言を発してるわよ」
僕が話してる途中で…僕の頬をつねりながら…僕の助言を否定するように睨みつけてくる…
「…はなへ…ひはい…」
みぃ姉が僕の悲痛を聞いて手を放す…あぁ痛い
「まったく、朝からケンカ売らないでよね」
「まったく、朝から大切な助言を否定しないでく…」
「まだ言うの?」
再び睨みの効いた顔を近づけてきた…これ以上はやめておくか
「…なんでもない」
僕は目をそらしベットの外に足を出しながら返答する。みぃ姉は腕組みしてをして僕を見下ろす
「最初から妄言なんて吐かなければ良いのよ、そしたらもっと気持ちの良い朝を迎えられるわよ」
一見良い事を言ってるようだが、人の助言を妄言と一蹴するのはどうなんだろうな?ん?ミツキさん?
「リュウイチ…お返事は…?」
ここは素直に話を合わせておくべきだろう、じゃないと惨事になりかねん…
「はいはい…」
「…はぁ…それより、今日は休みでしょ?何か用事でもある?無いなら…その…」
小さくため息をついた後、少々頬を赤らめながらもごもごとするみぃ姉…なんだ?
「デートのお誘い?」
「ち、違うわよ!!」
即答した
「た、ただ!…予定が無いなら…その…久しぶりに…一緒に出かけない…かって言おうと…」
やっぱりデートのお誘いじゃないか…
「…反応と言ってる事が矛盾してる様な気がするんだが?」
「そ、それは…その……」
再びまごまごし始めるみぃ姉…せっかくの可愛らしさをむげにして悪いが、ここは素直に言っておくべきだな
「悪いな、今日は予定があるんだ」
「だれかとデート!?」
反応はや…
「違う、今日はミナトにクレープ作って一緒にゲームしてやる約束なんだ」
「…シスコン」
は?ケンカ売ってるのか?シスコンならもっとデレデレしてるはずだろ、僕がそんな奴と同じに見えるって言うのかええっ?
「まあ良いわ…じゃあ私も一緒にクレープ食べてあげる。審査委員増員よ」
審査委員と称しているが、ただの図々しい幼馴染じゃないか…さすがアサギリ家、姉妹揃って似た様な性格してやがる。しかも"じゃあ"ってなんだよ"じゃあ"って
「…兄妹だからって可能性が無い訳じゃないしね…」
…?
「なんか言ったか?」
「べ、別に!ねえ、良いでしょ?お願いっ」
手を合わせて懇願してくるみぃ姉…兄妹なんだから心配する必要もないだろうに…
「…まあ良い、材料足りるか分からんが、無くても嘆くなよ」
「ありがとうリュウイチ!じゃあちょっと着替えて来るわね!あんたも早く着替えなさ…って、わわ、きゃあー!」
バタバタ!
…ドン!
…明るく返事をしながら出て行ったみぃ姉が、階段から落ちたみたいだ…
着替えるか…
「ミナト、どんなクレープを食べたいんだ?」
「チョコレートバナナパフェが食べたいです!」
はいよ、あ……
「ついでにみぃ姉はどんなクレープが食べたいんだ?」
「なんでついで扱いなのよ!私もミナトちゃんと同じで良いわ」
フン……素直でよろしい
「ミツキお姉さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だいじょうぶ……ちょっと転げ落ちただけだから……」
リビングでくつろいでる二人が他愛のない会話をしてる間、僕はクレープの生地を焼き始める。
ちなみにユキタカはニシミヤとデートに行ったようだ、昨日の夜から浮かれ顔をしてニシミヤと電話をしていたのを目撃したので間違いないだろう。
ふ……まさか初デートなのにうちに連れて来るなんていう事はないだ…
ピピピ……ピピピ……
そう思っていた突如、SPDが鳴り出した…嫌な予感がする
「お兄ちゃん、SPDが鳴ってますよ」
ミナトが机の上に置いてあったSPDを手に取って見せてくる
「誰からだ……?」
「えっと……ユキタカお兄さんです!」
「切って良いぞ」
「はい!」
ピッ!
「え、切るの?て言うか切るんだ……」
みぃ姉が一連の流れを見て呟く…あのアホにこれ以上付き合ってられるか
ピピピ……!ピピピ……!
再びSPDが鳴る……
「お兄ちゃん、SPDが鳴ってますよ」
ミナトが再び僕のSPDを手にとって見せてくる
「誰からだ?」
「ユキタカお兄さんです!」
「切ってい…」
「で、出てあげなさいっ?」
みぃ姉が慌ててミナトの手からSPDを取り上げる……ち、仕方ない……あの様子じゃ何度もかけて来そうだしな。
「みぃ姉、出て良いぞ」
「はいはい……リュウイチのSPDよ、どうしたの?ユキタカ」
『リュウ兄!何で切るんだよ!?』
みぃ姉がこちらに向かって歩きながらSPDを出ると、やかましい奴のやかましい叫びが聞こえた。
…みぃ姉が台所まで来て、改めて浮かんでるスクリーンを見ると、困惑と怒りを兼ね備えた顔が見えた。
「今甘くて美味しいクレープ作ってるんだよ、お前こそ何で連絡してくるんだよ。デート中だろ」
クリームをかき混ぜながら、僕はユキタカの疑問に答えてやる。
『そ、そうなんだけどさ…実はちょっと事情があって……しばらく家に居るか?』
また……厄介ごとか?
「残念ながら居るな……なんだ?」
バナナを包丁で滑らかに切りながら再びユキタカの疑問形に答えてやる。
『よ、良かった、じゃあ今からそっちに向かうから……!』
ピッ
「切れちゃった……」
唐突に切れたSPDを唖然として見るみぃ姉がそう呟く……僕は切れたことより、こちらに来るという言葉がひっかかっていた。
こっちに来る……?何しに行く来るんだよ……これからミナトたちとクレープ食べてゲームするのに一体なんの用だ?
「はぁ……なんか面倒な事になりそうな予感がする……」
「あ、ははは……」
僕の呆れ口調に、みぃ姉は愛想笑いをする…笑える話なら良いけどな
「美味しいです!お兄ちゃん!ミナトは幸せです!」
「本当、美味しい……!リュウイチは本当に料理も上手ね」
二人の素直な感想を聞いて満足しながら後片付けをする、これだけなら良いのに…これからユキタカ達が来るんだよな…
「た、ただいまー……」
そう思った時、玄関の方からユキタカの声がした。
「お、おじゃします……」
これはニシミヤの声だな
「おじゃましまーす!!」
……誰だ?
聞き覚えのない声を聞いて、玄関方面からリビングへ来るユキタカ達の気配に顔を向けた。
リビングの入り口に現れたのは、ユキタカ、ニシミヤ、そしてもう一人見知らぬ女の子がいた
「っ!!」
ミナトがみぃ姉の後ろに隠れる、それもそのはずミナトは極度の人見知りなんだからな
「こんにちは皆さん!初めまして、私はアカリ、アカリ・ニシミヤです!♪」
「あ、あの……突然すみません……妹のアカリです……」
おずおずとするニシミヤと対極的に明るく自己紹介をするニシミヤの妹……と名乗るアカリという人物。
なんか誰かと似たような気配を感じるんだが……
「……なんだ、この状況は?なんでニシミヤとニシミヤの妹がここに来てるんだ?」
僕はそう言いながらユキタカに目を向ける。その目はおそらく鋭かっただろう、鋭くしたからな。
「あー、アカリちゃんはヘヴンの隊員候補生で、サツキ姉に憧れてるんだそうだ……」
だからってなんでここに来るんだよ
「サツキに……?」
「あ!もしかしてあなたがミツキお姉さんですか!?」
驚くみぃ姉にキラキラした目で近寄るニシミヤの妹、それと同時にミナトが慌てて僕の後ろに駆け寄ってきた。そうだよな、サツキと似たような奴がズケズケと来たらそれは驚くよな。
「え、ええ……初めまして……えっと……アカリちゃん?」
「アカリです!初めまして!噂通り綺麗な方ですねぇ!!お姉ちゃんも美人だけど、ミツキお姉さんはサツキ先輩の次に綺麗です!!♪」
なんか言ってるぞ……あいつは美人と言うか、可愛いの部類じゃないか?みぃ姉と同じで顔が整ってるのは認めるが……
タジタジと挨拶するみぃ姉の手を握り、どことなくサツキと似た勢いで明るく挨拶をするニシミヤの妹……妹ねぇ……そう思いながら僕はニシミヤとニシミヤの妹を見比べる。
「あ、アカリ!あの……ごめんなさい……ミナト……さんも、驚かしてしまって」
僕の視線に気づいたニシミヤがニシミヤ妹に注意をうながし、謝罪の言葉をのべる。
「えへへ、すいませんミナトさん、驚かせてしまって……」
そう言いながらミナトに顔を向けるニシミヤの妹……その途中で僕と顔が合い、途中で言葉を止めた。
「……」
「……なんだ?」
黙ったままスタスタとこちらへ歩いてくると、ミナトが後ろでビクッとする。ニシミヤの妹はそれに気づいていないのか、歩みをやめない……と、僕の目の前に立ち僕の顔を覗き込むように見る……
「……もしかして、サツキ先輩の恋人のりゅういちさん…ですかぁ?」
そう言われた瞬間、僕は一瞬眉をひそめた
「こ、恋人じゃないわよ!!」
みぃ姉が即全否定する
「でもサツキ先輩からはよく、りゅういちお兄ちゃんは自分の恋人だってお話を聞いてますよ?♪」
なるほど、あいつが凄まじい勘違いをしてるのがよく分かった。そして、いらん知恵を植え付けているのもよく分かった。
「あれぇ?そう言えばサツキ先輩がミツキお姉さんと付き合ってるような事も言ってたような……」
「え……?」
ニシミヤ妹の言葉を聞いて、みぃ姉が明らかに嬉しそうに微笑む……おいコラ
「りゅういちお兄ちゃん、どっちとお付き合いしてるんですか!?」
「僕はどっちとも付き合ってない、それになんだ"リュウイチお兄ちゃん"って」
僕に整った顔の頬を膨れさせて更に近づけてくる……確かにニシミヤと似てるところもあるかもな、少々幼さも感じるが……
「むっ!今変な事考えませんでしたか?!」
……鋭い
「……そんなに顔を近づけてくるんだ、よく見てくださいと言ってるようなものだろ?だからそこにいるニシミヤと少し似てるなと思っただけだ」
「むぅ……じゃあ、どちらとお付き合いしてるんですか?!」
……話聞いてたぁ……?
「だから、誰とも付き合ってない。君……アカリちゃんがサツキに変な事吹き込まれだけだ」
と、そう言った時アカリ……ちゃんの表情が変わった。
「サツキ先輩を悪く言うの禁止!!」
あぁ、そうかこいつはサツキを盲目的に信仰してるわけか、これは大問題だ……
「分かったぁ!?リュウイチお兄ちゃん!」
誰がリュウイチお兄ちゃんだ
「あいつが変な事言わない限りな。それとなんだその呼び方は」
「ユキタカお兄ちゃんとお姉ちゃんが付き合ってるって事は、りゅういちお兄ちゃんもお兄ちゃんって事じゃないですか!♪」
意味の分かるような分からない理屈を言ってくるアカリちゃん……面倒なのがまた増えた…