邂逅・サツキ編
16日の悪夢。それは多くの人にとって正に悪夢のように思える日だった。もちろんあたし自身もみぃ姉たちも深く傷つきショックを受けた……ううん、今でさえもまだその時の傷は治っていない。
そんなあたしは今に至るまで紅とイレギュラー達を粛正する為に戦っている。りゅうくんとの約束だから紅は始末せず拘束し逮捕することをなるべく行っている……当然だけど、りゅうくんを死なせたのは紅の一派が原因でもある。だから本来、りゅうくんとの約束がなければ、紅たちもまとめて粛正しているところだ……!
でも愛する人が遺した意志を尊重するため、戦闘不能になるまで追い込み粛正まではしない。
ある意味、粛正されるより苦しむ事になるかもね。対象を徹底的に痛めつけ、死なない程度に痛みを与えているんだから。
そんなあたしとみぃ姉を[戦慄のデビル]と呼ばれ恐れられるようになっていた。まあ、みぃ姉はあたしほど積極的にミッションには参加してないんだけど、紅と思わしき集団が現れたと報告されるミッションには、積極的に参加して、人が変わったようにあたしより復讐の鬼と化しているらしい。
りゅうくんはきっとあたし達のやっている事を良しとはしないと思う……けど、あたしは決めたんだ。りゅうくんのかたきを必ずとると……
そして、あたしとみぃ姉は現在、この付近で武装集団とイレギュラーの報告を受け、現場へ赴いている。
「レベル8のイレギュラー……これほど高レベルならリュウガ達と関係しているかもしれない。一体どこに……あっ!」
視界の悪い雷雨の中から複数の人のような姿が見えてきた……あのたたずまいと見覚えのあるロングヘア、あの人物は……あいつは!?
「あんたはレッカ!?なんであんたがここにいんの!?あの時お前はりゅうくんと共に消滅したはず!なんでなの!?」
「……お前たちか、悪いが今はお前たちと遊んでいる暇はない。そんな事よりイレギュラーを討伐しなくては」
そんな事……!?こいつ、ホントに一々頭にくる!!
「顔が怖いぞ、確かにお前たちにとって私たちは疎まれてもおかしくはないだろうが、今はそこにいるイレギュラーの粛正を優先するべきではないか?」
「……確かにかなりハイレベルのイレギュラーだけど……でも!でも!!あんたたちと共闘するなんて事できない!あんたたちこそ手をひけ!このイレギュラーはあたしが粛正する!そしてあんたらを捕らえる!」
許さない、絶対に許さない!あいつらのせいでりゅうくんは!!
「サツキ!闇雲に攻撃してはダメよ!あなたはイレギュラーの粛正を優先させなさい、私は紅たちの相手をするわ」
「でも!」
「あなたは格闘で、レッカは剣術なんだから分が悪いのは当たり前でしょう!サツキ、あなたの実力は知ってるけど、今は堪えて!」
くっ……!
「了解……気をつけてね、みぃ姉」
みぃ姉の言う事は最もだ、今レッカと戦ったら確実に憎しみであいつを殺してしまうかもしれない……
とにかくあたしはなんとか自制し、イレギュラーの方へ向き直った。
「あの方の崇高なる理念を理解出来ぬ愚か者共め、リュウガ様に代わってこの俺が貴様らを沈めてやろう!!来い!」
やっぱりこいつもリュウガの手先なんだ!だとしたらリュウガの因子が……でもなんでレッカたちが?
「ダイ、お前もイレギュラーの討伐に向かえ、ミツキは私が相手をする」
「承知!うらいくぞ!!イレギュラーめ!!」
ホントに暑苦しいやつ……鬱陶しくてしかたない……!あたしはこいつとは一切手を組まない、あたし一人であのイレギュラーを粛正するんだ!
見ててね、りゅうくん!
「はああああ!!」
あたしはイレギュラーにパンチを打ち込むと、それと同時にイレギュラーがシールドを張り、攻撃を塞がれた。
でもそんなんであたしの攻撃を防ぐ事はできない!もっと強力なシールドを張れる人を知ってるもん。
「とっしんじゃぁぁ!!」
「くっ!なかなかの剛力達だがこのシールドは破れはしない!」
「本当に?」
「なに!?」
ダイに気を取られている間にあたしは素早くイレギュラーの背後に周り、力を込めて拳を握る。
そしてそのまま、裏拳で打つように敵の後頭部目掛けて攻撃をしかけた。
シールドが砕けたのを感じると、あたしはイレギュラーがこちらに体を向けて来たのを確認し、即攻で再び後頭部を狙って拳を振った……はずなのに
攻撃が当たる直前簡易転移して攻撃を躱した、時空間魔法だ。
「おしかったな、お前たちの攻撃は当たらぬぞ、悔しいか?ん?はっはっはっは!!」
"相手に翻弄されるな、いつでも周りを認識し、次の手に備えるんだ"
りゅうくん……
そうだよね、感情をむき出しにしたまま行動するのは愚かな選択だよね。
冷静になって行動し且つ時間をかけないように、相手をよく見て、僅かな一瞬で自分のステージに換える。
……ここだ!
あたしはある一瞬の隙をついて攻撃を繰り出し、その攻撃は確実に奴の急所に命中させた。
「ぐあっ!!な、なぜ攻撃が通る!」
「あんたはあたしたちの攻撃をシールドで防いでいた、でもそれは自分の視界に入ったもの視認してから発動させてたよね。空間転移も発動させるには多少の時間がかかるし移動距離も短い、だったらこうすればいい。あんたの視界から消えてエネルギーをチャージしておき、一瞬にかけてここぞと言う時に一発で相手を仕留める……これ、みんなりゅうくんから教わったものだよ!」
「あ、あのゴミめ余計な事を……!」
ゴミ……?
それを聞いた瞬間、あたしは無意識にイレギュラーに駆け寄り、相手の頭部目掛けて蹴りを入れていた。
そんなイレギュラーの頭部は人体から離れ、頭部と繋がっていた部分から鮮血が飛び散っている。
しかしあたしはそんな事構わず、回し蹴りで残った人体を吹き飛ばした……あんたが悪いんだよ?あたしのりゅうくんをバカにしたお前が!!
「サツキ!……もうやめなさい、粛正は終わったのよ。これ以上は私たちがしてはいけない事……あなたはイレギュラーじゃない、ホーリーヘヴンの隊員なんだから」
いつの間にかあたしの背後に来ていたユマりんが制止してきた……いつここに駆けつけて来たんだろう?
「ユマりん……だってあいつが……!」
「ええ、私も聞いていたわ。私だって兄さんを侮辱した事は許せない、でもここまでよ……」
……あんな奴が生きてるのに、どうしてりゅうくんが……
あたしはやるせない気持ちに陥り、ユマりんにしがみつくように抱きつく……そんなあたしをユマりんは優しく抱きしめ返してくれた。
「イレギュラーは討たれたか……ここにはもう用はない、悪いが退散させてもらうぞ、ミツキ」
「……あなた達には捕縛命令とイレギュラー疑惑が出てる。でも捕縛する前に聞いておきたいの、なぜあの時あなた達が恨むべきイレギュラーと共闘していたの?」
みぃ姉……?
「……言い訳になる事を予め言っておく、それを想定した状態で聞いてくれ……あの時リュウガ達との締結を決断したのはゼンの独断だ。私たちは半ば無理矢理奴の指示に従っていた。そしてゼン亡き今は私が紅を統括している。そんな私達の理念にはもうリュウガ達との協定は無い、お前たちと同じく私たちもリュウガと戦うと決意している、今度は私だけではなく、他の紅の者たちも同じ気持ちだ。……だから」
「だから?!だからあんたらと共闘しろって!?りゅうくんをあんな目にあわせたくせに!!馴れ馴れしいこと言わないでよ!」
溢れ出す涙をそのままに、あたしはレッカに怒号を浴びせた。りゅうくんを奪い取ったその張本人の一人であるレッカの言葉にあたしは虫唾が走る程の怒りに染まってる。あいつの言うことなんて信じられない!信じられる訳がない!!
「最もな意見だ……あの時の事は深く謝罪する……本当にすまなかった。私がどう思われようが甘んじてそれを受け入れよう。しかしこれだけは覚えておいてもらいたい、私達は二度とイレギュラーとは手を組まないし、それは皆同じ気持ちだ。そしてあの巨大兵器の討伐も視野に入れている、あんなものがある以上、人々は安心して暮らすことができなくなる。だからここは紅とホーリーヘヴンが締結を新たに結んでレギュレーションを破壊しよう……お前達の手を借りたい。頼む……」
……差し出して来たレッカの手をまるで汚いものをみるような目で凝視する。りゅうくんが逃げ遅れた要因を作ったレッカ、許すつもりも共闘するつもりもない。あたしは答えることなく、じっとレッカを睨みつける。
「……今はその時ではないようだ、日を改めてまた同じ事を訊かさせてもらう、それまでさらばだ……またな」
「ま、待ちなさいよ!あんたには捕縛命令がでてるんだから、そう簡単に帰さないよ!!」
空間魔法?また転移するつもりだ!そうは行かない!
『ヤッホー!皆元気だった?』
……この声は!?ミソラ?!
『リュウイチ君がいなくなって6ヶ月くらいだっけ?大丈夫?ミツキとサツキやユマリも相当落ち込んでるようだけど……』
「レギュレーション!?あの巨大兵器がこんどはこんなとこに!いったいどこで管理されてんのよ!!」
『ふふ、久しぶりだね!実はあの時受けたリュウイチ君の攻撃が思っていたよりかなり重症だったの、発射口付近に大ダメージを受けて、それを修理するのにかなり手こずったのよねぇ』
よく見ると主砲付近が以前とは形が違う、まさかバージョンアップされたの?……でも!
「だから何?そんなもんあたし達が粛正する!このまま野放しにさせない!」
……!?
レギュレーションは複数の発射口からエネルギー弾が形成され、それが今にも発射されようとしている
それでも、それでも!
「何とかしなきゃ!なるべく多くの発射口を破壊しよう!突風弾!!」
「はあ!!……くっ!私たちの攻撃じゃビクともしない!リュウイチはあんなのに損傷を与えたの!?」
どうしよう……りゅうくん、どうしたらいい?!
「ダメ、間に合わない……!」
『時間切れ!さあ、お別れよ。死になさい★』
このままじゃ、本当にみんな消されてしまう!
「あはは!それじゃあバイバイ、はっしゃ!★」
もうダメ!
……
……
……
……?
あれ?どうして……っ?!
不思議に思い天を見上げると、レギュレーションの一部が黒煙と炎があがっている。
でもなんで……?
『くっ、メインシステムが低下していく!なんなの!あの男!』
「あれは……セツナか!?あいつまた無理を……」
「セツナ……?」
仮面をつけている長髪の人を見てレッカはそう呼んだ、という事はあの人も紅?
『このっ!死に損ないども!!』
「(やめておきなミソラ、レギュレーションがあれ程のダメージを受けるくらいだ、ここで追撃されて破壊でもされたら勿体ないよ)」
この声は!リュウガ!?
「(フフ、君たち運が良かったね。近い内にまた会おう……それとミソラ、今後は不用意にレギュレーションを持ち出したらダメだよ)」
『も、申し訳ございません!』
二人の会話がしなくなると同時にレギュレーションも姿を消していた……また空間魔法を使ったんだ。
でも今回は助かったかも、あのままじゃホントにあたし達は消されていたかもしれない……
「……あ、あれ?さっきの人と紅は!?」
「あいつらも転移したみたいね、迂闊だったわ……」
「悔しいけど、さっきの紅らしき人に助けられたわね。でも今度会う時は必ず捕縛する……こちらミツキ、イレギュラーの粛正を完了。紅はーー……」
レギュレーションはパワーアップされていた、それなのにあの兵器を止める事ができるなんて……かなり手強い相手になりそう……でもあたしは負けない、りゅうくんの敵を討つまでは!!
私の魂を解放してくれた貴方は今何処にいるの?
往くべき道も分からないまま、私とユリコはこのままどうなるのだろう?
不安に押しつぶされそう、貴方が居なくなった今、私たちが望むものはただ一つ……
リュウイチ、貴方の温もり……
次回、一つの物語〜邂逅・ユリナ編〜
私たち姉妹の心から離れていかないで……リュウイチ
次回掲載予定日 1月8日




