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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜悪夢編〜
86/112

悪夢・ミナト編

ーー数分前ーー



「う〜〜ん……どの花がトモカさんにお似合いでしょうか……こっち?いや、それともこっちでしょうか……?」


「お客様、お見舞いのお花でしたらフラワーアレンジメントのこちらはいかがでしょうか?」


「ひぇっ!?」


突然声をかけられたので驚いてしまった……えっと、どうしましょう……?


「ご、ごめんなさい……えっと〜じゃあそのお花を下さい」


「はい、少々お待ちください」


さすがプロの店員さん、綺麗なお花です!これならトモカさんも喜んでくれるかもしれません


「お待たせ致しました、また起こし下さい。ありがとうございました」


売店をあとにしてエレベーター方面へと移動してボタンを押した。ふとお兄ちゃんからプレゼントしてもらった腕時計を見ると、五分も遅れてしまっていた!


うう……お花選びは難しいです。皆さんをお待たせしてしまって罪悪感が込み上げてしまいます……


……まさかこの腕時計が形見になってしまうなんて、思わなかったし未だに信じられないです。あんなに強くて優しかったお兄ちゃんが……


ダメです、今でも思い出すと涙が出てきそうになります。


最初にユマリお姉さん達からお兄ちゃんは行方不明と聞かされた時から、なんとなく察しはついていました。皆さんがとても辛そうな表情をしていたからです。


皆さんの悲しい気持ちがミナトにも伝わっていました。それでもミナトを悲しませまいとお気遣いしてくれた事が素直に嬉しかったです


そんな優しい人達に甘えてばかりはいられません、ミナトからも歩み寄らなければ!

その第一歩はアカリさんとの和解、でもお兄ちゃんに言われた通りアカリさんには真実を言わないようにしないと


??


トモカさんの病室から声が聞こえる……これは……アカリさん?


「お父さんもお母さんもだよ!なんであんな人の事を許せるの!?お姉ちゃんをこんな目にあわせたのに、あの人はこの人を庇うような事してたんだよ!?この人がお姉ちゃんを殺そうとしてた事も知ってたのにそれをずっと黙ってて、私たちの前に平然とした態度で毎日現れて……毎日毎日……!」


「お姉ちゃんじゃなくて……あの人が傷つけば良かったのよ!!」


っ!?


「今更死んでも遅いよ!こんな思いするくらいなら最初からあんな人なんかいなければ良かった、関わらなきゃ良かった!……あんな人、死んで当然ーー」


ガラッ!


パチン!!


「ミナト……さん……」


「なにも知らないくせに……!お兄ちゃんがどんな思いであなたと接していたかも知らないくせに!お兄ちゃんの存在を否定するなんて許せない!!」


病室から聞こえて来たアカリさんの言葉、気づいたら私はドアを開けてそこに居たアカリさんの頬をめがけて手を振るっていた。


"あんな人なんかいなければ良かった"


今までのお兄ちゃんと過ごして来た日々を、お兄ちゃんが生きてきた証の全てを否定するような事を言って……


あなたに何が分かるの!?


「お兄ちゃんはいつだって皆んなの事を大切にしていた!あなたの事だって大切にしていた!!あなたは気づいていましたか?!二人の関係をなるべく悪化させないようにと、ユキタカお兄さんの代わりにお兄ちゃんがあなたからの憎しみを受け続けてた事を!!」


「え……?」


「ミナトちゃん……!」


「どれだけあなたから罵られようと、お兄ちゃんはあなたの事を大切にしていた……それなのに……それなのにあなたはお兄ちゃんの事を!!」


私は思いつくままの言葉を発したが、やがて怒りより悲しみが上回り声を出す事もできなくなってしまい、言葉が詰まる……


「あの人……が?」


「リュウ兄……!」


お兄ちゃんごめんなさい。

約束を破ってしまいました……でもどうしても許せなかったんです、大好きなお兄ちゃんの存在を否定された事が……!


ごめんなさい……ごめんなさい……!!


愛する人の存在を否定された事と、愛する人に許されたいのにその人が二度とかえらない事に絶望と悲しみと、約束を果たす事ができなかった自己嫌悪に陥り頭の中がパニック状態になる


そんな私をミツキお姉さんが支えてくれたけれど、その優しさに答える事もできずただその場で泣く事しかできなかった


「そんな……じゃああの人はわざと……」


「アカリ、あの方の言う通りだ。彼は最期までお前やトモカを大切に思ってくださっていたんだよ」


「……お願いよアカリ、これ以上彼の存在を否定しないで……」


ミツキお姉さんは震えた声でアカリさんに訴えかける。ミツキお姉さんの顔を見ることができないけれど、きっとミナトと同じように涙を流しているに違いありません。


"もう泣くなミナト"


昔そう言ってくれたお兄ちゃんの声がミナトの中でずっとずっとこだまし続けた……











ーー数時間後、ナルミ家ーー




「ミナト、夕飯できたわよ」


「はい……ありがとうございます……」


あの後、アカリさんは私達が帰るまでずっと涙を流しながらニシミヤご夫妻に泣きすがっていた。その時、アカリさんは「ごめんなさい」と何度も何度も悲痛な声で謝り続けていましたが、それを誰に言っているのかはアカリさんにしか分かりません


仮にその言葉をミナトに言っていたとしても、しばらくの間それを受け入れる事はできそうにありません……


今日もお夕飯を作りに来てくれたユマリさんの呼びかけに答え、ミナトはいつもの席につきました

「いただきます」と言ってお箸を持ちましたが、お料理を口にする事はできませんでした。


「……ミツキ達から話は聞いたわ、やっぱりまだ食欲戻らない?」


「ごめんなさい、せっかく作って頂いたのに……でも、ちゃんと食べます!」


「無理しなくて良いのよ、自分のペースで食べなさい。兄さんもそう言っていたでしょう?」


"慌てて食べると食事の美味みを損なう事がある、だから自分のペースで食べなさい"


ユマリさんの言う通り、お兄ちゃんに何度かそう言われた事があります。おかげでいつも美味しく食べられていました。


「あの、ユマリさん、今日はうちでお泊まりしてくれませんか……?なんだか一人でいるのが怖くて……」


「分かったわ、夕飯食べ終わったら着替えとってくる」


「ありがとうございます……」


今現在、先程のアカリさんとの一件で、家族をまた一人失ってしまったような感覚がミナトを襲っています。お兄ちゃんとの約束を破ってしまったあげく、アカリさんとあんな事になってしまって……ミナトはどうすればいいのか分かりません。


「ユマリさん、ミナトのした事は間違っているんでしょうか?あの時はアカリさんの言っていた事が許せなくてあんな事をしてしまいましたが、今ではお兄ちゃんとの約束を破ってしまった事やアカリさんと不仲になってしまったことが悲しいです……」


「……さあ、どうかしらね。一つだけ言える事は私がミナトと同じ立場だったら、きっと私も同じ事をしていたという事よ。アカリ、兄さんの存在を否定したんでしょう?そんな事言われたら私だって不愉快過ぎてひっぱたくわ」


……アカリさんを叩いた時の感覚がよみがえってきます


「でもそれが正しいかどうかは自分で決めれば良いんじゃないかしら?アカリを好きだと言う人からしたら、間違っていると言うかもしれないし、兄さんを好きだと言う人なら間違っていると言わないかもしれない……明確な答えはきっと無い、だから自分で決めて良いんだと思う……私はそう思うわ」


自分で決める……


「じゃあ、そのせいで仲良しだった人と険悪になってしまったらどうしますか?」


「私が答える事は簡単よ、何が大切なのか私はもう決めているもの。どうしたら良いのかはあなたが決めるべきだと思う……兄さんならきっとそう言うでしょうね」


確かにお兄ちゃんならそう言うかもしれません……


ミナトは……


「……それじゃあ、今度は私から質問するから答えてみて。ミナトは兄さんの事が好き?」


「勿論です!」


「じゃあ、アカリの事は好き?」


「好き……でした。でも今は先程言っていたアカリさんの発言に憤りを感じます……だから、許せません」


「そう……なら今はそれで良いんじゃないかしら?自分の気持ちに素直でいるべきよ」


"どんな時でも自分の気持ちに素直でいろ、その方がきっと後悔せずにすむ"


いつもお兄ちゃんはそう言っていましたそしてそれを貫き続けていた事も知っています。ミナトはそんなお兄ちゃんが大好きでしたし尊敬していました。


そうです、ミナトも素直になると決めたんです!

だからミナトはお兄ちゃんに自分の想いを……


「……今はアカリさんを許しません、でも許せる時が来たら許そうと思います……それが間違っていると思われても、ミナトはそれまで許しません!」


「なら、アカリの事を嫌いになった?」


「今は分かりません、でもミナトにとってアカリさんは今でも家族だと思っています。だからいつかきっと仲直りしたいです」


「そう……そうね、今はそれで良いと思うわ。でもこれだけは忘れないで、ミナトも兄さんみたいに素直で優しい人でいてほしいの……兄さんが愛したミナトでいてね」


「ユマリさん……はい!それだけは決して忘れません!お話を聞いてくれてありがとうございました!」


ミナトがお礼を言うと、ユマリさんは優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくれました。お兄ちゃんに撫でられた時の事を思い出して少し悲しい気持ちになりましたが、嬉しい気持ちにもなりました。


ミナトの判断をきっと誰かが否定するかもしれません、でもミナトは決めました。何が一番大切なのか改めて実感したからです。

ミナトはお兄ちゃんを愛しています、この世界の誰よりもお兄ちゃんの事が大好きです。そのお兄ちゃんの存在を否定したアカリさんを今は許しません。でもアカリさんがそれを撤回すると言うのならアカリさんを許します。


……ミナトにそんな権限は無いかもしれませんが、これがミナトの答えです。


お兄ちゃん、約束を破ってしまってごめんなさい。

お兄ちゃんが大切にしてきたアカリさんにあんな事をしてしまってごめんなさい。


それでも……それでもミナトを許してくれるのなら、どうかそんなミナトをずっと見守っていて下さい。


いつかきっとお兄ちゃんが認めてくれるような、立派な女性になります。約束です!


今度は絶対に約束を破りません……!

















あの日から兄と慕い始めたけれど、それは偽りの想い


あなたはそんな私でも受け入れてくれた


妹として?友として?家族として?


けれど私が望むのは、それらの想いではなく、一人の女として見てほしい……一人の女として想ってほしいの……


私の本当の想いは


あなたを一人の男性として慕い想い続けてきた事……



次回、一つの物語〜悪夢・ユマリ編〜



溢れ出すこの想いをどうすれば良いの……


リュウ君……








次回掲載日12月27日予定


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