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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜悪夢編〜
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悪夢・ユキタカ編

"お前の居るべき場所はトモカの隣だ。あの子の傍に戻ってやれ"


リュウ兄……トモカ……


ホーリーヘヴンの一角にあるメディカルルーム、その一室の天井を見ながら俺は兄の言った言葉を思い出していた。


そして、愛する人の笑顔も同時に頭の中でフラッシュバックされる。

屈託の無い笑顔、愛おしい微笑み、それを奪ったのは他の誰でもないこの俺だ。


リュウ兄は最後まで俺を止めてくれようとしていた、なのに俺は力を欲するあまり、多くのものを傷つけ裏切った。


愛する人さえこの手で……


あの時にはもう戻れない……俺はなんてことをしちまったんだ!

頭の中で繰り返される後悔と、正しいと思っていた自分の愚かな行い、これ程時を遡りたいと思った事はない


変えられない現実ってやつはこんなにも辛いのかよ……なにが覚悟だ、何が守りたいだ!何も守れず失うばかりじゃねぇか!!


「くそっ!」


「あら、目が覚めていたのね」


扉が開くと同時に聞きなれた声がした


ユマリ姉?


「どうして、ここに?」


「あなたのお見舞いよ、兄さんができなかった事をしに来ただけ」


なるほどね……


リュウ兄の事はここへ来た次の日に知らされた。

レッカとゼンと共にあのバカでかい兵器の一撃をくらい3名とも死亡したと伝えられた。


「ユマリ姉、あの……トモカは?」


「まだ意識が回復してないわ、けれど傷口は完治したみたい……兄さんもそう言ってたし」


「そっか……」


言葉につまる。

今更何を言ってもみんなには伝わらない、俺がした事は取り返しのつかない事なのだから

けど、言わずにはいられないし、言わなきゃいけない事だと思う


「あ、あのさ!そのーー」

「謝罪をしたいのなら私だけではなく、皆んなにするべきでしょう?その言葉は今は聞きたくないわ」


正論だ

今謝罪してもユマリ姉だけに謝っただけでみんなに謝った事にはならない。


「兄さんは……最後まであなたや紅たちを殺そうとはしなかった。私はそんな兄さんの思いを無駄にはしたくない……だからこれ以上幻滅させないで。そして……怒らせないで」


キッと睨みつけてくるユマリ姉の瞳には僅かに涙を浮かべていた。俺はそんな顔を見て何も言えずにただ俯く事しかできなかった……ごめんと言おうとも思ったけど、口には出せない。


いや、今の俺にはそんな事を言う資格もない


「それじゃあ、私はもう帰るわ……あなたは本来なら拘束されてる身、それを忘れないで」


分かってるよ、そんな事……


ユマリ姉はそう吐き捨て部屋から出て行った。


再び一人になった俺は、孤独を感じずにはいられなかった……話し相手がいる事に幸福さえ感じる。俺はこんなにも弱かったのか?


トモカ……


今一番話したい相手は彼女だ

"彼女"と言ってもいいのかどうかは分からないが、せめて今だけはそう言わせてほしい


ーー


ーー


ーー


ーー



ーー数ヶ月前のとある日ーー



「ユキタカ君、どうしたの?そんなにじっと見つめて」


「い、いや!俺って幸せだなぁと思ってさぁ、こんな可愛い彼女がいるって思うと嬉しくって」


「は、恥ずかしいよ……でも嬉しい、私も幸せだよ」


そう言ってニッコリと微笑むトモカはまさに天使だった。周りからもそう呼ばれてるし、その天使様が俺だけのものに……くぅー!!


「うぇー!ユキタカお兄ちゃん気持ち悪ーい!りゅういちお兄ちゃん、またユキタカお兄ちゃんが腑抜けた顔してるよー!」


ふ、腑抜けた顔って


「ほっとけ、そいつはいつもそんな顔をしてるんだから」


「し、してねぇよ!!」


キッチンで作業をしているリュウ兄が吐き捨てるように返答したので、俺は反射的に反論を口にする


「アホなやつがアホ面してるのは当たり前の事だろう?そんな当たり前の事を言って何が悪い」


ひ、ひでぇ!!あんまりだ!!


「あっははははは!!」


「笑うなぁ!!このプチデビルめ!!」


「はあ!?私のどこがデビルなのさー!!」


「全部だ、ぜんぶ!!」


「ま、まあまあ……アカリの代わりに謝るから許してあげて?」


俺たちをなだめるように仲介してきたトモカに、思わず反論する


「トモカが謝る事じゃないさ!こいつが謝るべきなんだよ!こ・い・つ・が!!」


「やかましい。醜いぞお前たち」


「だって!」

「だって!」


「それにユキタカは"一応"年上だろ?それに相応しい対応をしろ。アカリちゃんもこんなやつにそこまでムキになって言い争うな、底辺に見られるぞ」


確かに……って、なんか貶してないか!?


「ぶー……ちょっと納得いかないけど、りゅういちお兄ちゃんがそう言うなら……」


「やれやれ、お前たちも少しは成長しろ。僕は兄として恥ずかしいぞ」


「わ、悪かったな。できの悪い弟で……」


「なんだ分かってるじゃないか、ならきちんとしろ。アカリちゃんも僕の義理の妹になるんだから少しは大人の女になれ、そのままじゃただのじゃじゃ馬だぞ」


うぇーい、じゃじゃ馬だってよ!


「ムッ!今なんかバカにしたような顔した!」


鋭い……けど、ざまあみろ!


「ユキタカ、お前もだぞ」


「うっ、分かってるよ……」


「素直に一歩引き、きちんと謝れる勇気を出せ。さもないとただの歳を重ねた出来損ないの肉塊になるぞ」


言ってる事は分かるんだけど、中々できないのが現実なんだよなぁ

つい頭に血がのぼると言うか、冷静さを欠かしてしまうと言うか……


あれ?お、同じことか?


「うわー、何かそう言われると確かに嫌な響きだなー……以後気をつけまーす!ごめんね、ユキタカお兄ちゃん」


「え?あ、ああ……俺も、その……悪かったよ……」


不意に素直に謝られて驚いてしまった

なんだ、素直に謝れるじゃねぇか。最初からそうしてれば、見た目的にはトモカとそう変わりないのに


「さすがリュウイチお兄さんですね、まるで私たちの本当のお兄さんみたい」


「トモカちゃんもだぞ、僕がお前たちの義理の兄妹になれるよう努力しろよ」


「り、リュウ兄!恥ずかしい事言うなよな!!」


ちゃっかり重大な事をサラッと言いやがって


「お兄ちゃん!お兄ちゃんはミナトのお兄ちゃんだという事を忘れないで下さいね!?ミナトを放置しないで下さい!」


「そんな事する訳ないだろう、ミナトはこいつらと違って注意しなくてもしっかりしてるって事さ」


差別だ!なんか差別的なものを感じるぞ!!

リュウ兄の隣に座っていたミナトがそう言いながらリュウ兄に掴みかかった。


「ダメです!ミナトもちゃんと躾て下さい!」


「……ミナト、その言い方だと下手をすると勘違いされてしまうぞ?」


「もー!!二人で仲良くしないでよー!私の事もちゃんと見てよー!」


「な、なんでお前まで?って、くっつくな!」


……


……


……



ーーそして、現在ーー



……謝る勇気か……

俺にそんな勇気があるのかな


そうじゃないよな、自らその勇気を振り絞るべきなんだよな


到底相殺しきれないだろうけど、ちゃんと言わなきゃいけないんだ!

みんなにも、トモカにも!


それに、アカリちゃんにも


アカリちゃんは絶対許してくれないだろうな、トモカをあんな目に遭わせちまったんだから……俺がアカリちゃんの立場だったら、絶対復讐するし


復讐か……そっちの面でも覚悟しておかないといけないよな。本来なら粛正されてもおかしくない立場なんだし、それくらい自覚してないといけないことなのに、俺は心のどこかで許してもらいたいという気持ちがあるのかもしれない


なんて情けねぇんだ!


なんで俺はこんな……いつもいつも、間違えてばかりで、リュウ兄やみんなに迷惑かけてばかりで……!


くそっ!


くそっ!


「トモカぁ……!トモカぁ……!!」


ごめん……トモカ……みんな……



俺は独り、孤独な空間でみんなに謝り続けた……













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