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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜悪夢編〜
80/112

悪夢編

「はあ……はあ……」


「はあ……はあ……不殺か……確かリュウイチがそんなような事を言っていたな……」


……小馬鹿にしたように言うレッカを睨みつけながら剣を向ける……お互い息を切らしているところを見ると、レッカは私とほぼ同じ実力って感じね


「だから何よ……はあ……だからと言って手加減なんてしないわよ……はあ……」


「ふっ……だとしたらやはりお前と私はほぼ同レベルという事か……しぶといやつめ……」


レッカはそう言いながら剣を下ろした……なに?油断を誘おうとしているの?


「……お前はなぜそこまでリュウイチに従えるのだ?不殺を貫き通さなければ、お前も私も無傷とは言えないはず……」


え……?


「私はお前を殺す気で剣を交えている、その殺気はお前も感じているはずだ……それなのになぜそこまで……」


「……強いて言えば、彼を信頼しているからかしら……リュウイチが私たちを信じてくれているように、私たちもリュウイチを信じてるから」


「信頼か……リュウイチの信念を聞いたとき、私は正直それをバカにしていた。ただ夢を見ているだけで現実を見ようとしていないと……しかし、あいつと何度か対面し、お前たちとのやり取りを見ていたら、そんな気も何処かへ行ってしまった」



この人……もしかしてリュウイチの事を……

……ダメ、相手の作戦かもしれない"どんな時でも気を抜くな"……よね。


「私には信念というものがない……だから少しお前やアイツの事が羨ましく感じる」


「……いつだかリュウイチが言っていたわ、あなたはどことなく迷っているように見えると……」


「迷いか……確かに今の私にはその言葉が的確なように感じる……悔しいな、見透かされてるような気分だ」


「あなたは慣れていないからよ、リュウイチの性格に……彼はそういう人よ」


レッカから敵意を感じない……きっと私もそう思われているかもしれない。でもお互い剣を握ったままだ


「……雌雄を決しよう。私たちの信じるものと、お前たちの信じるもの、どちらが上か勝負だ!」


レッカは意を決したように剣を構え、再び駆け始めた。私はそれに応戦し攻撃を防ぐ


レッカ、あなたは間違っている……!


「気持ちに優劣の差なんてないわ!」



アサギリ流!



「はあああ!!」


月閃(げっせん)連光刃(れんこうじん)!!」


「ぐぅっ!!」


はあ……はあ……なるべく急所は外した……はあ……でも相当なダメージを与えたからしばらくは動けないはず……


「レッカ、これが私のリュウイチに対する信頼の証よ……!」


「くっ……!……ふふ、見事だ……」


レッカは剣を離し、その場で倒れ伏した……私も緊張の糸が切れたように片膝をついてしゃがみこんでしまった。


り、リュウイチは……?


私は辺りを見渡し、彼の姿を探す……

……良かった、無事みたい……


彼の姿を確認し安堵する。サツキたちも合流したみたい、彼のそばには倒れたユキタカとアウラと、それを見るサツキとアカリちゃんの姿があった。アカリちゃんがリュウイチに何か言葉を発している様子だけど……大丈夫かしら……?


「……おい、お前……」


「……ミツキよ」


「ミツキとやら、早くこの場から去れ……アレが来てしまう!」


え?


「急げ!……間に合わなくなる!」


私は咄嗟にもう一度リュウイチの方に目をやる……彼は上を見上げ、驚愕している様子だ……なに?

彼の見上げている方に目をやると大雨の雨粒だけではなく、その上から何か大きな影が薄らと見える……なんなの……あれは?


『こちらリュウイチ!ホーリーヘヴン、紅、どちらも全員この場から離れろ!』


「どういう事なの?!あれはなに!?」


『あれは……粛正(レギュレーション)だ!!』


粛正……?

まさか、賢者達が極秘裏に総力をあげて作り出したっていう噂の巨大兵器の事!?


リュウイチは怒鳴るように指示を出しながらユキタカとアウラを抱えおこし、サツキたちと共に私の方へと駆け寄って来た


「急げ!この場からなるべく遠くへ離れるんだ!!なぜあんな物がここにあるのかは分からないが、それを考えてる暇もない!レイ、紅と隊員たちと共に時空間魔法でなるべく遠くへ飛べ!」


「了解しました!はあ!」


「ミツキ、サツキ!お前たちはユキタカを頼む、こいつを連れてとにかく遠くへ走れ!」


「り、了解!……しっかり、ユキタカ君!」


私とサツキは二人でユキタカを肩に担ぎ、リュウイチの言うように走り出す


「本部、聞こえるか!こちらリュウイチ!本部!」


『ざーんねん!通信は私がジャックしちゃった!★』


ミソラ!?どうして彼女が……!?


「チッ!やはり貴様らの仕業か!なぜあんな物をここへ召喚できたんだ!」


『カイ君たちに()()()()()()()に頂いたの!すごいでしょ?私たちが表で騒ぎを起こしてる間、リュウガ様があれを転送したのよ。勿論本部には気づかれないよう偽物を作って代わりにそれを置いておいたの、それもリュウガ様があっという間におやりになったのよ、すごくない??★』


嘘でしょ……?空を覆い尽くすような巨大な兵器を転送したって……!?


「馬鹿な事をしやがって……!カイ、ユマリ、今の無線を聞いていたな?お前たちも離れろ!」


「リュウイチも早く!」


「分かってる……あれはレッカか?ミツキ、お前たちは先に行け!僕はこいつとレッカを連れて空間転移する、急げ!」


リュウイチに促されるまま、私たちは全力で走った!


……しかし、走っている途中でリュウイチの姿が無い事に気付き、咄嗟に振り返る


「リュウイチ!?」


アウラがリュウイチの腹部に手を押し付けている様に見えた……でもそうじゃなかった、以前受けた傷にアウラの手が突き刺さっていたのだ。


「ぐうっ!!」


リュウイチの腹部から鮮血が飛び散り、彼はその場でアウラとレッカ共々倒れ込んだ


「リュウイチ!!サツキ、ユキタカをお願い!」


「え、みぃ姉!?」


私はリュウイチに駆け寄ろうとしたとき、リュウイチが痛みを堪えながら大声をあげた


「来るな!!……くっ!お前たちはそのまま走れ!僕たちは空間転移をーー」

「させないぞ……ナルミぃ!!」


あれはアンチマジック!?


「我が身滅びようとも、せめて貴様だけは道連れにする!!我に賛同せぬ者は消えよ!!」


リュウイチの呼びかけに促され思考と行動が混乱し、その場で立ち止まってしまった

……だ、ダメ!立ち止まっていたら……っ!?


不意に空が明るくなって私は無意識の内に空を見上げた……あれは太陽の光じゃない、粛正の光だという事に気付く


「リュウイチ……!」


ブン!!


ガキン!!


リュウイチの方へ目をやると同時に、何かが私たちの居る近くに飛んで来てそれが地面に突き刺さった……あれは、黒百合と白百合……?




な、なんで……




華神封壁(かじんふうへき)……!」




リュウイチが叫ぶようにそう言うと、私たちの周り一帯にバリアのようなものが発動し……そして次の瞬間……




『さよなら、死んでね★』




ミソラの残酷な声と共にレギュレーションが発動し凄まじいエネルギー波が降り注ぐ



バリアが張られたといい、地震が起こったようにその場が大きく揺れた

その揺れに耐えられず、その場にしゃがみこんでしまう……そんな私はリュウイチの方をずっと見つめ続けた……彼は光に包まれどんどん姿が見えないくらいの光が降り注いだ







「りゅうくん!!!!!!!」

「リュウイチ!!!!!!!」

「兄さん!!!!!!!」



ーー




ーー




ーー





『あらら?発射口付近にダメージが……レギュレーション(粛正)の発射と同時にリュウイチ君が放ったチャージショットが直撃したのね……あのエネルギー波で消し去れないくらいの威力なんて……流石リュウイチ君ね……でも当の本人は消し飛んだみたいだけど★』


「リュウイチが……そんな馬鹿な事が……!」


『ん?カイ君にとっては願ったり叶ったりじゃないのかしら?』


「ふざけんなっ!んなわけねぇだろうがぁぁ!!」


怒り狂ったようにカイは凄まじい剣圧を粛正(レギュレーション)に向けて何度も何度も放つが、まったく傷ついていなかった


『無駄無駄★でもリュウイチ君の放った攻撃は結構効いたみたい、発射口にトラブルが発生してあなたたちにトドメをさしてあげられないの、ごめんね……まあ、その方が精神的ダメージが大きいかな!じゃあまた今度会いましょう、じゃあね★』


ミソラがそう言うと、召喚されていた粛正(レギュレーション)は姿を消し、空には円形の雲が形成され、巨大な穴からは太陽の陽射しがさしていた……


私たちがいた辺り……リュウイチがバリアを張っていた場所以外の箇所は所々大きな崖がみたいに深い穴ができてしまっている。

そして何故かユリナとユリコちゃんが剣が刺さっていた所に倒れている……一体どうして……?


リュウイチのいた所も深い穴ができている……彼の姿は確認できない………リュウイチは……彼はどこ!?


私だけではなく、ユマリたちもリュウイチがいた所に駆け出した。


「おい、ユリナ、ユリコちゃんしっかりしろ!なんでユリナたちが……? っ!リュウイチは!?あいつはどこに!!」


「兄さん!?兄さん!!」


「リュウイチ隊長!!聞こえますか!?リュウイチ隊長!!……ダメだ、無線でも応答が無い!」


「こちらカイ!本部、きこえるか!?本部!」


『こちら本部……聞こえます』


「リュウイチは!?あいつのバイタルサインはどうなってる?!」


『リュウイチ様のバイタルサインは……完全に沈黙……して……います……うぅ……!』


「そんな馬鹿な事があるはずないでしょ!!もっとよく探しなさい!!探索範囲を広めるのよ!!それとレスキュー隊と捜索隊をよこしなさい!」


『了解……!』


この崖の下にいるかもしれない!何とか降りられないかしら

私はそう思いながら辺りを見渡すと、ハクが後ろから抑えてきた


「ミツキちゃんダメ、よく見て!辺りの地盤が脆くなってる、下手に動いたらあなたも穴の中に落ちてしまう!」


「離して!リュウイチを!リュウイチを早く探さなきゃ!!」


「ミツキちゃん!!落ち着いて!」


「レイくん!時空間魔法であたしをこの下に転移して!早く!」


「何を言っているんですか!!下がどうなっているかも、どれくらい深いかも分からないんですよ!?そんな事できるわけがないでしょう!」


リュウイチ……!


リュウイチ……!



……




……




……




ーー数分後ーー



レスキュー隊と捜索隊が到着し、未だ行方不明のリュウイチの捜索が始まった。

私とユマリは捜索隊たちと一緒に大きな穴の中へと降りていき、やがて底に着き急いで辺りを捜索する


「リュウイチ!どこにいるの!?リュウイチ!!」


「リュウイチ隊長!!聞こえますか?!リュウイチ隊長ー!!」


お願い、無事でいて!お願いよ!!




……っ!?


小さなライトの光に何かが反射した!

リュウイチなの!?


しかしそれはリュウイチではなかった……そこにあったのは……大きな血溜まり……


「ま、まさか……まさか!!」


「こ、これは!?おーい、こっちに来てくれ!」


「まさか……これは……兄さんの……?」


「この辺りをくまなくさがせ!」


そんなはずない、そんなはずない、そんなはずない、そんなはずない!!


なにか、なにか他に手掛かりは!?


血溜まり付近を探していると、何かの影が見えた。私はそれをライトで照らす……


それはリュウイチが使っていた魔銃と……


所々焦げた腕だった……


その腕は肘の辺りから先は何も無い、ちぎれた跡が生々しい鮮血が……


「ミツキ隊長!?しっかり!大丈夫ですか!?」


足に力が入らなくなり、私はその場で座り込んでしまった……こんなの嘘よ……これがリュウイチのはずない……


ユマリが後ろから歩み寄ってくると、血溜まりの上に無残に置かれている腕に手を伸ばした……



「兄……さん……兄さん……イヤ……うっうぅ……!」


















ーー数時間後、ホーリーヘヴンーー



「……」


……先の騒乱で負傷した人達やユリナとユリコちゃんはメディカルルームへ搬送され、複数の紅たちもメディカルルームで治癒したのち拘留された。


そして……私たちは……


あそこで見つけた腕と血液、魔銃の残骸と僅かに採取された肉片と毛髪などを検査にまわし、その結果をリュウイチの執務室で待っている……


ミナトちゃんにはまだ知らせていない……


「……ユマリ、着替えなくて良いのですか?」


「……」


レイの質問にユマリは答える事なくずっと俯き、腕組みをする様に両腕を抱えている。

その服には体力の血液が染み込んでいる……私も似たような状態だが、着替える気にならずここにいる……


しばらくするとドアが開く音が聞こえ、私たちは敏感に反応しその方向へ目をやる……入って来たのはマスターだった


「マスター……!何故ここへ?」


「……先ずは、先のミッションの件ご苦労さま。隊員に負傷者こそはいるものの、死者は出なかった。君たちや……リュウイチ君のおかげだよ」


……


「……それと、捜索隊が見つけた血痕とほとんど消し炭になった遺体を検査したところ、アウラのDNAと一致した……紅の死者はその一名だけで、他の者たちはみな無事だ……そして最後に……」


……っ!


「最後に……一つ……ミツキ君たちが発見した大量の血液と右腕と毛髪らを検査した結果……リュウイチ君のものと断定された」


……嘘、そんなはず!


「そんな馬鹿な!?あいつがそんな!!」


「そうですよ、そんなはずありません!!りゅうくんのもののはずないです!!」


「落ち着きたまえ!……検査の結果に間違えはない、何度も綿密に検査した結果なんだ……!あの出血量と発見された毛髪と肉片が彼のものだと判明し、その結果……特務執政官リュウイチ・ナルミは……死亡と断定された……」



……え?



そんな……



死亡って……?



リュウイチが……



「(ミツキ、それにみんな……聞こえる……?)」


っ!?

この声は、ユリナ!?どうして……


「(突然ごめんなさい、話せるようになるまで時間がかかってしまって……まだ完全に回復した訳じゃないから長くは話せないけど、みんなリュウイチの事が気になってるかと思ったのだけれど……)」


「(リュウイチの事何か知ってるの!?)」


「(……ええ、本来私とユリコが剣となっていたのは、リュウイチの生命エネルギーと連結して形態維持をしていたの。でも彼との連結が解除されてしまった……私たちが実体化したのはそれが原因よ)」


「(それって……まさか)」


「(……そうよ、リュウイチの生命エネルギーが途絶えたという事は……彼の死を意味する事……)」


「俺は信じられねぇ!兄貴が死んだなんて、んな事あるはずがねぇ!!」


ユリナの答えに、キド君は怒りを顕にし叫ぶように怒号を発する。


「(……でもそれが事実よ。そうでなければ私たちが実体化するはずがないし、彼の意識と共鳴できないはずがない……)」


「(何らかの影響でリュウイチ隊長とのリンクができないだけではないのですか?)」


キド君と比べるとキラは冷静だけど、その表情は不安に満たされている。


「(最初はリュウガの因子がリュウイチの体内に侵入したのかとも思っていたけれど、そうじゃなかった……妨害されているのではなく、単純に彼との共鳴ができなくなっただけだった……それは彼が死なない限り絶対に有り得ない事なのよ……)」


「そんな……じゃあ……リュウイチは……もう……」


「(認めたくないけれど……そういう事よ)」


「そんなの……信じられない……!兄さんが……兄さん……」



どうして……



リュウイチィ……!



















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