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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜絆編〜
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一つの物語〜絆編2〜(挿絵あり)

「…と、言う訳でリュウ兄、本当にありがとな!」


「わ、私からもお礼を言わせて下さい…!ありがとうございましたっ!」


ユキタカが両手を合わせて拝むように感謝してくる、ニシミヤもユキタカにならって頭を深く下げる……僕はなにもしてない、お前らが選んだ選択だろ。


「…僕はただ選択肢を与えただけだ、まあ礼を言いたくなるのも当たり前だけどな。この僕が直々にアドバイスしてやったんだ、ありがたく思うのも無理はない」


むずがゆい気持ちを抑えて、皮肉を吐き捨てるも、ユキタカたちはまだ礼を言ってくる。

…からかいがいの無い奴らだ


「あれぇ?りゅうくん照れ隠しぃ?顔が緩みかけてるよぉ♪」


…鋭い


「うるさい!フン…まったく世話のかかる奴らだよ」


「うふふぅ!かっわいいりゅうくん!♪」


サツキが僕の隣に来て人の頬を指で突いてくる…

ち、一々カンに触る奴だ。


「本当、兄さん素敵」


サツキが騒いでる中、ユマリがこちらに目を向けて小さい声でそう呟く


「聞こえてるぞ、ユマリっ」


僕の指摘に目を逸らしてふふ…と小さく笑った。だからその反応やめろっ


「素敵ですねぇ、一人の言葉に多くの人が幸せになる!素敵ですよね、リュウイチ様?」


レイが満面の笑みで便乗して悪ノリしてきた。この兄妹はどうやら僕に喧嘩を売ってるらしい、苦痛を与えてやろうか?大好きだぞそういうの


「やめなさい、三人とも。あまりリュウイチを茶化さないのっ」


僕のしかめっ面を見て察したのか、みぃ姉が仲介に入る。さすが一応年上、空気を読むのが中々上手いじゃないか。


「はーい♪」

「はーい♪」


レイとサツキが同時に返事をする、その口調から絶対反省していないという事が分かる。やっぱり一度しつけが必要か?


「でも兄さんが素敵なのは確かよ」


悪びれもせず反省もせず、今度は堂々と明確に発言してきた。まったくこいつらは…


「はぁ…とりあえず、ユキタカとニシミヤが改めて交際する事になったわけだ。これからは二人でミッションに行ってもらう回数を増やさないとな」


少々煩わしかったので、二人でニヤニヤしてやがるユキタカとニシミヤに白羽の矢を立てる


「お、おう!やってやる!」

「頑張ろうね、ユキタカ君」


ち、バカップルめ全然意に介していない。つまらん


「ま、頑張れよ二人とも、頼りにしてるぜ!」


カイが、爽やかに二人を応援すると二人は元気に返事をする。お前は相変わらず優しい兄貴分だな、まあ今度この二人に何かあった時はこいつに任せるのも悪くない


「な、なんだよ…?」


そう思いながらカイを見ていると、ニヤついてた僕の視線に気づいた。気にするな、あとは任せた


「いや、後任の誕生に喜びを感じてただけだ」


頑張れ頑張れ、若人たちよ


僕はおふざけはここまでにしてデスク上のモニターを操作し始めた。昨日のミッション履歴と時空間異常の通知、あと都市情報処理者の照会…


デスク上に出たホログラムキーボードを操作してその三つを調べ始める。


「ん〜?なにしてるの?」


サツキが僕の肩に両手を置いて、顔をひっつけてモニターを覗き込む…顔が近い、というか放れろ


「どっかのカップルのせいで後回しにする事になったちょっとした調べ物だよ…いいからお前は放れろっ」


サツキの顔を手で押し退けるが、反発するように顔を押し付けてくる…


「なになにぃっ?昨日のミッション履歴ぃっ?」


邪魔なんだよ、鬱陶しい…


「そんなもん調べてどうするんだ?」


結構直接的な皮肉を言ってやったのにまたしても意に介していない、ユキタカが疑問を口にする。


「ちょっと気になっただけ…ん?僕たちがミッションをスタートさせたほぼ同時刻に出撃したやつがいるみたいだな…これは…みぃ姉?」


「え?なに?」


僕の呟きに反応してサツキを押しのけ僕の隣に割り込んで来るみぃ姉が、モニターに表示されたミッション履歴を覗き込む。


「…あぁ、これ?あんた達が前に行ったランドル方面でまた時空間異常が検知されて、私の部隊と行ってきたのよ」


みぃ姉達が…ランドルへ…?


「…で、なんか被害があったのか?」


「なにも、時空間異常を検知したポイントに行ってみたけど、結局なにもなかったのよ」


みぃ姉の返答を聞いて、僕の頭の中で一つの仮説が組まれていく。


ランドルの時空間異常…セシル街道の騒動…フードの人ぶつ…いや、アンノウンの行動…戦い方…撤退方法…アンノウンの負った傷…治療方法…時空間魔法…


「…りゅうくん?」


「どうしたの?」


サツキとユマリが声をかけてくる。よせ、今は話しかけるな…僕は二人を無視して仮説をたてていく…


ランドルでの傷…セシル街道での傷…戦い方…敵は複数人………っ!?


「リュウイチ様…?」


「………」


「おい…リュウイチ?」


僕は二人の問いかけを無視して立ち上がる。


「…ちょっとユウの所に行ってくる。お前らは早く自分の部屋に戻るんだぞ」


そう言い残し、僕は執務室を出て行った。






ヘヴンの…いや、ほぼ全世界の情報を処理、保管している世界の頭脳と言ってもいいほどの情報量を有しているマザーベース…その場所と直接リンクしているエリア、僕はそこに足を運んだ。


エレベーターの中に入りその中にある認証システム、指紋照合、網膜照合、パスワードの入力。僕はそれらをクリアしていく。


「特務執政官、リュウイチ・ナルミ。認証コード00724034016」


『声紋パターン認証、認証コードの確認中』


………


『認証完了、ようこそリュウイチ・ナルミ様。ご希望エリアをお選び下さい。』


「マザーエリアへのアクセス許可を申請する」


自動音声システムのアナウンスを聞き、アクセス申請をする。


『申請を確認、マザーの認証許可を申請中…』


音声アナウンスの後、久々に聞く女性の声がした。


『あら、久しぶりじゃない。どうかしたの?』


「よう、ちょっと確認したい事があるんだが」


僕はその声の主に問いかける。


『どうぞ、今承認するわ』


助かる。


『マザーの承認を確認、マザーエリアへ移動します』


音声アナウンスの声が再びした後、エレベーターが動き出した。


エレベーターが動きを止め、自動扉が開閉する。

その先にある部屋に足を踏み入れると、そこは相変わらずすごい量のデータスクリーンが飛び交っている。


「いらっしゃい、リュウイチ。久しぶりね」


部屋の中心でデータの整理をしている人物が僕に気さくな口調で話しかけてくる。


「忙しい所悪いな、ユウ」


膨大な情報を統括するマザーの一人であるユウ、僕はそいつに軽く挨拶して、話を続ける。


「今日は特務執政官として、更に一人の男としてお前に調べてもらいたい事があってここへ来たんだ」


「久しぶりの再会なのに、相変わらず淡々としてるわね、少しは気楽にいかない?」


変わらないなこいつも…でも生憎少々重い気分でね、そうも言ってられないんだ


「お前も相変わらずだな、でも残念ながらそういう気分じゃないんだ」


「…そう、それで?何を訊きたいのかしら?」


僕の表情を見て察したのか、ユウは少し真面目な顔になったが、すぐに明るい声色に戻った。


「……」


僕は少し沈黙を作り、そして少々重い口を開く……





ーー数時間後ーー



「リュウイチ様、おかえりなさいませ」


「ああ」


執政官室、自室の前にいる受付がいつも通りの丁寧な対応をしてくる、僕もいつも通り軽く返事をした。


「リュウイチ様、サツキ様から伝言を賜っております。"また後で連絡します"との事です」


「まだ話し足りないのか、あいつは…分かった」


やれやれ、元気製造マシーンみたいな奴だ

僕はそのまま自室へ足を動かした


「おかえりなさい、兄さん」


「ユマリ…まだ残ってたのか」


どうやらユマリはあの後からずっと残っていたようだ、自分の部下を放っておいていいのか…?


「ええ、部下たちにはさっき指示を出しておいたから」


そうまでしてここに居たいのか?こいつは…


「…リュウイチさっきはどうしたんだ?なんか蒼白な顔してたが…」


「…という事は、僕はいつもそんな顔をしてるって事か?」


僕は冷たい目をしてカイを睨みつけるが、カイは少し驚いたがすぐに真顔に戻る。


「…何があったんだ?」


カイがそう言うと、レイとユマリも僕を見つめる目が変わった。二人とも真面目な顔をしている…レイさえいつもの笑顔が無い。


「…ちょっとした確認をしてきただけだ。それよりさっきモンスターが出現してたみたいだが、どうなったんだ?」


「……」


「…あぁ、それならミソラさんの部隊が出撃したみたいですよ」


ユマリとカイは黙ったまま僕を見つめている、レイが少し笑顔を戻しそう答えた。すまないな、まだ証拠が足りないから言う訳にはいかないんだ。


「ミソラが出たって事はそれなりの事件だったのか?」


「ああ…ギガントモンスターが雑魚モンスターを率いて出現したみたいだ。こっちにもマスターから連絡があったんだが…リュウイチが居ないのを聞いてミソラたちに向かわせたらしい」


カイが僕の質問に答える、その目はまだ真剣なままだ。


「被害はどうだったんだ?」


誰に訊くでもなく僕はそう言いながらデスクにあるモニターに手を伸ばし、ミッション履歴を確認する


「…前衛に出ていたミソラが負傷したみたいよ」


ユマリの言葉を聞いて、デスクにでたホログラムキーボードを操作してた指を止める。


「容態は?」


「ギガントモンスターの攻撃をモロにくらったらしい、雑魚モンスターから部隊を援護していてその一瞬を突かれたみたいだ」


カイが答えた。まだ真剣な顔は解けていない。

悪いな、まだ言えないんだ。


「ギガントモンスターの攻撃が直撃か…」


…ちょっと行ってみるか。


「…兄さん、今度は私も行く」


立ち上がった僕にユマリは決意を固めたような表情で僕の前に立つ…まあいいだろう


「分かった、でもただ様子を見に行くだけだからな」


僕の言葉にユマリは黙って頷いて見せる。頷いたあと、ユマリはレイに顔を向けた。


「……」


レイはユマリの顔を見て、彼も黙って頷く。

兄妹内のテレパシーでも送りあったのか?


「じゃあ、ちょっと行ってくる。遅くなりそうなら先に帰ってて良いぞ」


「ああ…待ってるよ」


……待ってる……ね、分かったよ。


「…また後でな」


僕はそう答え、目線を出入り口の方へうつし歩き出す。ユマリも後ろからついてくる、ユマリの目をチラッと確認すると真剣な表情をしている。


「ユマリ…準備はいいな?」


「ええ…」


ユマリを見ずに歩きながら、静かに確認すると同じく静かな返事が後ろから聞こえた。僕たち二人は再び自室を後にし、通路に出た。

ミソラの執務室は左奥だったな


「リュウイチ様、お勤めご苦労様です」


ミソラの執務室にいる受付が僕に愛想よく声をかけてくる。さすがミソラ、部下の対応にも気を利かせている。


「ああ、ミッションの件を聞いてミソラを訪ねに来たんだが…あいつはメディカルルームか?」


「それはありがとうございます。ミソラ隊長は自室にいらっしゃいます」


無駄足にならずに済みそうだ


「そうか、悪いがとりついでもらえるか?」


「少々お待ち下さい…ミソラ隊長、リュウイチ隊長がおいでです……はい、分かりました。リュウイチ隊長、ユマリ様、どうぞお入りください」


受付の返答を聞き僕とユマリはミソラの自室へ足を向ける。


「……ミッションご苦労さん、カイたちから話を聞いてな。怪我の方は大丈夫なのか?」


「いらっしゃい、リュウイチ君、ユマリちゃん。ええ、大丈夫よ。回復には自信がある事、あなたも周知の通りでしょ?」


そう、ミソラは上級ヒーラーの素質もある。ミッションで負傷した部下たちを戦地で回復したりする事もあり、部下達からの信頼を寄せられている。


「まあな、でも相手がギガントモンスターと聞いたから少し気になってな」


「あら、あなたにしては珍しいわね。直接的に相手を気遣うなんて、ついにデレたのかしら?」


僕の発言を聞いて、少し驚いた顔したがすぐににっこりと微笑んで少々皮肉を混ぜてきた。


「生憎気遣いではなく、単純に戦力の低下を気にしただけだ。下手すれば僕の方に回ってくるからな」


「……」


そう言いながら隣にいる人物にチラッと目をやると、ユマリはじっとミソラを見つめている。


「あなたらしい回答ね、でもご心配なく。職務に支障をきたすほどではないわ、あなたにも迷惑をかける事もないし、どうぞご安心を」


夕日が差し込んでおり、ミソラのいつもの笑顔がより眩しさを増している。しかし、他に笑顔が似合う奴を僕は知っていたので、特に何も感じなかった。


挿絵(By みてみん)


「…安心したわ、戦力と見ていいのね」


ずっと黙っていたユマリが口を開いた。


「ええ、大丈夫よ。ご心配ありがとうユマリちゃん」


隣にいたユマリにも眩しい笑顔を向けるが、ユマリもその笑顔になんの反応もしていない。まあ、いつもの事だが…


「こっちが被害をこうむる事態ではないようで何よりだ、そのまま僕の手を煩わせる事のないように心がけてくれ」


そう言いながら僕は出入口に足を向けると、背を向ける僕にミソラが明るい声をかけてくる。


「お勤めご苦労様」


僕は何となくその言葉に耳を傾けて、ミソラの方に少しだけ向き直る。


「またね」


逆光を浴びて少し眩しさを感じながら僕はミソラを見つめると、そう言って手をヒラヒラと小さく振った。

そんなミソラに返答をせず、黙ったまま再びドアの方に向かって歩きだし、ミソラの執務室を後にした。


その帰り、通路に出て少しした後ユマリは小さくため息をこぼした後、少々いつもより強い口調で言葉を発した。


「…兄さん、私はキョウコより格下だけど、いつでも兄さんの味方だから」


「……」


ユマリのどこか重みのある言葉を聞いた僕は何も返事をせずにそのまま自室へ歩みを進める。

…その意思を尊重するあまり、自分の身を滅ばさないように気をつけろよ。


「よう!もういいのか?」


自室へ戻るとカイがいつもの気さくな口調で僕たちに声をかける。


「ああ、確認も済んだしそろそろ帰るか」


「…そうですね」


僕の誰に言うでもない発言にレイがいつもの笑顔で返答してきた。


「…私も自室へ戻って身支度してくる…兄さん、ちゃんと待っててね」


わざわざ僕の執務室まで付いて来たユマリが、何かに釘をさすような言い方をしてくる。

…分かったよ


「駐車場で待っててやる、早く来いよ」


僕の返事に少しだけ笑みを浮かべ、早足で執務室を出て行った。


「そうだぞ、一人で行こうとするなよ…リュウイチ」


出て行くユマリを見送る僕に向かって、カイもユマリと便乗したような呼び方をする。

…どいつもこいつも


「お前らこそ、待ち合わせ時間はちゃんと守れよ」


「もちろん…全身全霊で、お守りしますよ」


レイが僕の言葉になかなか重みのある返事をする。

…本当にもの好きな奴らだ。


僕は軽いため息をついて、夕日に照らされる二人を見つめた。

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