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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜騒乱編〜
79/112

騒乱編6

ーー2日後、ホーリーヘヴン・メディカルルームーー


コンコン


「はい、どうぞ……!」


ガチャ


「一瞬トモカちゃんが返事をしたのかと思った……今日はあなた達の方が早く到着していたんだな」


扉を開けると、そこにはニシミヤ夫妻の姿があった。アカリちゃんはまだ来ていないようだな。


「おはようございます、リュウイチさん。今日も来てくださったんですね、いつもありがとうございます」


そう言って夫妻は僕に頭を下げてきた。僕はそれに嫌悪感を感じ「よしてくれ」と言って拒絶する。

ニシミヤ家に頭を下げられる道理などないからだ、どちらかと言えばそれをしなければいけないのは僕の方だしな。


僕はトモカちゃんに近づき、いつもどおり治癒術を施す……ふむ、傷口はもう完全に塞がったみたいだな。


「……リュウイチさん、傷の方は如何ですか?」


「大丈夫だ、傷はもう完全に癒えている。あとは意識回復の問題だな」


「トモカの方ではなく、リュウイチさんの傷の方です。毎日トモカに治癒術を施して頂いていた事は以前イブキ先生からお聞きしております。しかし、あなたの方は……」


おしゃべりなやつだ……いや、医者として嘘は言えなかったというところか?


「僕の方も問題ない、むず痒いくらいだ」


「あなたも怪我をしてらっしゃるというのに娘の治癒をして頂き、本当にありがとうございます……!」


ニシミヤ夫妻に感謝される度に、自分の不甲斐なさに虫唾が走る。

本当なら自信たっぷりな口調でトモカちゃんを目覚めさせるのだろうが、今はそれがどうしてもできない……故に僕は尚更感謝されるべき存在ではない……


「言っただろう、僕はあなた方にとって感謝される存在ではない、憎まれるべき存在だと」


「……やはり、あなたはわざとアカリにあの様な接し方をしておられるのですか?」


……鋭いな、トオルがそう言うと、母親であるヒカリが続けて口を開いた。


「そんなにもご自分を傷つけていいはずがありませんわ!アカリには私から……」


「その必要はない、あいつも今は精神がかなり不安定になっている。憎むべき相手に気持ちをぶつける事で気持ちを安定させているんだろう」


「でも……!!」


そう言ってヒカリは僕の顔を力強く見つめる


「今はこれで良い、それに元を辿れば僕の弟やその血族が招いた事だ。アカリちゃんの恨みたい気持ちは痛いほど分かる……それなのに、今度はその血族が自分の愛する姉を目覚めさせる希望になるなんて、混乱するのは明白だ」


「希望……?なんの事ですの?」


……ここまで言ったんだ、やむを得ないか


「トモカちゃんが目を覚まさない原因は僕の双子の兄、リュウガが原因だ。奴の因子がトモカちゃんに入り込み、目覚めの妨げになっている可能性が高い」


「リュウガの因子……?」


「分かりやすく言えばウィルスだ、奴には自分の因子を他者に移すことができるんだ。ユキタカがリュウガに乗っ取られていたのもそれが原因だ……最も殺意自体はユキタカのものだったがな……言うのが遅くなってすまない、今のあなた方にそれを告げていいものかと迷っていたんだ……だからあなた方は僕を憎めばーー」


「ありがとうございます!」


……!


「私たちの為を思ってのお心づいに改めて感謝いたします……トモカやアカリたちが言っていました、あなたは決して素直に気持ちを口にはしないが、内心では誰よりも相手を思いやれる素敵な人だと……」


アホな事を話してやがったのか、あの二人……


「だから私たちは、そんなあなたが信じているユキタカ君を改めて信じます……あなたの御家族であり……私たちの新しい家族のことを……」


……ユキタカ、良い家族を持ったな……


「……どれだけ僕たちを信用したとしても、今の僕には力をコントロールする自信が無い。だからあんたたちに不容易に期待を持たせたくはなかったんだ」


意を決して不確定要素を口にしたが、やはり嫌悪感が凄まじい……


「トモカが目覚める確率はどれくらいなのでしょうか……!?」


「分からない……確約はできないとしか言いようがない、すまない……しかし……っ!」


発言を途中で止め、僕は気配のするドアの方に顔を向ける。その異変に気付いたニシミヤ夫妻も僕の目線を辿るように扉に視線を向ける


「……何してるんですか?来ないで下さいとお断りしましたよね?」


アカリちゃんが棘で刺すような声色で言葉を発して病室に入って来た。


「……そう言われたのは覚えているが、それを了承した覚えは無いな」


……今の僕にできる事はアカリちゃんに憎しみをぶつけさせる事、やるなら徹底的に……陰湿にっ


「っ!あなたが承諾しようがしまいが関係ありませんっ!あなたに来られると不愉快なんです」


「アカリっ!」


「……そうか、だったらマスターに直訴でもするんだな、そしたら来るのをやめてやる……それまで"またな"」


僕はわざと強調して言い捨てた

……トモカちゃんたちの両親に目配せをして、それに気づいた二人は頷いて見せた。


これでいい……


二人の反応を確認した僕は、アカリちゃんの憎しみに満ちた視線を無視して病室から出て行った。

ロビーへと足を運ぼうと動きだしたとき、後ろから聞き覚えのある声が僕を引き止めた。


「おはよう、リュウイチ君……あら、だいぶ疲れた顔をしてるわね、食事と休憩はちゃんととってるのかしら?」


「そのつもりだけどな、いつもよりは身体を大事にしてるつもりだぞ」


「トモカさんに毎日治癒術を繰り返しているから疲れてるんじゃないかしら?」


それだよ、そんなことあの二人に言うなよ……


「せいぜい倒れないように気をつける、ご心配どうも……またな」


「まって、最後に一つ!……痛みが酷くなった時はいつでもいらっしゃい」


「……了解」と、渋々返答し再び歩き始めた。

さて、そろそろ戻るか……


『西地区31534ポイントで時空間魔法及び、レベル10のイレギュラー反応を探知!!各隊員は出撃態勢に入れ!繰り返すーー』


イレギュラー?しかもレベル10だと……まさか!

僕は無線機でマスターに出撃する旨を報告する。


「こちら、リュウイチ!現在発令されているミッションは僕が出撃いたします」


『リュウイチ君、大丈夫なのかい?』


傷口はもう殆ど塞がっている、任務に支障はきさない旨を述べると、少し沈黙し了承の言葉を頂いた。


「感謝いたします、では出撃します!……ん?」


扉が開く音がし、そちらに目をやるとアカリちゃんが出てくるところだった。この子も出撃するつもりなのか?

アカリちゃんは病室から出るとすぐに走り出し、一瞬目が合った……と言うか、睨みつけて来たが何も言葉を交わさず僕を追い越して行った。





ーー




ーー




ーー





ーー数分後、西地区ポイント31534近辺ーー



「第2小隊、この辺り一帯を直ちに包囲!第1小隊は私と共に奥へ進撃!気を抜かないで!」


『了解!』


「リュウイチ、これで良いのよね?」


土砂降りの雨の中、部下たちに指示を終えたミツキが僕に確認をとる、ミツキたちはまだ僕の傘下だからな。

それに対し僕は頷いてみせた。


「サツキ、お前はアカリちゃんたちと西側から、カイとユマリたちは東側から回り込め。残りは僕と来い」


「了解……兄さん、気をつけてね」


僕は「お前もな」と返答し、散開した。

イレギュラーレベル10……ミソラか、それともジュンか……それともまったくの別ものか、いずれにしても今回で粛正しなければ……


「リュウイチ、怪我の具合は大丈夫なの?」


「ん?ああ、問題ない……って、このやりとり今日で4回目だ……」


「みんなリュウイチ隊長の事が心配なんですよ、怪我の事も……アカリさんとの事についても……」


キラは悲しそうな顔をしながら僕にそう言う。

ふと見ると、みぃ姉たちも似たような顔をしていた。心配性……とは言えないか


「大丈夫だ、今はあの子も内心混乱しているんだろう、いずれアカリちゃんもいつもの笑顔になるさ……」


「私はリュウイチが心配なの!」


……


「今はミッションに集中しろ、その話しは後で聞いてやる」


僕がそう告げると、みぃ姉は唇を噛み締めて目線を逸らした。


……とりあえず今はイレギュラーの粛正だな


……


……


……っ!

この気配は、紅か!?


「気をつけろ、相当な数だ!」


「この数……どうやら囲まれたみたいですね。紅も居るとは思っていましたが、まさかここまでとは……」


総力を上げて挑んで来たか……隊を分散してきて正解だったようだな。


「これはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはキラ様ではないですかぁ!!あの日以来ですねぇぇ!!」


「ジュン……!」


こっちは相当精神が崩壊しているな、アカリちゃんとは大違いだ。


「リュウイチ、お前とこうして相対するのはこれで最後だ……今日で全てを決める!」


「紅の主力部隊か?まあまあの手練達みたいだが、僕達程ではなさそうだな」


「ふっふっふ……さすがに余裕だな、リュウイチ・ナルミ。しかし、今回は私も参戦するんだ……そう簡単にはいかないぞっ!リュウイチは私とレッカ、アカユキで対応する、残りはその他の連中を攻撃せよ!」


「ふざけるなぁぁぁ!!キラは私の獲物だぁぁぁぁぁ!!」


「ふっ……良いだろう、キラという者はジュンに一任する。彼には手を出すなよ……総員戦闘体制!」


アウラがそう指示を出すと、一斉に迫り来る紅たち。

僕たちも迎撃体制に突入する……と言っても、粛正するのはイレギュラーだけだがな


「こうなってしまっては致し方ない。いいか、紅たちは戦闘不能に追い込むだけで決してトドメまでさすなよ!キラ、ミラー、レイ!お前たち二人はジュンの相手を!ミツキはレッカを頼む、アウラとユキタカは僕が引き受ける。第1小隊は残りの紅を迎撃せよ!さあ、行くぞ!」


「了解!」

「了解しました!」

「了解です!」

『了解致しました!』


こちらが少し不利になるかもしれないがやむを得ない、僕たちはあくまでイレギュラーとモンスターの粛正をする部隊だ。イレギュラーと行動を共にしているからと言って、全てがイレギュラー化しているとは限らない。


この行動が後々裏目にでるかもしれないが……それでも僕は信念を貫く!


「リュウ兄!今度こそあんたを超える!!」


「フン、今のお前が僕に勝てると思っているのか?だとしたらとんだお笑い草だ……二人がかりであろうと僕は負けてやらないぞ」


「面白い、勝てるものなら勝ってみせよ!」


接近してくる二人に向かって、なるべく急所を外して戦闘不能にするよう魔銃を連射する。

アウラは素早い動きで攻撃を躱し、ユキタカは大剣で防ぎながら突進して来る。間合いに入った二人を右手で剣を抜き応戦した。


二人の攻撃を防ぎつつ、剣と魔銃で攻撃をしかけユキタカたちを吹き飛ばした。


「クソ!こっちは二人がかりだってのに、ダメージすら与えられねぇ!」


「私たちが思っていた以上に手強い相手のようだな!」


フン、お前たちに力量を測れるほど僕は甘くないぞ!!

体勢を崩したユキタカたち、その隙に魔銃を連射しつつ一気に距離を縮めて二人の懐に入りアウラを蹴り飛ばした後、ユキタカに斬り掛かかる。


「ユキタカ……」


「しまった!!」


「出直してこいっ!」


戦闘不能にさせるくらいの加減でユキタカを袈裟切りで斬りつけ、ユキタカの両足を魔銃をで撃ち抜いた。


「ぐああああああ!!」


さあ、次はお前だ!アウラ!!


「はあああ!!」


「私を甘く見るなぁ!!」


武装はフォースグローブとガントレットのみ、魔銃や剣は装備していないサツキたちのような典型的な格闘タイプ。遠距離攻撃をしかけつつ、相手の動きを牽制し隙をつくりだす!


ダダダ!!


「無駄だ!」


ダダダ!!


遠距離攻撃を仕掛け続ければこっちの武器は剣と格闘、だとしたら……


「くらえぇ!!」


当然接近してくるよなっ!!


「ここだ!」


「なにぃっ!?」


ナルミ流、 翔竜(しょうりゅう)煌翼剣(こうよくけん)!!


相手の大振りの攻撃を回避し、左切り上げの攻撃をくらわせた。アウラは空中にまい、その隙に魔銃で素早く追撃し両手両足を撃ち抜き戦闘不能に追い込んだ。


「貴様らには見切れまい……」


「く、くそっ……なんで、なんでリュウ兄に勝てないんだ!?リュウガの力でさらに強くなったのに……なんであいつに勝てないんだ!!これじゃぁ……トモカを守れない……!」


「それを本気で言ってるなら、お前はトモカに会う資格すらない」


「な、なんで!?」


「人を傷つける事を力だと称し、傷つける事を厭わない生き方にあの子が賛同し褒め称えるとでも思っているのか?お前は道を誤った……トモカちゃんと歩む道は今のお前では共に歩めない」


そう、トモカちゃんが望んでいるユキタカとの歩みたい道は、血にまみれた道なんかじゃない。


「(弟さんの中にあるリュウガの因子を断ち切ることができたみたいね。それならあの子の中にいるリュウガの因子も……)」


「(ユリナ……そうかもな……そうだと良いんだが……)」


僕にはまだハッキリとした自信が無い、こんな状態ではまだ……


「ぐふっ!……ふっふっふ……リュウイチ、貴様らの敗北はもう決まった……!私たちの……勝ちだ……!!」


泥水まみれになりながら地に伏したアウラが不敵な笑い声をあげそう呟いた……どういう事だ?


「りゅうく〜ん!!おまたせぇ!!」


聞きなれた声がする方に目をやると、回り込んでいたサツキたちが 無事合流できたようだ。

そこには当然アカリちゃんの姿もある……倒れているユキタカを目にしたあの子は、一体どんな事を思っているのだろう?


『こちら、カイだ!リュウイチ、待たせちまって悪いな。すぐ他の部隊と合流する!』


「ああ、気を抜くなよ」と、返答し再びアウラの方へ向き直り、彼の言っていた言葉の意味を考える


「あ、アカリ……ちゃん」


「……っ!……お姉ちゃんをあんな目にあわせた人が……気安く名前を呼ばないで!」


……結構殺気立ってるな

僕はアカリちゃんの方へ歩み寄り、アカリちゃんを宥めるように肩に手を置いた。


「あなたもです!!こんな人の肩を持つ人が私に近寄らないで!!」


僕の手を振り払い、キッと睨みつけてくる。


「この人を斬ったからと言って……その罪が消えるだなんて思わないでください」


無論僕は許されるとは思っていない、そもそも許されようとも思っていないのだから


「ユキタカ、お前のした事はずっとあの子たちの中に刻まれるだろう……だからこそ、もうこれ以上馬鹿な事はするな。力だけではトモカちゃんたちを守れはしない、絶対にな……」


「俺は……俺は……ただトモカたちを……くっ!うぅ……!」


大雨の中、ユキタカはただただ泣き叫んだ。


……この雨は、こいつの流した涙と、こいつの起こした罪を洗い流してくれないだろうか


僕はそう願うように容赦無く雨を降りつける空を見上げた……


「……サツキ、お前たちもカイたちと合流して紅たちを鎮圧しろ……僕もすぐに合流する」


「うん……分かった。アカリ、行くよ」


「……」


アカリちゃんは黙ったままユキタカを睨みつけている。サツキの言葉に耳を傾けていないのか……それとも僕の指示に従いたくないのか……どっちなんだろうな


僕は大雨に打たれながら空を見上げた、容赦なく降り続く雨……


……



……



……



……っ!?

まさか……あれは!!

























ミツキ

「一つの物語小話劇場!ねぇリュウイチ、ずっと思ってたんだけどどうしてあなたはタイトルコール言わないの?」


リュウイチ

「なんでと言われてもな、単純に僕が言う必要性を感じないし、そもそも小話劇場って付けたのもお前だろ?だからという訳ではないが言う気にならないんだよ」


ミツキ

「じゃあ、今度言ってみてよ!なんかレアな感じがして得した気分になれそう!」


リュウイチ

「言うかよ……次回、一つの物語〜悪夢編〜。ほら悪夢だってよ、だから僕は言わない」


ミツキ

「それってただのこじつけじゃない!」


リュウイチ

「じゃあまたな!」





次回掲載予定日11月20日

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