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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜騒乱編〜
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騒乱編5

「紅たちはその場にいたイレギュラーを排除したようです、でなければ大人しくその場を去るとは思えない。それと、ミソラが言っていましたがヤツの言葉をあえて鵜呑みにするのなら、そう遠くない内に奴らは何らかの行動を起こすようです……以前のように何日か経つかもしれませんがね」


「そうか……ご苦労だったね、リュウイチ君。ユウたちマザーにもその後の動向を探らせる、何かあればまた連絡するよ」


「お願い致します……では、私はこれで。失礼致します」


マスタールームから出ようと歩き始めると同時に、マスターに声をかけられ足を止める。


「リュウイチ君……今度は何を背負おうとしている?」


「……大した事ではありません、今もこれからも私のする事は私のためのものです。仕事に支障はきたしませんのでご安心を」


「友として訊いているんだ……先程も言ったが無茶だけはしないでほしい。公私共にね」


相変わらずこの人は勘が鋭い

しかし……


「私は自分の許容範囲内で行動していますので、それを超えることは致しません……お気遣い感謝致します」


心配そうな表情で見るマスターに一礼し、僕はマスタールームから退室した。


ピピピ! ピピピ!


SPDの通知音が鳴り、取り出すとその画面には一件のメッセージ受信を通知されていた。

差出人はサツキのようだ。


"アカリが話したいって言ってる……りゅうくんの執務室にいるよ"


……とりあえず執務室だな。



ーー



ーー



ーー



ーーホーリーヘヴン・執務室前ーー



「お疲れ様です、リュウイチ隊長……なんだかアカリさんの様子がいつもと違いましたが……トモカさんの容態に何か変化があったのですか?」


「いや、トモカちゃんの事とは関係ない……とは言えないか……とりあえず、回復したとか悪化したとかの話ではない。心配させてすまないな」


どうやらアカリちゃんの様子を見たアンナが不審に思ったようだ。そんなに顕著に変化していたのだろうか?


まあ、そうなってしまうのも無理は無いか


執務室に入ると一斉にそこに居た者たちの視線が僕に集まった。

アカリちゃんだけ目付きが鋭い、そして先程まで泣いていたのか目の周りが少し赤く見えた。


「……待たせたな、聞きたい事がいくつかあるだろうから一つずつ答えてやる……さあ、先ずは何から聞きたい?」


「随分潔が良いね、大事な事をずっと黙ってたくせに……!」


「おかしいな、あいつがやった事に関してはちゃんと言った筈だぞ。謝罪もしたしな」


僕がそう言い放つと、アカリちゃんの目付きが怒りが顕になった。

カイ達も眉をひそめ、黙って僕たち二人の会話を聞くつもりのようだ。


「ユキタカお兄ちゃんに……あの人に殺意があったなんて一言も言わなかったじゃん!!」


「僕はこう言ったろ?"あいつは錯乱状態で冷静を失っていた……殺意が剥き出しになるくらいに"……ってな」


「そんな軽く言うなんて……!許せない!!」


「こうも言ったな"僕を責めるに値する存在だ"……と、それに謝罪したからと言って許されたいだなんて最初から思ってもいない」


僕の発言にアカリちゃんは怒りが頂点に達したのか、立ち上がって握りしめた拳を僕に向かって振りかざし、その拳は頬に直撃し、唇を深く切ってしまったようで血が流れてきた


ミツキとユマリ、あと数人が立ち上がったようだったので、手でそれを制止した……が、それでも立ち上がったままで席につこうとしていない。


「最低……!信じてたのに!!お姉ちゃんを殺そうとしたあの人も!そんなあの人をお姉ちゃんの元に戻らせようとしたあなたも!!絶対に許さない!!」


「アカリっ!」


ドアまで駆け出したアカリちゃんにサツキが咄嗟に呼び止めた。アカリちゃんはドアの前で立ち止まり、再び僕を睨みつける。


「……あなたなんかもう兄ともなんとも思わない!二度とお姉ちゃんに近づかないで!」


そう僕に吐き捨て、執務室から出て行った。それと同時にアンナが入室して、床に座りこんでいる僕に駆け寄ってきた。


「リュウイチ隊長!大丈夫ですか?!今治癒術を……」


アンナと同じく、ユマリやミツキたちが近づいて来たが、僕は「大丈夫だ」と言ってそれらを断った。


「……リュウイチ、我慢するのは今回だけだからな……もうこんな思いをさせないでくれ……」


「カイ君……」


「そうかい……でも僕といるとまた似たような思いをするかもしれないぞ」


差し伸べてきたカイの手を掴まず、僕は自力で立ち上がりながらそう返答する。

……自力で立ち上がらなければ意味がないからな


「兄さん……こんなやり方、私は好きじゃないわ……もう二度としないで」


「リュウイチ、あなたが思っているより、私たちは気分悪いんだからね……」


そうかよ……


「そんな事より、アカリちゃんの事は絶対責めるなよ、こうなるのは当たり前なんだからな。あの子が責められるべきいわれは無い」


「……本当にあんたは変わらないわね……まあ、不器用なのは私もだけど」


ミラー、お前と一緒にするな。僕から見たらお前の方が幸せそうだぞ。


「……約束はできそうにないわ……兄さんにこれ以上傷ついてほしくないもの」


「大丈夫だ、何度も殴らせるつもりはないから安心しろ」


「兄さん、私は本気よ……」


僕の腕を掴んでいたユマリの手に力が入る

分かってるさ、でも僕はこれくらいじゃ傷ついたりしない。トモカちゃんがあんな目に遭った時からずっと覚悟していた事だからな。


「サツキ、アカリちゃんの事を頼む」


「……分かってる。でも無理しすぎたらヤだよ……?」


分かってるならそれでいい


サツキはそう言い残しアカリちゃんの後を追って執務室から出て行った。


つぅ……フォースグローブを装備した状態なのに本気で殴るとはな……まあ、それ相応の怒りだったって事か


……これくらいであいつらのバランスを保つ事ができるなら、いくらでも甘んじて受けよう。

どんな事になっても……な


ーー



ーー



ーー



ーー





ーー数時間後、ナルミ家ーー



「……お兄ちゃん、何かあったんですか?」


自宅に帰り、ミナトと食事をしているとミナトがそう質問してきた。さすが僕の妹だな、鋭い質問だ


「……まあ、兄ならではの苦悩ってやつさ」


「み、ミナトが何かしちゃいましたか!?それなら理由を聞いてちゃんと謝ります!遠慮なくご指摘ください!」


「はは、ミナトがどうこうしたとかじゃないから大丈夫だ。おかげで少し気持ちがやわらいだよ、ありがとう……ごちそうさま」


慌てるミナトを宥め、自分の食器を持ってキッチンで皿洗いを始めると、ミナトが心配そうに声をかけてきた。


「……ユキタカお兄さんと何かあったんですか?」


「半分正解だ、ユキタカ絡みだがその内解決する事だから気にしなくていい。ほら、料理が冷める前に食べなさい」


少し無理やり過ぎたかもしれないが、ミナトは黙って料理を食べ始めた。

すまないな、ミナト……


「ごちそうさまさまでした……お兄ちゃん、お風呂が済んだらお兄ちゃんのお部屋にお邪魔しても良いですか?」


食器を運びながらそう問いかけてきたミナト、視線はまっすぐ僕の目を見つめている。

僕は「ああ」と短く返答をすると、ミナトはすぐさまバスルームへと直行した。


素直なやつだな……ユキタカ、お前は少し素直過ぎだったぞ。兄さんの苦労も少しは考えろよ、アホが……


ーー


ーー


ーー




ーー数十分後ーー



コンコン……


「どうぞ」


「お邪魔します……」


入室して来たのは当然ミナトだ、これで違うやつが入って来たら驚きだな。


「お兄ちゃん、傷の具合はどうですか?それとトモカさんの容態は?」


「傷口はほぼ塞がって来たんだが、意識はまだ戻っていない……僕の傷口もだいぶ塞がって来た、心配してくれてありがとう、ミナト」


ミナトは「いえ……」と言って少しの間俯くと意を決したように顔を上げ、僕に視線を向けた。


「……あの!もしかしてトモカさんが目覚めない理由について、お兄ちゃんは何か知っているんじゃないですか?」


……


「お兄ちゃんがトモカさんの事をお話しする時、いつも視線を逸らしてます……お兄ちゃんがそうする時は何か抱え込んでいる事があるときです……ミナトにもお兄ちゃんの背負っているものを教えて下さい!」


「……降参だ、やはりミナトには隠し事できないな……ああ、ミナトの言う通りトモカちゃんがあんな状態になってる理由に心当たりがある……聞いてくれるか?」


僕がそう答えると、ミナトは黙ってベットに座って、真剣な瞳で僕を見つめた。僕はミナトと向き合うようにクルリと椅子を回転させ、話しを続ける


「実はな、トモカちゃんの意識が戻らないのはリュウガが関係しているんだ」


「どういう事ですか?」


「リュウガの因子がトモカちゃんの中に入り込み、奴が意図的にトモカちゃんの意識を遮断しているんだと思う……今朝見舞いに行った時に治癒術を施した時にそう確信した。そうでなければ僕の全力の治癒術が効いているはずだ、しかし二日間も全力で治癒術を施しても目が覚めない……それに、トモカちゃんの意識とリンクする事もできないんだ」


「それって……お兄ちゃんが以前教えてくれた今のお兄ちゃんの能力の事ですよね?」


「そうだ、意識を共鳴させる時に今の僕の全力を出せば目覚める可能性がある」


「……それをしないという事はそれなりの理由があるということですか?」


さすがミナトだな、話が早くて助かる。


「ああ……自信が無いんだ……」


「え……?」


「下手にトモカちゃんの意識に入り込むと、リュウガの力が拡散し、あの子の精神が崩壊して二度と目を覚まさなくなる可能性がある。いや、今のままだとそうなる事は確定だ……トモカちゃんを失ってしまい、あの子の家族やユキタカを更にどん底へ突き落としてしまう事になる」


「お兄ちゃん……」


「それがたまらなく怖いんだ……これ以上あいつらを落とし込みたくない、けど僕がやらなきゃトモカは目覚めない、 しかしそれに失敗してしまったら……」


「お兄ちゃん!」


ミナトがいつに無く大きめの声を出し、僕はそれに少し呆気にとられた


「ミナトはお兄ちゃんを信じています!それは昔も今も変わりません!どうしてミナトがお兄ちゃんを信じているか分かりますか?それはお兄ちゃんがミナト達を裏切った事がないからです!」


ミナト……


「だからミナトはお兄ちゃんを信じます!お兄ちゃん自身のことをもっと好きになってください!」


……誰かさんと同じ事を言うんだな


「失敗したらなんて考えない……常に成功させる事し か考えない、それがミナトの知っているお兄ちゃんです!いつも自信に満ちててとてもカッコイイ……ミナトの自慢のお兄ちゃんです!」


……


「でも……それでも、お兄ちゃんがこうして素直な気持ちを教えてくれて嬉しいです。自信に満ちたお兄ちゃんも好きですが、素直なお兄ちゃんも大好きです!」


「そうか……ありがとうミナト。僕の弱音をちゃんと受け止めてくれて嬉しいよ」


ミナトはにっこりとした笑みを浮かべながら僕に近寄って来ると、手をしっかり握りしめてきた。


「お兄ちゃん、明日ミナトも一緒にホーリーヘヴンへ行っても良いですか?トモカさんのお見舞いに行きたいんです」


「……それはやめておいた方が良いかもしれない」


「どうしてですか?」


「アカリちゃんと少しケンカしてしまって険悪な関係になっているんだ……まあ、僕のせいなんだがな」


僕がそう言うと、ミナトはハッとしたように口を開けた。


「お兄ちゃんは意味も無く誰かとケンカするとは思えません……何か理由があるんじゃないですか?」


ミナトのやつ……こんなに鋭い子になったのか、兄さん少しビックリだぞ


「……トモカがあんな事になったのはユキタカとリュウガが原因だ、しかし憎むべき者は仲間であり兄と慣れ親しんだ者……素直に恨むこともできず、責めることもできず、そんな複雑な状態が長く続くといつかは崩れてしまうだろう……だから……」


「だからお兄ちゃんが恨まれ役を買って出たということですか?」


「あの子を目覚めさせられないのも、ユキタカを止めれれなかった事も、二千年前リュウガにトドメをさせなかった事も全て僕の責任だ。そんな僕に今できることと言えば、少しでもトモカちゃんの傷を癒すか、アカリちゃんの複雑な心境の捌け口になる事くらいだからな」


「……その事、皆さんは知っているんですか?」


「多分な……」


僕は先程執務室で起こった事を思い出しながらミナトにそう答えた。


「トモカが目覚めない件は僕からいずれ話す……それ以外の事は絶対に言うんじゃないぞ」


「分かりました……その代わり、せめてミナトだけにはさっきのように素直になって下さい!ミナトだってお兄ちゃんの支えになりたいんです!」


握っていた手に力が入っている。

それだけじゃない、僅かに手が震えており表情も真剣そのものだ……少し背伸びしてる感は否めないが、それでも十分心強く感じた


「ミナトはいつだって僕の支えになってるさ、でも今日は今までより心強いって思えた。ミナトもだいぶ成長してるんだなって感じたよ」


「本当ですか!?」と、嬉しそうに微笑むミナトに、僕は「本当だよ」と答え軽く頭を撫でた。お前は良い女性になれる……きっとな。


「ミナトも……自分に正直になれるよう頑張りますから……お兄ちゃんも一緒に頑張りましょう!」


「ん……?ミナトはいつも正直だと思うが……まあ、お前がそう言うなら兄さんと一緒に頑張ろうな……そうだ、まだ寝るには早いからゲームでもするか」


ミナトは元気いっぱいに「はい!」と答えた。僕はその無垢な微笑みを見て、自然と笑顔になる……



……



……



……



















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