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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜絆編〜
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一つの物語〜絆編〜

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」


「ああ、ただいま」


我が家の玄関に入ると、いつもの様にミナトが元気に出迎えてきた。

結局あれから帰りまで僕の執務室から誰も出て行こうとせず、暗い空気を醸し出しながら全員居座っていた。こっちの事情なんてお構いなしだ、仕方ないあの事は明日辺り調査するか…


「あ、リュウ兄…おかえり…」


「ああ、今夕飯の支度してやる、待ってろ」


ユキタカは案の定暗い声と暗い表情をしている、だがここは先ず腹ごしらえからだ。

そう思いながら台所へ向かう途中、ユキタカが話しかけてくる。


「あ、あのさ…リュウ兄、オレ…」


重い口をこじ開けるように言葉を発しているユキタカを遮り僕は言葉を上乗せする


「まずは夕飯だ。ミナトもいるし、話は後でゆっくり聞いてやる。」


「……分かった」


ユキタカはおとなしく僕の発言を受け入れたかの様に再び暗い表情で俯きだした。ミナトはなんのことか分からないと言った表情をしていたので、僕がミナトに声をかける


「ユキタカは今、迷子になってるんだ。だから後で兄さんがアドバイスをしてやるんだ、ミナトは夕飯食べたら先に風呂に入ってくれるか?」


「なるほど、ユキタカお兄さんは迷子なんですね、じゃあお兄ちゃんたちが帰って来るまでお風呂に入ってお待ちしてます!」


さすが我が妹、聞き分けが良くて助かる。

再び笑顔に戻ったミナトを見て僕は夕飯の支度を始める。今晩は温かくて美味しいにくじゃがだ、待ってろよ。






「うーーーん!お兄ちゃん、甘くて美味しかったです!ごちそうさまでした!」


大満足というくらいミナトが嬉しそうに夕飯を食べ終わる、その姿を見て僕も満足した


「兄さんのにくじゃがは世界一だからな、それを食べられてるミナトは幸せ者だぞ」


誇らしげに語る僕の発言にミナトは笑顔のまま答える


「はい、ミナトは幸せ者です!では、ミナトはお風呂に入って来ます!」


僕に向かって敬礼をしたミナトはパタパタと風呂場の方に歩いて行った

うんうん、良い子だなミナトは…さて


「次は幸せ者"だった"ユキタカの話を聞こうか」


「……」


夕飯を食べてる間もずっと口を開く事はなかったユキタカは未だ沈黙を崩さない。


「…言い出し辛いか?なら僕から話をふってやる、単刀直入に聞くぞ?なんでニシミヤと別れたんだ?」


僕の率直な質問を聞いたユキタカは少し間を置き、ゆっくり口を開きはじめる


「……怖くなったんだ」


……


「ニシミヤはオレを本当に好きでいてくれてた…でもオレは、リュウ兄が言った通りその場の雰囲気で返事をした…」


……


「…はじめは付き合って行く内にニシミヤを好きになって行くだろう、そう思いながらニシミヤと接するオレをまっすぐな瞳でみてくれた…でもオレは…ニシミヤみたいにまっすぐ見れなかった…」


そうだろうな…


「そんなオレは…ニシミヤに相応しくない…そう思ったら…ニシミヤの瞳が怖くなった…だから」


別れた


「…確かにニシミヤはお前をしっかり見ていた、だったら、お前もニシミヤをしっかり見てやれば良かっただろ」


「怖かったんだっ!オレの挙動一つでその気持ちを壊してしまうのが…!ニシミヤを傷つけるのが怖かった…」


腰抜けが…


「なんですぐ諦めた?なんですぐ逃げた?言っただろ、あいつは"お前“を見ていたと、自分を好きではないと分かっていながらお前と一緒にいたいと思ってたんだぞ」


「なんでそんな事リュウ兄が分かるんだよ!」


そこまで理解してなかったのか


「そうじゃなきゃ、知り合って間もないお前に告白なんてするわけないだろうが」


「!?」


そう、ニシミヤはお前を待つ気でいたんだよ


「すぐ好きになってくれなくても良い、いつか好きになってくれれば良い、そんなお前でも一緒にいたいと思っていた…いや、お前だったら待ってても良いと思えた」



「……っ」


諦めるのが早すぎるんだよ


「…もう少しあいつを見てやってても良かっただろ、怖かったのはニシミヤも同じだよ」


「…でも、今更…もう遅い」


このガキ…やっとその気になってきたか


「アホが、ちゃんと言って聞かせないと分からないのか」


「…え?」


僕の一喝にキョトンとした顔をするユキタカ


「お前らにはまだ時間がある。怖いです、別れました、それでおしまいって思ってるなら、それは間違いだ。僕から言わせれば、そんな事はただの通過点に過ぎない。それは結果じゃない」


「お前は逃げた、でもその後からでも考えても良いんだよ。お前たちはまだお互いを理解し合っていない、し合う前から逃げただけだ。選択肢はまだ残ってる…お前に理解しようという意思があるならな」


僕の言葉を聞いて、ユキタカは少し考えるように俯く。


「まだ…考えてもいい…?まだ理解しようとしていい…?」


お前にまだニシミヤを見ようとする意思があればな…ユキタカ


「お前にはまだ、ニシミヤを理解したいと思う気持ちがあるか?」


「…僕から見たら、今のお前はそうしたいって思ってるように見えるぞ」


ユキタカの僕を見る目はさっきより澄んできていた


「オレは……まだあいつを見ていたい…っ」


やれやれ…世話のかかる弟だ…ここで少し釘を刺しておく必要があるな。


「それは今の雰囲気に流されての選択か?それとも自分で選んだ選択か?」


僕を見るユキタカの瞳はしっかり輝いている。


「オレが選んだ選択だ…!」


よし、じゃあお前がとるべき行動も分かってるな?


「オレ、今からニシミヤの家に行ってくる!」


…え、今?明日でも良いんじゃ…


「ありがとう、リュウ兄!行ってきます!」


……はは、まあそれがお前か…まっすぐすぎるほどまっすぐな奴、良い意味でも、悪い意味でもな。行ってこいユキタカ、後はお前たち次第だ。


「……もう入って来ても良いですか?お兄ちゃん?」


ひょこっと廊下からミナトが顔を出してきた

お前いつからいたんだ…?


「あ、ああ…ユキタカはちょっとまわり道して帰ってくるらしいから、入って来て良いぞ」


「良かったです!ミナトはちゃんと空気を読めたんですね!」


本当に、僕でさえ気配に気づかないんだ…本当に忍者になれるかもな


純粋に喜ぶ妹を見て、僕はミナトの未来を想像した…


ピピピ

…ん?携帯端末のSPDが呼び出し音を鳴らしている。僕はSPDをポケットから取り出す、発信者は…ユマリ?


「なんだ?ユマリ」


僕が応答すると同時にSPDから小さなスクリーンが浮かび出しユマリの顔が映り出す。


『兄さん、ユキタカの事、やっぱり上手くいったみたいね』


鋭い…


「…上手くいったかどうかはともかく、なんで分かったんだ?」


ピピピ


ユマリとの通信に割り込み通知がくる、今度は…サツキ?僕は応答画面をタップすると、もう一つ小さいスクリーンが浮かび上がり、サツキの顔が映り出す


「なんだサツキ、今ユマリと…」


『知ってる!それよりユキタカくんとの話し合いやっぱ上手くいったんだね♪』


だからなんで分かるん…


ピピピ


えぇい、今度は誰だ!…みぃ姉?

呼び出しに応じ、三度小さいスクリーンが浮かびあがり、みぃ姉の顔が映り出す


「姉妹揃ってなんだ?」


みぃ姉は風呂あがりなのか、頭にタオルを巻いている


『リュウイチ!ユキタカとやっぱり上手く話し終えたのね!バイクのエンジン音が聞こえたから慌ててお風呂から出てきたんだけど…良かった』


「あぁ、なるほど…と言う事はユマリとサツキもか?」


『そう、エンジン音聞いて連絡したのー!』


『私も』


サツキが画面越しに満面の笑みを浮かべながら答え、ユマリはいつものクール顔で答える


「…お前ら聞き耳でも立ててたのか?異様な反応力じゃないか」


『だって、兄さんを信じてたもの』


僕の呆れ口調にユマリはどこか自信に満ちた顔で答えると、みぃ姉が慌てた口調で割って入ってくる。


『わ、私だって信じてたわよ!でもサツキが先にお風呂入ってって言うから…あぁっサツキあんた!』


『えぇー??なんのことぉ??あたしはりゅうくんを信じてたからお風呂を先送りにしただけだよぉ♪』


…どうやらみぃ姉が慌てて風呂から出てきた理由は、サツキの企みによるものだったらしい。たく、同じ家に居るのになんでSPDで会話してるんだよ、お前らは


『兄さん、私が一番だった事忘れないでね』


口げんかしてる姉妹を置いて、ユマリがなんだか意味深に釘を刺してくる


「ユマリ、下手に刺激すると…」


『私だって本当だったら早く連絡できてたのよ!?リュウイチ、あなたなら分かってくれるわよね??』


ほらみろ…みぃ姉が変な闘争心を燃やしてきた…という事は…


『あたしは幼馴染の独特の余裕ってヤツ?りゅうくんの事信頼してるから、あ・え・て・余裕を持って連絡したの♪』


やっぱりお前もか…サツキ…


『…幼馴染独特って言うなら、私は愛独特の早さよ』


…コラコラコラ、ユマリさん??刺激するなと言っただ…


『あ、愛ってなによ!それなら…わ、私だって…!』


『あっれ〜?みぃ姉いきなり愛の告白ですかぁ??』


『あら…私は負けないわよ』


……もう切っていいか?

僕はため息を吐いて三人のやりとりを傍観していると…


「み、ミナトも…お兄ちゃんを信頼してますよっ!」


ミナト…お前もか


『あ、ミナトちゃん??兄妹愛は別ものだよ♪』


「サツキ…ミナトまで焚きつけ…」


「きょ、兄妹愛でも有効ですよ!!」


僕が話し終える前に、ミナトが僕の腕を引っ張って顔を乗り出してくる…


「…もしもーし?お前ら、結局なにが言いたいんだ…?」


『兄さんを信頼してるという事』

『リュウイチを信頼してるって事!』

『りゅうくんを信頼してるってコト♪』

「お兄ちゃんを信頼してるって事です!」


……あぁそう……

揃いも揃って言い合いしながらそんな言葉聞いても心に響かん…まあ、こいつららしいけどな。


…がしかし、ここで終わらず四人は主旨を忘れて言い合い続けた…そしてそのやりとりは本来の重要なキーパーソンであるユキタカが帰ってくるまでずっっっと続けていた…


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