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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜嵐の前編〜
69/112

嵐の前編・恋人

ーー同日、ホーリーヘヴン・メインエントランスーー



「トモカー!悪いわるい、ちょっと野暮用があってさ!」


「大丈夫だよ、私も今来たところだから」


……ユキタカ君、今日も面会に行ってたのかな?


「そっか……ありがとう、トモカ!さっ、リュウ兄の所に行こうぜ!」


そう言って、いつものように私の手を握って歩き始めるユキタカ君……表ではいつもと変わらない彼の笑み、でも裏ではきっとすごく不安定になっているのかもしれない……


「トモカは今日の昼飯何を注文したんだ?」


「え、あぁ、今日は少し蒸し暑いからお蕎麦にしたんだあ、ユキタカ君は?」


「マジか!?俺もそう思って蕎麦にしたんだ!やっぱ俺たち通じあってるんだな!」


本当にすごい偶然……!こんな気持ちじゃなきゃもっと喜べてたんだろうけど


「すごいね、私も驚いちゃった!」


「あっはは、だよな!俺って暑い日はなんかこう、喉越しのいい麺類を食べたくなるんだよなぁ」


「あ、分かる。私もサラッと食べられるものを選んで食べたりするの。お蕎麦とかおうどんとか……白米も食べられるけどね」


こうして好きな人とたわいのない話ができる事が幸せ……ユキタカ君とならどんな苦しい状況でも頑張れる。他の誰でもない、愛するユキタカ君だからこそ


ユキタカ君、お願いだからどこにも行かないで……ずっと私の隣にいて、お願いだよユキタカ君!


「トモカ?どうかしたか?」


「あ、ごめん……その……突然訪ねたりしたらリュウイチお兄さんに迷惑がられないかなと思って……」


私の口から咄嗟に出た言葉……とりとめのない発言をしてしまったと、少しだけ罪悪感が込み上げてきた。


「あぁ、リュウ兄なら大丈夫だよ!口では冷たい事言うけど、実際はその逆の時もあるし、それにこれくらいで怒るほどリュウ兄は冷たい男じゃないって!」


「そう……だよね」


ユキタカ君はまさにその逆だよね、口調は明るいけど心の中では苦しんでる……私にはそんな気がしてならなかった


「そうそう、だから大丈夫だいじょうぶ!!」


……?


「あれ、誰だろうお客さんか?……っ!?アンナさん!」


リュウイチお兄さんの執務室前で一人の男性がいたと思ったら、秘書のアンナさんが突然武器を手にし、その男性に銃口を向けだした。

私とユキタカ君はそれを見て咄嗟に走りより同じく警戒する。


「ユキタカさん!?……くっ!」


「おやおや、随分警戒されているな。既に正体がバレていたか……流石マザー、情報収集能力が高いな」


「アンナさん、こ、こいつは誰なんですか!?」


「紅を総括している、ゼン……本名、アウラです!」


紅の!?

私はそれを聞いて、咄嗟に警戒し構えた

……!そうか、だからアンナさんは言うのを躊躇っていたんだ……ユキタカ君は……!?


チラッとユキタカ君の方を見ると武器も構えず唖然としていた、その表情にはどこか喜びを浮かべてるようにも見えた……ユキタカ君ダメだよ!


「ユキタカ君!!」


「あ……っ!う、動くな!!」


私が呼びかけてユキタカ君はようやく武器を握り構えた……このまま接触を続けさせたらまずい!


「なぜこんな所へ!?いえ、どうしてここまで来れた!?答えろ!」


「フフ、このホーリーヘヴンのスポンサーである私がここへ来て何がおかしい?それより、もう一度尋ねるが、リュウイチ殿はいらっしゃらないのか?」


どうしてリュウイチお兄さんを……!


「ここにはいないわよ!」


そう思っていると、リュウイチお兄さんの執務室からミツキ隊長達が出てきた。そしてゼン……アウラの周りを取り囲むようにして全員が警戒態勢に入った。


「生意気に真正面から来るなんて、セキュリティが甘いのかしら?早急に改善させないと……」


「いやいや、随分と硬いセキュリティシステムだったよ、あれでは急襲する事はまず不可能だろうな……まあ、私はこうしてここへ来れたわけだがね……フフ」


「あんま調子に乗らない方がいいんじゃない……自分の置かれてる状況わかってんの?」


サツキさんは普段からは想像できないくらい鋭い目付きでアウラを睨みつけている……今のサツキさんはとても怖かった。


「スポンサー会社の社長だったかしら?それでも紅のゼンという容疑がかかってるはずなのに……こんな所へ来て、わざわざ捕まりに来たのかしら?」


「ふむ……なんの事かな??」


「っ!!」


私を含め、その場にいた……ユキタカ君以外の人たちが、改めて武器を持つ手に力を入れなおすのを感じた。体がザワつく……ユキタカ君を惑わせている張本人が目の前であざ笑うような口調で……嫌な感じ!


「フフ……そんなに恐い顔をしないでくれたまえ、私は話をしたいだけなんだがね」


「僕たちが代わりに聞いてさしあげますよ、さあ……なぜここへ来たのか話なさい。事と次第によっては痛いではすみませんよ」


レイさんも……あんな冷たい雰囲気は初めて。


「やれやれ……随分嫌われているようだな。世のため人のために戦っていると言うのに……っ!」


アウラが言い終える前に、彼の首元に鋭く冷たく光る剣先が当てられた。


「人のためだと?笑わせんな」


「カイ君!」


ハク隊長がその人物の名前を呼んだ、いつの間にか接近しカイはアウラの首に鋭く光る剣先を当てている。


「忘れんなよ、お前らは見逃されてるって事を……約束さえしてなきゃ、今頃お前らは全国指名手配されてお尋ね者になって拘束されているはずだ」


「……フン、見逃されている、か……」


「なにやら殺気立ってると思ったら、なるほどこういう事か」


「リュウイチ様!」


「フーッ!待ってましたぁ!♪」


声のした方へ振り向くとリュウイチお兄さんがこちらに向かって歩いてきているところだった。


「アンナ、拘置所へ緊急警戒態勢を出せ」


「了解です、こちらR・N.01部隊アンナ!拘置所に緊急警戒態勢を発令!繰り返します!」


リュウイチお兄さんの指示に従い、アンナさんは警戒態勢を促した。これであの人は身動き取れないはず……


「ゼン……いやアウラだったか、お前がアウラとしてここへ来れたという事は、正式な訪問か」


「流石に頭が回るな、この者たちは血の気が多くてかなわん……」


悔しいけどその通りだ……ユキタカ君に害が及ばないよう、動揺し圧迫してしまった


「どうだろうな、お前だって目の前にイレギュラーがいたら容赦しないだろ?俺らにとってお前はそれと同じって訳さ」


「気に入らんな、私をイレギュラーと同じにするとは!」


「似たようなもんだよ、俺たちからすればな!」


そうカイさんが言うと、アウラと睨み合った。二人とも目付きが鋭くそれだけを見ていると、敵意と言うより殺意が混じっている様にも見える……それほど殺伐とした雰囲気を醸し出している。


「り、了解しました……リュウイチ様、拘置所の警備隊から報告が……!」


「やはりあいつは釈放か?」


……っ!?


リュウイチお兄さんがそう聞くと、アンナさんは黙って重く頷いた……そんな、一体どうして!


「彼はイレギュラーじゃないと、私が証言したのだよ。直接……上層部の方々にね」


上層部……?マスターの事かな……?


「そんな!?マスターがお許しになる筈が……!」


「マスターではない、賢者達さ。君たちもよく知っているだろう?」


賢者達って、ヘヴンの約半分の指揮権を握っているっていう、あの賢者達?一体どうして……


「……なるほど、スポンサー会社と直接契約してるのは賢者達だったのか。マスターが表舞台に立ち注目と敬意を集める。賢者達は裏舞台でスポンサー会社と直接契約する事でヘヴンを財政的に支え、ヘヴンの権力の半分を維持し、更にその契約したスポンサー会社をいざという時に使える手駒にする……悪知恵の典型だな」


「手駒になったつもりはないがね。こちらもいざと言う時にヘヴンの権力を使い、私達の望む世界を創る……そのための道具みたいなものさ」


「使い使われの関係か……惨めだな」


リュウイチお兄さんの発言にアウラは怒りを露わにして睨みつけている……私の手にも自然と力が入り、警戒が強まった……ユキタカ君は……


「リュウ兄!俺はダイの方に向かう!ここは任せた!」


「……っ!!待って、ユキタカ君っ!」


「トモカ、サツキ!お前たちはユキタカを追え!これ以上あいつにダイたち紅を近づけるな!」


私とサツキさんはその指示に従い急いでユキタカ君の後を追う!

ううん、もしかしたら言われる前に体が動いていたかもしれない……その私の咄嗟の反応を見て、命令違反にならないようにリュウイチお兄さんが私たちに指示を出してくれたのかもしれない……もしそうだとしたら、その気持ちに応えないと!もちろん、私のためにも!


だからお願いユキタカ君、一人で先に行かないで……!


「インサイドエリアまで全力で突っ走るよ!覚悟はイイ?!」


「はい!」


私の少し先を走っているサツキさんに返答したものの……やっぱり体力面では二人には敵わない……でも走らなきゃ、前に進まなきゃ!



ハア!ハア!ハア……!



インサイドエリアまで、もう少し……ハア!ハア!



ユキタカ君……ユキタカ君……!!



「待ってくれ!頼むから教えてくれ!お前たちも裏ではヘヴンと繋がってるんだろ?!お前たちのやる事は本当にイレギュラーの粛正だけなんだろ?!」


ユキタカ君の声っ!?


インサイドエリアに着く少し前のメインエントランスで聞き慣れた声、初めて聞く声量、そんなユキタカ君の声が聞こえてきた。


「ユキタカ君!」


「……しつこい奴だな、そこをどけ」


ゆ、ユキタカ君……!


「あんたは、レッカって奴か!?紅のメンバーなんだよな?あんたでも良い!頼む教えてくれ!あんた達が望む世界は、イレギュラーがいない世界なんだよな!?イレギュラーだけを狩って世界を統治する、そのためにヘヴンとも手を組んでその活動を絶対的なものにするんだろ!?」


「レッカだって!?あの街で騒ぎを起こしたっていう……!」


「という事は、こいつも容疑者の一人か?!」


……っ!このままじゃ大きな混乱を招いちゃう!


「ダメだよユキタカ君!冷静になって!このままじゃ大きな騒ぎになっちゃうよ!!」


「面倒な事になりそうだな……」


レッカと呼ばれる仮面を被った女性は、そう小さく呟いた。


「もお……!せっかく黙ってたのに……ユキタカ君!そこをどいて、皆も!落ち着いて!そいつらとはあたし達が話すから!」


「おい!応援を呼べ!こちらメインエントランス警備隊258!エブニー襲撃の容疑者と思われる者を発見!直ちにーー!」


「あ……ま、待ってくれ、みんな!こいつらとは俺が話を……!」


「チッ!最後までうるさい奴だのぉ!」


「ダイ、向こうから手を出すまでこちらは黙っているぞ……ややこしいことになりそうだからな」


「総員、包囲!仮面を被った女はイレギュラーの可能性がある!慎重に行動し、警戒にあたれ!」


待って、みんな……!お願いだからユキタカ君をこれ以上追い込まないで!!


「皆!落ち着いて!あたしは一等粛正官のサツキ!この者たちはあたし達が抑える!皆はそのまま動かないで!」


「よ、よせ……せっかく紅についてもっと知るチャンスなんだ!頼むから邪魔をしないでくれ!」


「ユキタカ君!落ち着いて!お願いだよ!ユキタカ君!!」


「絶対に奴らを行かせるな!釈放が許可されているとは言え、奴らは街を襲撃した者達だ!警戒を緩めるな!サツキ隊長たちも離れて下さい、そこは危険です!」


「だから!!あたし達で抑えるって言ってるでしょ!?総員そこを動くな!」


「さ、サツキ姉、トモカ!ここは俺に任せてくれ!少しこいつらと話をしたいだけなんだ!頼む!!」


「おめぇと話す事なぞないわ!いいからそこをのけ!!」


「ダイ!やめろ!これ以上騒ぐな」


やめて……


「き、貴様らは動くな!総員、構え!」


「よ、よせ!やめてくれみんな!頼むから俺に時間をくれぇ!」


やめて……!


「ユキタカ君!君は下がって!少し落ち着いて!」


「お、俺は冷静だ!ただ少し時間をくれれば良いんだ!だから……!!」


「時間の無駄だ!ダイ!ここはおとなしく去るぞ!」


「ま、待ってくれ!まだ話が!」


「えぇい!やかましいわぁ!!」


「うわっ!……ま、待ってくれ!」


「なっ!?奴ら暴挙に出たぞ!総員、イレギュラー容疑者にターゲット!確保ぉ!」


「や、やめろぉぉぉぉ!!」

「やめてぇぇ!!ユキタカ君!!」




ズバッ!!




「うわーー!!」


「っく!ユキタカ君、何してんの!?味方を攻撃するなんて!!」




「ち、違う……俺は、ただ……」




「ゆ、ユキタカ……君……」




そんな……止められなかった……ごめん……ユキタカ君……ごめんなさい……リュウイチお兄さん……




「と、トモカ……!俺は……!」




「……おい、お前……ユキタカと言ったな、話をしたいと言うなら付いてこい……とりあえずはな」




「……え?」




「ダメだよユキタカ君!話にのっちゃダメだって!これ以上事を荒げたらダメ!りゅうくんを……皆を裏切るような事はしないで!!」




「裏切り……俺が?」




「お、おいお前たち……だ、大丈夫かぁ!緊急事態!メインホールに応援と医療班を送ってくれ!」




「あ、あぁ……そんな……俺は……ただ……」



「レッカ、こんな奴を連れて行くんか!?ただの足でまといじゃぞ!!」


「放っておいたらこいつはしつこく付いてくるだろう。ならいっそうの事、ここから連れ出すのだ」



「お、俺は……と、トモカ?トモカ!お前なら分かってくれるよな?!」



「……私は……ユキタカ君を……」



「トモカ……!トモカぁ!?」



「チッ!このガキ、放心状態になっとるぞ……まったくどこまでも面倒な奴だのぉ」



……っ!?



「と、トモカ……うわっ!?な、なにすんだ!」


「やかましいぞ!ちっとおとなしくしておれ!」


「ユキタカ君!!その人を放せ!紅!はあああ!」


「面白い!力比べだぁ!」



バーーン!!



力と力のぶつかり合いで、衝撃波が発生した……あのサツキさんのパワーとほぼ互角……?


「ぬぅ!力でオラをここまで……ますます面白いわ!レッカ、この男を頼むぞい!」


ブン!


「うわっ……!」


ドサッ


ユキタカ君はダイと呼ばれる男性に放り投げられ、レッカの足元に落下した。


「さ、サツキ隊長!総員、サツキ様の援護を!」


「ダメだよ!下手に動いたら被害が拡大するだけ!警備隊はユキタカ君を……レッカを狙って!」


「致し方ない……少々手間だが適当に相手をしたら直ぐに退散しろ、そうでないとお前を連れ帰ってきた意味が無いからな」



分からない……なんで……?




「と、トモカ……」




ユキタカ君……



「いかないで…………」



「っ!!…………トモカ」



お願い……置いていかないで……




「…………ごめん…………」




っ!?




どんどんユキタカ君が離れていく……私は腰が抜けたようにずっとその場でしゃがみこんでしまって動けない……


ユキタカ君は行っちゃうのに、私はここで置いてけぼり……



ユキタカ君……!


ユキタカ君……!


……うっ!ううぅっ!ユキタカ君……グスン……う、ううっ!


ごめんなさい……リュウイチお兄さん……私……ユキタカ君を……うっううう!





アカリ

どうしてこんな事に……あんなに仲良かったのに!


どうしてお姉ちゃんから離れちゃったの?

どうしてりゅういちお兄ちゃんから離れて行っちゃうの!?


二人ともユキタカお兄ちゃんの事大好きなのに!


ユキタカお兄ちゃんだってお姉ちゃんたちのこと好きだったんでしょ?!


なのにどうして……



……でも



私も人の事言えないかも……



最初はお兄ちゃんでいてくれるだけでも良かった……

でも、気づいたら私……


人の心って複雑過ぎるよ……




次回、一つの物語〜騒乱編・残された人々〜




それでも私は……信じてる……


りゅういちお兄ちゃんを





掲載日9月30日

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